第81話 「何気なく始まるデート」
怒涛の出来事での精神的疲労が癒えないまま、翌日を迎えることとなった。
現在午前11時。
いつもなら昼まで爆睡している俺だが、今日は珍しく玄関先に立っていた。
そんな俺の目の前にいたのは、昨日の疲れの原因である1人の少女だ。
俺は扉を半分開けたままフリーズする。
「こんにちは〜、橋田くん〜」
「……」
返事を返さない俺を見て小首を傾げるその少女は、何かを閃いたようにゆったりと手を叩く。
「あ、そっかぁ〜。こんにちはじゃなくて〜、おはようかぁ〜」
……悩んで出た答えがそれ?
いや、挨拶とかどうでもいいんだけどね!?
「あ、えっと……なんで篠崎さんがここに?」
「あれぇ?昨日また来るってぇ、言ったよ〜?」
俺は困惑が解けないまま、昨日の出来事を思い出す。
そういえば……また来るって言ってたな。
一応聞いてはいたが、あの時はだいふま葛藤していたからうまいこと理解出来ていなかったみたいだ。
「あ、そ、そうだったっけ」
「そうだよ〜。もしかしてぇ、何か用事とかあった〜?」
「あ、いや、特にはないけど……」
……あ、やべ。普通に返答してしまった。ここで用事があるって言っとけば篠崎さんは帰ってくれたかもしれないのに。
彼女の喋り方と声色が俺のペースを崩すせいだろうか。
「そっかぁ。なら良かった〜」
「いやまあ用事はないんだけど……篠崎さんは結局何しに来たの?」
そうだ。俺の記憶の限り、また来るとは言っていたものの、何をしに来るとは明言していないはずだ。
彼女は一体ここに何をしに来たのだろうか。
考えた末、俺は1つの答えを導き出した。
「あぁ分かった。ちさ姉に会いに来たんだよね?まだ寝てると思うけど、起こしてこようか?」
昨日だけじゃちさ姉のファンである篠崎さんには少し物足りなかったのだろう。まあちさ姉のことだし、篠崎さんが来たって言えば飛び起きそうだ。
そう思い、俺はちさ姉を起こしに家の中へ戻ろうとした。が、その時。
「え〜、違うよぉ?」
「……え、違うの?じゃあなんでここに……」
「そんなのぉ、橋田くんと遊びたかったからだよ〜?」
「え……俺!?」
俺は目を白黒させて驚く。
どうして篠崎さんは俺と遊びたがっているんだ!?理由が全く思いつかない。
ちさ姉と話したかったからじゃないのかよ。
「い、いや、なんで俺?」
「う〜んとねぇ。う〜ん……遊びたかったからぁ?」
いやいや、俺が聞いてるんだけど。
「まあ〜、何でもいいのだぁ。橋田く〜ん、遊びに行こ〜!」
そう言いながら、彼女は俺の腕を掴んで家の外へと引っ張り出そうとする。
その際に彼女は俺の腕を自身の胸に持っていったため、腕にとんでもなく柔らかい感触が伝わってくる。
これは……いかん!!
「ちょ、篠崎さん!待ってって!」
「いいからいいから〜」
いや全然よくないから!!強引すぎるから!!
俺の腕が自分胸に当たってるのに何も思わないのか!?
て、そうじゃない。
「わかった!わかったから!遊びに行くからとりあえず着替えさせてくれ!」
彼女にゴリ押しされ、思わず承諾してしまう。
まあ今日も予定はないし遊びに行くのは良いがこんな寝起きの格好では外には行けない。
そのことを察した彼女も流石に俺から手を離してくれた。
こんな大人しそうな子なのに意外と腕力あるな……それとも俺が女の子より力がないへなちょこってだけか?
そういえばちょっと体がたるんできたような……やばいな。
自分の運動不足を痛感しながら、俺は家の中に戻り、外出の準備を始めた。
5分程で支度を済ませ、玄関で待たせていた篠崎さんと一緒に家を出た。
しっかし、今日も今日とて日差しが強い。
正直外には出たくないというのが本音だが……ちょっと外で体を動かさないといけないしな。
不本意ではあるが、今日は篠崎さんに付き合って運動不足解消を図ろう。
「えっと、それで?今日は何をしようとしてるんだ?」
「う〜ん、何しようかなぁ?」
ノープランかよ……。
普通は男の方がプランを立てて女性をリードするものだろうが、今回は俺何もしなくていいよな?
何を考えているか全く分からない彼女だ。不安要素はかなりあるが、とりあえず彼女に着いていくことにしよう。
と、何も考えずに篠崎さんの後ろを着いていた時、彼女から声がかかった。
「ねぇ〜、橋田くん〜」
「ん〜、何?」
「千咲さん漫画の絵って〜、橋田くんも描いてるって本当ぉ?」
「え、ま、まあ……ちょっとだけ、ね」
実は半分くらい手伝っているが、姉の面子を保つため、控えめな表現を用いた。
「ふ〜ん、そうなんだぁ」
「……」
なんだ。なんかニコニコしたがらこっちを見てくる。
「な、何?」
「うん〜、別に何でもないよぉ?んふふ〜」
いや、何でもないことはないだろ。
本当にこの人の考えは分からないな……。
そんなやり取りをしているうちに随分と歩いた気がする。
改めて辺りを見回すと、見覚えのある隣街に入っていた。
「ねえ篠崎さん、結局どこに行こうとしてるんだ?」
「えっとね〜、ここだよぉ」
そう言うと、彼女は途端に立ち止まり、ある建物に視線を送る。
俺も彼女の視線の先に目をやった。
そこには、存在こそ知っていたがまだ1度も来たことのなかった建物が。
「ここは……っ」




