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第62話 「水着」

 


「せんぱい!これとこれ、どっちが好きですか?」


 ショッピングモールの水着コーナーにそんな質問が響き渡る。


 しかし、俺はその質問に眉を歪ませた。


「どっち、かな……」


 彩乃が手に持っているのは露出多めでフリルの着いた華やかな黄色の水着。もうひとつは露出が少なめでどちらかというと競泳水着に近いデザインで同じく黄色の水着。


 実の所、俺はすぐに答えを頭の中に出していた。

 男なら、そんなの……前者に決まってるじゃないか。


 だってこんな可愛い子の肌が沢山見れるんだ。年頃の男なら誰でも見たくなってしまうだろうさ。


 しかし、ここでド直球に「こっち」と指さした時のことを想像してみたら、色々と考えてしまう。


 ここで露出多めの水着を選んだら……。


(せんぱいはこっち選びますか……せんぱい、むっつりですね)


 彩乃のことだから、そこまで深い意味はないのかもしれない。でも、実際言われた時には……多分へこむ。メンタルずたずただ。


 女の子からむっつりだの変態だの言われると、結構傷つくものだ。

 だから俺は悩んでいた。


 さて、精神的苦痛を伴って自分の意見を突き通すか、それとも本心を押し殺して安全策をとるか。


 ……いや、俺はまた考えすぎている。

 いつもくだらないことに考えを回しすぎている。


 今までもそうだった。無駄に考えすぎていいことはなかった。ならば俺がとる答えは……。



「じゃ、じゃあ……こっち、かな」


 俺は視線を逸らしながら、露出の多い水着を選んだ。


 男の本能には逆らえないということだな。


 そして、彩乃の反応は。


「せんぱい……むふふ」


 にまりと笑うその顔を露骨に見せてくる。

 あぁ、これは……。


「せんぱーい、こっちの方がいいんですかぁ?」


 ……予想通りの反応だった。


「……っ、うるさい。こっちの方がいいって思ったんだよ」


「えへへー、別に何も言ってないじゃないですかぁ」


 いや、その顔を見れば分かるだろ普通。この後の展開は読めた。

 むっつりだの変態だのと罵られて俺の心がずたずたにされる。そう、思っていたのだが……。


「いいですよ。私はせんぱいに選んで欲しかったので。それに……私もこっちの方が好きです!」


「え、そ、そうなの……か?」


「はい!せんぱいと好みが一緒で嬉しいです!じゃあ早速試着して来ますね!」


「あ、おう……」


 彩乃は俺の選んだ方だけを持って試着室に入っていった。


 そっか……やっぱり俺の考えすぎだった。この悪い癖は本当に治さないとな。


 と、彩乃の水着を辛うじて選んだ矢先のこと。


「ナオ君。その……どっちがいいかしら?」


 少し後ろでずっと待機していた沙耶香先輩が俺の前に2 つの水着を提示してきた。


 選び方がまた彩乃に似ている。露出が多めと少なめの2つ。色は黒。先輩の色白の肌と黒髪によくあっている。


 さっきの経験を鑑みればこれはもう、即答だ。


「えっと、じゃあ、こっちで」


 間髪入れずに俺は露出多めの黒い水着に指をさした。

 彩乃と一緒なら、先輩も同じような反応をするはすだ。



「えっ?こ、こっち……」



 ……あれ?なんか思っていた反応と違う。

 ちょっと不服そうな顔をしている沙耶香先輩を見て、俺は判断を謝ってしまったのではと思った。


 そうだった。沙耶香先輩は近年稀に見る、完全に純心な女の子だ。


 多少自分で知識を得たからと言って、それは簡単に変わるわけが無い。


 やっぱり、こういうのは恥ずかしいというのが本心なんだ。


 それなら俺は間違えた。彼女の気持ちを考えていなかった。


「す、すみません!やっぱり嫌ですよねこういうの。俺の意見は気にしなくていいので」


「え、いや、その……確かに少し恥ずかしいけれど、せっかく選んでくれたんだし」


「いいですって。正直俺はどっちでもいいんで!先輩が好きな方にしてください」


「……わかったわ」


 目を伏せたままそう答えた沙耶香先輩は、片方の水着を戻して試着室に向かった。


「え、先輩、それって……っ」



 彼女が持っていたのは、俺が選んだ方の水着だった。


「……恥ずかしいけれど、あなたが選んでくれたから」



 先輩はそれ以上何も言わずに試着室へと入っていった。

 そうか……今日は俺に選んで欲しくて来たんだ。


 だから、俺の意見を優先するって事なのか。

 なら俺がすることは、彼女達に気を使うことじゃない。

 自分の意思で、直感で、他のことを考えずに決めることだ。


 よし、もう大丈夫。

 さあ来い、雅。俺が選んでやる。



「な、直之くん。選んで」


 そう言いながら最後に待っていた雅が俺に差し出したのは、水着ではなかった。


「こ、これ……って」


 突然の、いや……久しぶりのことで、俺は一瞬だけ目を点にした。


 忘れかけていたところにいつも現れる。そうだった。こんな時、雅ならこうするよな。


 彼女が手に持っていたのは……3択カード。


 そして、彼女はカードの表側を俺に見せるように持っていた。


 そこに示されていたのは、とても単純なものだった。


 赤、青、白───この3色。この3択だった。


 彩乃に沙耶香先輩と続き、次こそは邪念を捨てて選ぼうと思っていたため、ほんの少し拍子抜けだった。


 いや、そんなことはない。

 色だってとても重要な要素だ。

 色の好みこそ人によって相当違うだろうから。

 前の2人はデザインは違うけど色は同じだった。


 それを考えれば、3色の中から1つを選ぶというのは意外にも難しいのかもしれない。


 ……違う。別に難しいことじゃない。

 好きな色を選ぶだけだ。

 デザインは何でもいい。その色の水着を時の雅の姿を想像して、これがいいと思ったのを直感で決める。それだけだ。


 そして、俺が選んだのは……。


「……白、かな」


 これは完全に俺の個人的観念だ。

 どんなデザインであろうと、可愛い女の子が白の水着を着たら、普段の倍可愛くなる。……多分。



「……わかった。白にするね」


「あ、ああ」



 結局、雅が1番すんなり決まった。

 雅が、雅の3択が、1番決めやすかった。他の2人よりもすぐに決められた。

 選択というのは、余計な考えを捨てた方がずっと早く決められる。改めてそれがわかった気がする。


 後は3人が水着に着替えるのを待つだけ。



 しばらくして、ほぼ同時に3つの試着室のカーテンが開いた。


「どうですかせんぱい!」


「や、やっぱり恥ずかしい……」


「ど、どう、かな?」



 俺は目の前に広がるその光景にふらつくほど迫力を感じた。

 学園トップクラスの美少女3人が、俺の選んだ水着を実際にきている。雅は俺の選んだ色の水着を。


 そして極めつけは、その水着を着て恥ずかしそうに顔を赤らめているこのシチュエーション。男としてこれ程至高の光景は他にない。

 恥じらいとは無縁の奴が1人混ざっているが、それもまた良い。


 おっとそうだ。皆俺に感想を求めてる。俺は何と答えるべきだろうか。

 ……いや、これも同じ。俺の思ったことをストレートに言葉にすれば良いだけ。


「えっと、その……3人ともめちゃくちゃ似合ってる。可愛い!」



 俺の口から出たのは本当に、 鉄板中の鉄板。語彙力皆無な感想だったが、これが俺の心の底からの感想だった。


「よかった!じゃあこれ買ってきますね!」


「わ、私もこれにするわ」


「私も……」


 3人とも嬉しそうな顔をしながら1度試着室に戻っていった。


 それにしても、本当に眩しすぎる。皆想像より遥かに可愛くて、魅力的だ。


 こんな子達が俺の事を……なんて、やっぱり信じられなくなる。


 あの光景を、もう一度海で見ることになるのか。童貞17歳には目の毒でしかない。家に帰ったら、水着の女の子の画像を見まくって慣れておかないと。


 そう思っていた時、俺はふと思い出す。


 あれ、そういえば、一緒に来ていたはずの和希がいない。一体どこに行ったんだ。


 辺りを見回していると3人の入っていた試着室の隣には、もうひとつカーテンの閉められた試着室があったことに気づく。


 そして、そのカーテンが勢いよく開かれた。現れたのはよく知っている親友の姿。


「ほれナオ。どうよ、俺の水着は」



 あの3人を見た後だと余計大きく見える彼が身につけているのは、水泳選手が履いてるようなブーメラン型の水着だ。

 ボディビルダーさながらのポージングを見せる和希を見て俺は言葉を失った。


 さっきの3人がオアシスだとすれば、今俺の目に映っているのはそう……癒しもくそもない砂漠地帯だ。俺は一気に白けてしまった。


「ほらほら、どうよ。なんか感想くれ」


「あー、うん。ま、いんじゃない」


「ちょ、ちょっと!これネタ枠だぜ!?」



 まさか俺がそう答えるとは思っていなかったのか、急に焦り始める和希。

 おお、やっぱり和希の慌てる顔は好きだ。

 先の件で色々と助けてもらった親友に対してする態度ではないか。


「ああ、ごめん。でもよく見たら普通に似合ってるじゃん」


「お、そうか?じゃあこれにしよ……なんて言うわけないだろ!冗談よしてくれよナオ。もういいや、着替えてくる……」


 リアクションに疲れた和希は溜息をつきながら試着室に戻った。


 実は割と本気で似合っていると思った。陸上部なだけあって、全身が引き締まってるから、そりゃ競泳水着も似合う。まぁ、なかなか悪目立ちするだろうけど。




 こうして、夏の旅行に向けた水着選びが最後に変な形で幕を閉じた。


 夏休みに海───今までじゃ考えもしなかったこと。だけど……。



 今はそれが待ち遠しくて仕方がなかった。




更新が遅れてすみません。最近結構忙しくなってしまいまして。


今後の更新については活動報告でもお伝えしますが、今後は火曜日、木曜日、日曜日の週3日での更新を予定しています。更新時刻については未定です。

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