第70話 「王様ゲーム」
『王様だーれダ!!』
そんな掛け声と共に、彩乃が代表して持っている5本の割り箸をそれぞれ1本ずつ引いた。
「あ、私です!」
先端が赤く塗られた割り箸を引き当てたのは彩乃だった。
クソっ、初っ端から寄りにもよって言い出しっぺの彩乃に当たりが行ってしまうとは。嫌な予感しかしない。
「そうですねぇ……それじゃあ1番の人が変顔をしてくださーい!」
あれ?意外に普通だな。流石に序盤からぶっ飛ばしては来ないと言うことか。にしても変顔か……誰がやっても絶妙に滑りそうなつまらない命令だが、1番は誰だろうか。
「あ、私だわ」
1番の箸を掲げたのは沙耶香先輩だ。
しかし、先輩の変顔か……見たいような見たくないような。
「じゃあ先輩、お願いしまーす!」
「え、ほ、本当にするの?」
「勿論です!王様の命令は絶対なんですから!」
「ぐっ……わ、分かったわよ」
納得のいかない様子の沙耶香先輩だが、ルールや規律といったものはどうしても守ってしまうようだ。彼女は躊躇いながらも自身の両手を頬に持ってきた。
そして、表情筋をフル活用して今までした事の無いような顔を作り出す。
それは、まさに変顔と呼べるものだった。が……
「こ、これでいいでしょ!!」
『……』
数秒間の変顔に耐えられなくなった沙耶香先輩は顔を真っ赤にしながらそっぽを向く。
「ちょ、ちょっと何か言ってよ。どうせなら笑って欲しいのだけれど」
「あ、いや……あ、あはは」
俺を筆頭に沙耶香先輩以外の全員が彼女の要望に応えて作り笑いを浮かべる。
しかし、彼女の生み出した変顔には皆唖然とした。
凛々しく慎ましい立ち振る舞いをしている彼女が普段であれば決して見せないその奇々怪々な顔の中に、なんとも言えない可愛さがあったのだ。
皆、彼女のギャップにやられてしまっていた。
そして、変顔の後の照れ方もパーフェクトすぎて言葉が出てこなかった。
「あー、それじゃあ次行きましょ!次!」
「そ、そうだな。まだ始まったばかりだし、どんどんやろうぜ!」
この微妙な空気を描き消そうと彩乃と和希が動いた。
1度引き抜いた割り箸を彩乃に返し、軽くシャッフルしてもう一度引き直した。
『王様だーれだ!』
先に赤い印がついた箸を持っていたのは俺だった。
「あ、俺だ」
「おぉ、せんぱいですか!何を命令するんです?」
「うーん、そうだなぁ」
まさかこんな早くに自分が王様を引き当てるとは思っていなかったため、何をしようか考えていなかった。
王様の命令は絶対だ。地雷を踏むような命令は今後の俺の精神的な持続ダメージになるかもしれない。だからといってあまりにもつまらない命令じゃかえって白けるだろう。どうしたものか。
視線をあちこちに向けていると、あるものが目に止まった。
彼女達が買ってきたお菓子の中にあったよくある棒状のチョコレート菓子だ。
「そうだ。ポッキンゲームなんてどうだ?」
「へぇ、ナオの口からそんな言葉が出てくるとはな」
「べ、別にいいだろ」
まあ和希の言いたいことは分かる。ポッキンゲームなんて、スクールカースト上位の男女グループが行う恒例行事のようなものだ。そんなことを俺の口から聞けば誰でも驚くだろうさ。
「で?何番と何番なんだ?」
「あ、えーっとそうだなぁ……じゃあ3番と4番で」
俺の指した番号を持っていたのは2人の少女だった。
「はいはーい!私3番でーす!」
「あ、えっと、私が4番です」
彩乃と雅か。これはまた珍しい組み合わせになった。
彩乃は大抵和希か沙耶香先輩との取り合いが多いからな。
「ひゃあ早速やりまひょー!」
いつの間にかポッキンを1本咥えた彩乃が雅に顔を近づけていた。
「あ、えっ、あぁ……」
まだ心の準備が出来てない様子の雅だが、彩乃のゴリ押しに負けたのか、顔を赤く染め、プルプルと震えながらもう片方を咥える。
ゆっくり、ゆっくりとお互いに食べ進めた。
可憐な少女達が羞恥に顔を赤くしながらその潤んだ唇を重ねんばかりに近づける。
しかし、なんだろうこれ……。なんか、こっちまでドキドキするんだが。
沙耶香先輩はあわあわと動揺しているし、和希はなんか楽しそうだ。
自分が言い出しておいてなんだが、これはいかんな。何かに目覚めてしまいそうだ。
そんな風に悶々としているうちに2人の喰えたポッキンはほとんど無くなっており、今にも唇が触れそうになっていた。
が、2人とも力が入ってしまったのか、そこでついに折れてしまった。
「あ、あわわわわ……」
「だぁくそ!もうちょいだったのにぃ」
さっきから口をぱくぱくさせている沙耶香先輩。そして何故か悔しがる和希。
かく言う俺も少しだけ鼻息が荒くなっていた。
……うん。これはダメだな。滅多なことはするもんじゃない。
俺には……いや、俺達にはまだ早かったという教訓を得たところで、話を切り替えようとすぐに次のゲームへと進めた。
それからは特にこれといったイベントはなかった。
ハグやら関節キスやらと阿呆な命令をする奴はいた。まあ彩乃だけど。
しかし、それがことごとく俺と和希に当たってしまったのだ。
男同士のハグやら関節キスとか一部の層にしか需要がない。彩乃はさっきの和希のようにむふふとニヤつきながら楽しんでいる様子だったが、俺達からすれば全然面白くない。
王様ゲームって、もっといいものだと思っていたが、実際はそうでもないらしい。
そんな感じでなんとも言えない王様ゲームが続いていた時だ。
部屋に設置されていた電話が盛大に鳴った。
1番近くにいた沙耶香先輩がその電話をとり、話を始める。
しばらくして、受話器を戻してこちらに戻ってきた。
「ねえナオくん。お風呂場にメガネケースが残っていたそうよ」
「え、まじですか!?」
俺は慌てて鞄の中を確認すると、そこに俺のメガネケースは入っていなかった。
「あ、多分俺のです!」
「フロントで預かっているそうよ」
「そうですか。じゃあちょっと取ってきますね」
そう言って俺は席を外し、部屋を出て駆け足でフロントに向かった。
1週間も空いてしまってすみませんでした。
中々時間が取れないもので、更新が遅れてしまったことをお詫びします。
そして、その件につきましては活動報告でも後に述べさせていただきますが、作者の都合で更新日を減らしたいと思います。
以前は週3日としていましたが、この度更新予定日を日曜日と限定させていただきます。※ただし、時間が出来ましたら未定で更新させていただく場合もあります。
この作品を楽しみにしていただいている読者様には大変申し訳ありません。ですが、何度も申し上げているように、この作品は完結までしっかり書いていきたいと思っていますので、これからも応援の程よろしくお願い致します。




