第54話 「決意」
────体を洗い、俺は湯船に浸かった。
お湯に浸かりながら、歯噛みしながら一言呟く。
「くそっ、鎮まれよ……」
あんな状況で、男が反応するのは当然だ。
それに……この湯船、さっき彩乃が浸かってた……。
いや、やめろ俺!想像するな。これじゃあ風呂に逃げた意味が無いじゃないか。
俺は湯船から上がり、冷たいシャワーを全身に浴びる、
「本当に……どうしたらいいんだ」
今ふりかえってみれば、俺は本当に最低なことをしたのかもしれない。
俺の中ではあれが最善だったとしても、本当は彼女を傷つけてしまったのかもしれない。
昔から無責任で、中途半端な俺のどこが好きなんだか……。
シャワーを止め、もう一度湯船に浸かった。
と、そんな時だ。
「せんぱい」
「あ、彩乃?」
扉越しに彩乃の声が聞こえた。
「せんぱい、今いいですか?」
「あ、ああ。でも入ってきたりすんなよ」
「あはは……それもいいかもですね」
おいおい、今のはお前風の冗談のつもりだったんだが。
「そ、それで、何か用か?さっきの話なら本当に悪かった……」
「そうじゃないんです。その……せんぱいは、これからどうしようと思ってるんですか?」
これからどうするって言っても……。
彼女の言う「これから」というのは、これから俺が彩乃達のことをどうするかと言うことだろう。
「このまま、誰の気持ちにも答えないなんてこと、ないですよね?」
「それは……」
俺が言うのは些か不釣り合いだが、俺はちゃんと1人を選ばないのいけない時がくる。
いつまでもこんな感じで、都合よくキープしてるみたいな、そんな最低野郎にはなりたくない。
「それは……当たり前だ」
「そうですか……それなら良かったです」
彼女の声色に少し嬉しさのようなものを感じた。
「だけど、今はまだ……」
「わかってますよ。1番最初に言いましたけど、私もすぐに決めて欲しいなんて思ってないです。多分他の先輩達も……」
「そ、そう、か……」
「はい。急がなくてもいいんです。少なくとも、今こうしてみんなで仲良くしていられる間は……」
俺は彩乃の言った言葉の意味がいまいちわからなかった。
「それって……」
「私達、女子会で話し合ったんですよ。とりあえず、沙耶香先輩が卒業するまでは……って」
今までは話してくれなかったが、今ようやく理解した。
3人の様子がおかしかった理由が。
「それまでは、みんな友達だし、みんなライバルなんですよ」
……ライバルなんて。
そんなこと、本当に有り得るのかと思った。ずっと思っていた。
でも、いい加減現実を認識しないといけない。
いつまでも卑屈になってなんか居られない。それこそクズだ。
「でも、それまでには、ちゃんと選んでくださいね」
「……ああ、わかってる」
「出来れば私を選んで欲しいですけどね。えへへ」
くそっ、積極さとあざとさじゃ彩乃がダントツだよ、お前は。でも……。
「そ、それは保証できない……悪い」
「いいんです。私がせんぱいを振り向かせてみせますから。だから……ちゃんと私と他の2人のこともちゃんと見ていてください」
俺はこれまで途切れなかった会話に一瞬の沈黙をつくった。
見ていてだって……そんなの……。
「……わかった。ちゃんと見てるから」
「ありがとうございます、せんぱい。それじゃあ私は待ってますから、お風呂から上がったらもう出ましょう」
そういえば、雨音が聞こえなくなっていた。
「そうだな……もう少ししたら出るよ」
「はい。あ、でもせんぱいが何かしたいんなら私は大歓迎ですよ?」
おいおい、さっきまで結構重い話してたと思ったんだけど!?いきなりすぎだろ!
「う、うるせっ!もう上がるから戻っとけ!」
「はーい」
最後に言ったその言葉はだんだん遠のいていき、やがて聞こえなくなった。
どうやら浴室を出たみたいだ。
俺も風呂を上がる前に、しっかり肩まで浸かっておこう。
しかし、本当に今でも信じられないや。
これまで何度そう思ったことか……。
でも、もうこれからはそんなことを思ったりはしないようにしよう。
これが現実なんだから。
どれだけ有り得なくても、どれだけ天文学的確率でも、これが俺の、これからの日常なのだから。
主人公になんかなれないかもしれないが、それでも俺は……1人の男としてあらなければいけないんだ。
決意を固め、俺は湯船から上がった。
───結局、その後はホテルを出て何もないまま解散した。
ご拝読本当にありがとうございます。以前から申し上げていた通り、この話で本作は一旦更新をお休みさせていただきます。
いつも楽しみにしてくださっていた方には本当に申し訳ないです。が、なるべく早く更新を再開できるように頑張りたいので、これからも応援よろしくお願いします。
そして、これも以前から予定していた、お休み中に新作品を投稿します(第1話は7月9日の19時投稿予定)
タイトルは『あざとい上に甘え上手な後輩の可愛さが反則すぎる〜痴漢から助けたら、何故か2人でゲーム三昧な日常が始まった〜』です。
本作に登場しているヒロイン、春川彩乃のような後輩キャラをメインにストーリーが進んでいきます。
更新お休みの間はそちらの方を読んでくださると幸いです。
最後にもう一度、この作品の更新はしばらくありませんので、ご了承ください。
それでは、また近いうちにお会い出来ることを願っています。




