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第60話 「仲間」

 


 放課後。


 そういえば、どこで話をするのか決めていなかった。けど……


「えーっと……ここで?」


「おう。ここでだ」


 俺と和希が立っていたのは、良くも悪くも多くのイベントが起きてきた、あの場所だった。


 そして、そこには俺達以外にも3人の女子生徒が。


「み、皆まで……どうして」


「えー、酷いですよせんぱい。ここは私との思い出の教室じゃないですかー」


 そうだ。ここは彩乃に手紙で呼び出された場所。

「わ、私も……ここは思い出の……」


 雅とも、手紙で呼びされたのにも関わらず、最初は隠れられていた場所。


「私はちょっと、苦い思い出が……」


 そうだった。ここは沙耶香先輩が……暴走した場所。


 そして今、この空き教室に全員が勢揃いしている状況である。うぅ……皆の顔がまともに見れない。


 まあ、何はともあれここに全員集まっていることは俺としても都合がいい。


 ちゃんと言うって決めたんだ。



「えっと、その……ごめん!今まで避けるみたいなって、本当にごめん!」


 和希も改めて、4人全員に俺は頭を下げた。


 この一週間、俺は苦しかった。

 以前の俺なら、1人でいることに何の苦痛もなかった。それが当たり前だったからだ。

 でもその当たり前は、一人でいることからこの4人といることに変わっていた。


 そして、多分皆もそれが当たり前になっていた。俺がそれを崩してしまった。本当に申し訳ない。


 俺は精一杯の誠意を込めて、深く頭を下げる。


「今朝も言ったろ。そんな頭下げんなって。なあ皆」


「そうですよせんぱい!」


「うん。だから、謝らないで」


「ええ、何も気にしてないわ。心配はしたけど」



 和希の時もそうだった。誰一人として、俺を責める者はいない。むしろ、心配したと言ってくれた。でも、俺はそれに甘えてはいけない。甘える権利はない。


 だからまずは謝るところからなんだ。



「それでも、ごめん。でも、一つだけ俺から話させてほしい」


 謝って、事情を説明する。それが今の俺に課せられた務めだ。だったのだが……



「ああ、それは言わなくていいぜ」


「え……?」


 なんでだ。俺がここに来たのは謝罪と相談のためなのに、どうしてそんなことを言うんだ。やっぱり怒っているのか?


「多分ナオの言いたいことと俺達が話したいことが一緒だからな」


「そ、それってどういう……」


 言葉の意味をうまく捉えられず、呆然と聞き返した。その時だった。



「会長、話って何でしょうか?」



 そんな言葉と共に、1人の男子生徒が教室に入ってきた。


「な……っ!」


 男子生徒の姿が視界に入った瞬間、俺は絶句した。体が強ばった。



「ど、どういうことですか会長!なんで、あいつが……っ」


 俺の姿を見た彼もまた、俺に鋭い視線を向けてくる。


 ……なんで、なんでこの男がっ。

 口振りからして、沙耶香先輩が呼んだみたいだけど、なんでこんなことをっ。


「ごめんなさい笹原くん。騙すみたいな形になって」


「それは分かりました。で、説明してくれるんですよね。なんであいつや他の生徒もいるのか……」



 どうやら笹原にもこの状況は理解出来ていないみたいだ。



「……おい、わかってるのか。橋田直之……言ったよな?二度と近づくなって」


 鋭い視線を向けたまま、俺の方に近づいてくる笹原。俺はどうしても動けなかった。


 俺が思っていた以上に、笹原のことが怖いということなんだろうか。


 向き合うって決めたのに……こうなることは考慮していたはずなのに、だめだ。もう……



「ちょっと止まれよ、笹原裕翔」



 俺の目の前に大きな背中があった。

 とても大きくて、優しくて、頼もしい背中だ。


 そして、そんな和希に続くように、雅と彩乃も俺の前に立った。


「な、なんだよお前ら……どうしてそんな地味で何もないやつをっ」


「うるせえよクソ野郎。お前がナオの何を知ってるんだ」


「く、クソ野郎っ!?」



 和希は笹原が生徒会副会長であることを知っているはずなのに、まるで動じていない。むしろ強気に罵声を浴びせていた。


「和希、何を言って……」


「まあなんだ。俺達もこの1週間、色々とやってたってことだよ」


 俺を安心させようとしているのか、和希は小さく笑う横顔を見せてくる。


 和希達は、一体何をしていたんだ。



「お前がナオを脅していたのはもう分かってるんだよ」


「な、何のことだよ……」


「この1週間、お前のことを少し調べさせてもらった」


 そう言いながら、和希は自身のスマホを取り出した。


「な、何のつもりだ」


「お前もこうやって、ナオのこと脅したんだろ?」


 和希はスマホの画面を笹原の方に向ける。すると笹原は目を丸くした。


「な、こ、これ……っ!!」


 こちらからは見えないが、笹原は相当動揺しているように見える。

 和希は笹原に何を見せているんだ。



「和希……何をしたんだ?」


「ん?ああ、これだよ」


 和希は俺にスマホの画面を見せてきた。そこには、笹原が校内のあらゆる場所で女子生徒と絡みついている写真だった。

 それも一人じゃない。何人もの女子生徒と過度に密着する写真が何枚も。

 それはとても友人やクラスメイトのような関係上のそれとは違う。


 こんな写真を撮って何を……いや、わかる。和希の考えは何となくわかった。


「なあ笹原、お前副会長だし成績も学年トップだったよな?じゃあ結構良い大学とかも狙ってんだろ?」


「そ、そうだけど……まさかっお前!!」


 何か察したのか、笹原は顔を真っ青にさせた。

 俺も和希が何をしようとしているのか、はっきりとわかった。


「これ、生徒指導部辺りに差し出したらどうなるだろうな。大学はおろか、高校すら来れなくなっちまうかもなぁ?」


「お、お前……っ!」


「それに、他にもあるみたいだしな。工藤先輩」


 和希は1度スマホをしまい、沙耶香先輩の方に視線をずらした。


「ええ。笹原くんにはずっと黙っていたけど……あなたが副会長になる時に不正行為をした疑いがあったの」


「そ、それはっ!!」


 またしても笹原はビクリと反応し、額に汗を滲ませる。


「当時の生徒会選挙の際の資料を見返していて気づいたわ。あなたが選挙活動の際に規定範囲外の行動をしていたことをね」


「……ぐっ」



 こんな時に、俺は1週間前に脅された時の笹原の顔を思い出した。

 あの時の、勝ち誇ったような彼の顔が、今ではあんなに血相変えた顔に……。


 和希達はこの一週間、俺のために行動してくれていたのか。

 俺の代わりに、笹原を返り討ちにするために。


 でも俺は……こんなことがしたかったのか?


「お前が何でナオを脅してるのか知らないけどよ……俺達はナオから離れないぜ。やりたきゃ好きにすればいい」


「く、くそっ……」



 俺は……こうなることを望んだのか?


 本当に、笹原だけが悪いのか……俺は、何も悪くないのか?


 それは……。



「さ、この写真でお前の人生一気に変わるだろうよ。まあ、これを決めるのはナオだけどさ」


「俺は……」



 何もかも笹原が間違っていた。俺は正しかった。和希達はそう思っているのかもしれない。でも、本当にそうだろうか。


 それは……ちょっと違う気がする。



「俺は……別にそこまでしなくていいと思う」


「……それでいいのか?」


「俺が、皆と釣り合わないのは本当のことだったから」


 笹原の言ったことは決して間違っている訳では無い。

 俺がこの4人の隣を歩くことは、客観的に見ても違和感がある。

 誰が見たって釣り合ってない。


 それは不満も出るさ。自分より何もかも劣ってる奴が、分不相応なことをしていれば。


 それは俺もよく分かってる。だから俺は笹原のことを真に憎めない。


「俺は和希達とは釣り合わない。それはわかってる。でも……俺は皆と一緒にいたんだ」


 でも俺は、皆と一緒にいたいって思った。どれだけ釣り合わなくても、皆の輪の中に入っていたい。


「だから別に仕返しとか、そんなことしなくてもいいんだ」


「ま、まあナオがいいんなら……俺はいいけどさ」


「ああ、だから今後は不干渉ってことで終わらせたいんだけど」


「そっか……笹原、お前はどうなんだ」



 和希はまだ納得してくれていないのか、次は笹原に確認をとった。


「お、俺は……」


「あー、うっかり写真ばら撒くかも」


「わ、わかった!俺が悪かったから!もうこれ以上何もしない。だから……その写真は!」


 涙目で慌てふためく笹原を見ていると、さっきよりは気分が晴れた気がする。


 相手を陥れてまで仕返しがしたいとは思わない。けど、こういう顔を見るのはなんか気分がいいな。


 俺は笹原の傍に少しだけ近づいた。さっきのような恐怖はもうすっかりなくなっていた。皆のおかげだ。


「俺も、笹原に言われて気づいた。俺は皆とは釣り合わない。でも、だからといって俺は皆と離れたいとは思わない」


 そうさ。ちさ姉に言われたことを思い出した。

 多分俺の思い過ごしだったんだろうけど、もしも迷惑をかけてしまったらその時は……謝ればいい。


 それぐらいしても、俺は皆と離れたくない。皆との時間が俺の人生で1番楽しい時間なんだ。


「写真、ばら撒きたいならそうすればいい。でも、俺は皆と離れたりしないから」


「……んなこと、もうしねぇよ。てか、そんなことしたら俺の方が終わっちまう」



 不本意なのは丸わかりだが、どうやら笹原も納得に達してくれたようだ。

 まあ、半ば強制的という形になってしまったんだろうけど。


 そして……。


「やっぱり、皆本当にごめん」


 俺はもう一度皆に頭を下げ、謝罪の言葉を向ける。


「はぁ……たく、お前は何でも一人で悩みすぎなんだよ。あんまり心配かけさせんな」


「……ああ、ごめん」


「俺もそうだけどさ、ここにナオのこと大事に思ってない奴はいないぜ。なあ?」


 和希の声掛けに、3人の少女は穏やかな笑みで答えた。


 ────あぁ、本当に。



「……ありがとう、皆。これからも一緒にいてくれ」


「もちろんよ」


「こ、こちらこそ……」


「当たり前です!だから朝はちゃんといつもの電車乗ってくださいよ!」



 ───あぁ、本当にありがとう。



「それより笹原先輩、どんな写真撮って脅したんですか?」


「え、ああ、これだけど」


 笹原の元に近寄った彩乃は、彼の撮った写真を見せてもらっていた。


 写真を見た瞬間、彩乃は何故か俺の方に体の向きを変え、早足で寄ってきた。


「え、あ、彩乃?」


「せんぱい!私も押し倒してくださいよ!」


「な……っ!」



 あの写真を見て対抗心でも沸いたっていうのか?

 こいつの積極性はあいかわらずだ。


「ちょ、何をしようとしてるの春川さん!」


 写真のようなことを実行しようとする彩乃を必死に止める沙耶香先輩。


 雅は何故か傍らでもじもじしながら見ていた。そして和希は何か面白いものを見ている時のにやけ顔をする。


 これが……俺の日常なんだ。俺が今1番求めていた光景だった。




数話に及んだこのストーリーは、直之や和希達の友情をより強固なものにすると同時に、それを読者様にもわかって頂ければと思いながら書かせていただきました。すかっとするような終わり方ではなかったかもしれませんが、楽しんでいただけていたら幸いです。


次話は一気に進んで、夏休みの始まりです。

夏休みの間に様々なイベントが起こり、ヒロイン達との距離も更に縮まる予定です。ご期待下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはこれで主人公が大人の対応をしたということで良いと思います。 皆はやっぱりそういうところが主人公と仲間が惹かれたところじゃないですかね。
[良い点] ちょっと外からちょっかいかけられたぐらいでは(おそらくもっと困難なことになっても)揺るがない関係性を確認できたこと 読者視点では自明ですが、主人公がそれを意識できた点がよかったと思います…
[良い点] 此処まで友人関係が出来上がっているのに釣り合いなんてものは必要無いんですけどね… 彼にも自信に繋がる何かが起きれば良いのですが。 とりあえず、らしい着地点でした。
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