第56話 「3度目は」
見ず知らずの男子生徒の手助けをしたその後は、何も無いまま、1日が過ぎた。
そして次の日────。
俺はいつものように朝ぎりぎりで登校してきた。
最近では、よく彩乃が同じ電車に乗ってくる。
「えへへ、今日もぎりぎりですね」
正面玄関を潜りながらそんなこと言ってくる彩乃に、俺は短いため息をつく。
「はぁ……お前最近よく同じ電車に乗るけど、ちょっと寝坊が多すぎないか?」
「もー、そんなのわざとに決まってるじゃないですかぁ」
「なっ……!?」
突然の不意打ちに驚く。
相変わらず彩乃のあざとさは男にとっては破壊力がすぎる。朝からこれはキツいって。
玄関で彩乃と一時別れ、俺は自分の下駄箱を開けた。
すると、下駄箱から内履き以外の物が視界に入ってきた。
「おいおい……まじかよ……」
俺はひきつり笑いを浮かべながら、ソレを取り出す。
「これで……3度目じゃねえか」
俺が手に取ったのは……雅と彩乃から貰ったような、手紙だった。
なんだよ。手紙ブームでも来てんのか?
俺は苦笑を浮かべたまま、その手紙を開いて読んだ。
───放課後。2階の空き教室にて待つ。必ず来い。
相変わらず好きだねぇ、空き教室。
しかし、これはラブレターと言うより……。
と、そんな時、内履きを履いた彩乃が声をかけてきた。
「どうしたんですか?せんぱい」
「あ、いや。なんでもない」
俺は手紙をポケットに押し込み、下駄箱からスリッパを出した。
これもまた、放課後にならないと、なんとも言えないな………。
そして、何も起きないまま放課後を迎えた。
「な、直之くん。一緒に、帰ろ」
今日はいち早く雅が教室に来てそう言ってきた。
「あ、ごめん。先に帰ってて」
「な、なにか用事?」
そう聞かれた俺は少し視線を逸らした。
「えーっと、ちょっとな……」
この話に雅を巻き込みたくはない。今回のは多分だが、今までとは違うやつな気がするし……というか、嫌な予感しかしない。
「じゃあ、待ってても、いい?」
「え、別にいいって。どんぐらいかかるかわからないし」
「ううん、待ってるから」
今日の雅はいつにも増して食い下がってくるな。
やっぱり雅も俺の事を…………。
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
「わかった。でもあんまり遅くなったら先に帰っててくれよ」
「うん」
雅を教室で待たせ、俺は手紙の通り空き教室に向かった。
空き教室の扉の前に立つ。
扉の向こうには一体誰が待っているのか。
一抹の不安を胸に、俺は扉に手をかけそして一気に扉をひいた。
そこにいたのは、知らない女生徒。
一見して、一言で言うならばギャルだ。
服装を激しく乱し、校則ギリギリの範囲で髪を染め、色つきのリップやファンデーションなどで化粧をした、まさしくギャルだった。
「君が橋田くん?」
「え、そ、そうです、けど……」
俺は動揺が隠せないままに返事を返す。
だって信じられない。いくら俺の周りで最近、非日常的な事が起きていると言っても、こんなギャルとの接点は流石にない。
それに、あの手紙の文章や文体を見たら、男にしか思えなかった。
まさか本当に女の子からの手紙だとは思うはずもなかったのだ。
「ふーん、君が……ね」
何故か分からないが、その言葉に含みがあるように思えた。何か恐ろしいことを企んでいるような、そんな怖気すら感じた。
「ね、ちょっとこっち来て」
「え、あ、はい……」
言われるままに俺は彼女の方に近づいていく。
どの道、これが本当にラブレターなんだとしたら、俺はきっぱりと断らなければならない。
その為には、俺が言うのはおこがましいかもしれないが、相応の誠意として面と向かって思いを伝えることが必要となる。
俺はゆっくりと彼女の正面まで歩み寄り、丁度1メートル程の間隔で止まった。
「えっと、その……俺は……」
「もうちょっとこっちに来て」
「えっ!?」
彼女の本意を探ろうと、俺が口を開いた瞬間、彼女は俺の首に手を回し、そのまま後ろに倒れ込んだ。
「ちょ……っ!?」
目の前に広がる光景に、俺は目を剥いた。
2人で倒れ込んだ後、俺が彼女の上に覆い被さるような体勢になり、傍から見れば、俺が彼女を押し倒しているような状況に陥ってしまったのだ。
「ご、ごめっ!!」
謝りながら、慌てて立ち上がろうとした、その時。
パシャっ。
背後から、スマホカメラのシャッター音のようなものが聞こえた。
「おー、こりゃいい具合に撮れたな。へへ」
そんな嘲笑うような口調と共に教室に入ってきたのは、見覚えのある男子生徒だった。




