第61話 「夏」
あの一件が終結してから2週間と少し経ち────。
現在午後3時頃の学校では、ホームルームが開かれていた。
「えー、まあ、とりあえず期末試験と終業式お疲れ。明日から夏休みだがまあ、適当に楽しんでくれや。羽目外しすぎんなよ。以上」
言っていることは的をいているのだが、担任の気だるそうな振る舞いに耳を傾けているのは極小数。
ほとんどの生徒は勝手に夏休みの予定などについて談笑していた。
担任の方も特に反応することなく、ほとんど音を立てずに教室を出ていった。
にしても、もう夏休みか……今年はなんだか来るのが早く感じるな。
俺の心境とか周りの環境とかが色々変わったせいだろうか。楽しいことをしていると体感時間が短く感じるというのと同じ原理なのかもしれない。
それも全て、和希や雅達のおかげだな。
例年の俺から、大抵家から1歩も出ず、退屈しのぎにアニメやゲームをしながら夏休みが終わるのを待っているような完璧な引きこもり生活を満喫するところだが、今年はどうなるだろうか。
そう思っていた時、後ろから和希の声がかかる。
「なあ、夏休みどうするよ」
「え、ああ、そうだな……和希は何か予定とかある?」
「いや特には。毎日部活はあるけどな」
「そっか。今年は皆と遊びに行きたいなとか思ってたんだけど」
まさか俺の口からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったのか、和希は露骨に表情を変える。
「おぉ……夏休みになると息しなくなるナオがそんなことを……」
言いたいことはわかる。俺も自分がこんなことを言う日が来るなんて思ってもみなかったからな。
「はぁ……俺をなんだと思ってるんだよ。でもそっか、和希がいないんじゃなぁ……」
「あ、でも土日は部活ないからそこなら遊べるぜ」
「お、そうなのか?じゃあ次の土日でどっか行きたいな」
たまにはアニメやゲームから離れて、がっつりリア充みたいなことしたいよなぁ。
しかし、こういう時世のリア充達は何をするんだろうか。
「海に行きましょー!!」
「うぉ!びっくりした」
ちょうど相談したいと思っていた時、急に俺の机のから飛びだすように現れたのは彩乃だった。本気でびびったわ。
彩乃に続くように、教室の扉を開ける2人の影があった。
「私は受験勉強しないといけないのだけど……1日2日ぐらいなら」
「海……私も行きたい」
3人の意見が一致したのを確認し、俺は和希に目配せする。
「んじゃ、今度の土日使って行くか」
「はいはーい!私泊まるとこ探しときますね!」
いつにも増して張り切る彩乃には皆も口を挟む余裕がない。
そういえば、前に遊園地に行った時も彩乃が事前に調べてたし、スケジュールなんかも彩乃中心に決めていたな。
これで学年が一番下だというのだから、なんだか釈然としない。
「そ、それじゃあ頼むよ。後は帰ってからメールで……」
現状では特に決定できる事項がないため、今後の詳細な予定をメールのやり取りで決めようと提案しようとした。その時、
「待ってください!」
「え、何?」
「せんぱい、海といえば?」
急な質問に俺は理解に時間がかかった。
海といえば───これはあれか?マジカルなんとかってやつか?
「えーっと、海といえば……青い」
「違います!海に持っていくものといえば!!」
あれ?違うのか。海に持っていくもの……色々思いつくが、果たして何が正解なんだろうか。
「うーん……財布に携帯、あとは……」
「いや、お前発想力乏しすぎだろ。わざとか?」
和希からの横槍で、俺はもう一度考える。
海に持っていくもの………あぁ、そうだ。1番大事な物があった。
「……水着、か?」
「そう水着!海には水着が必須です!」
まあ海に入るんならそりゃ水着は必要だろうけど、この質問に一体何の意味があったのだろうか。
「お、おう。水着がどうしたんだ?」
「水着を買いに行きましょう!」
この言葉にようやく話の全容が見えた。まどろっこしい真似をする奴だな。
「あ、そういうことね。でも水着なら俺は一応持ってるけど」
「私も持ってますよ?」
「え?じゃあ何でだよ」
「そんなのぉ、せんぱいに水着選んで欲しいからに決まってるじゃないですか」
上目遣いであざと可愛くそんな誘惑じみた言葉に俺は勿論のこと、他の2人もギロりと視線を尖らせる。
「そ、そうね。私も今持ってる水着はサイズが合わないかも……」
「わ、私も……」
あからさまに便乗してきた雅と沙耶香達に反論するような気力はなかった。
選んでほしいって言われても……はて、俺は一体どう選べばいいのか。
何せ経験がまるで無い。基準が分からないのだ。
「あ、えっと……俺そういうのはよくわからないんだけど」
「大丈夫です!せんぱいの直感で選んでくれればいいんですよ!」
直感……ファッションセンスなんてとてもあるなんて言えないが、そんなことでいいのなら、俺でも選べるのだろうか。
「ちょ、直感なんかでいいなら……」
「はい!じゃあ今から行きましょー!皆さんもこの後大丈夫ですよね!」
「ええ、この後学校が閉まるらしいから、そもそもあまり長居ができないわ」
「私も、今日は何もない、よ」
「わかった。勿論和希もついてきてくれるよな?」
流石にこの3人が試着とかしてる間、悶々としながら1人で佇んでいるのは精神的負荷が大きすぎる。
「まあ、いいけど」
「よーし!じゃあ今から皆で行きましょう!!」
そう叫びながら、脱兎のごとく教室を飛び出す彩乃に駆け足で追いかける面々であった。




