第53話 「最悪な答え」
15分ほどして、彩乃が浴室から出てきた。
「お待たせしました、せんぱい」
「あ、いや、いいんだ」
ふぅ、これだけ時間が空けば、精神統一など容易なことだ。
俺も風呂に行こうとベッドから顔を上げ、彩乃のいる方に視線を向けた。瞬間、俺は唖然とした。
「ちょ、あ、彩乃……なんだ、その格好っ!?」
「え?だってこれしか置いてなかったので」
彩乃が纏っていたのは、所謂バスローブというやつだった。
見慣れていないというのもあったが、どうしてかそれを纏った彩乃はどこか……艶かしい雰囲気を醸し出していた。
「あ、もしかしてせんぱい。ちょっと興奮していますか?」
「そ、そんなんじゃないし……」
いかん、やっと落ち着いたのに、こんなの見せられたら、また……。
「ねえ、せんぱい……」
「えっ、なに……っ」
気づいた頃には、彩乃はもう俺のすぐ近くまで寄ってきていた。
「あ、彩乃っ!?」
そのまま後ろのベッドに押し倒され、隣に彩乃も横たわる。
「ねえ、せんぱい……私といて、ドキドキしますか?」
「はぁ!?ちょ、この冗談は流石に……」
いつもの冗談なんだろ?俺をからかって楽しんでるんだろ?
「答えてください……お願いします」
その少し震えた声は、いつもとどこか違くて……冗談なんかで言っているんじゃないとすぐに分かった。
それなら、俺もちゃんと答えないといけない。
「……そんなの、当たり前だろうが……」
「せんぱいっ……」
これ以上近づかないでくれ。ただでさえいい匂いなのに、風呂に入って更に良い香りになっている。
襟元から、ほんの少し肌が見えて……。だめだ!今回はまじでやばい。
「じゃあせんぱい、私の事、好きですか?」
「それは……」
俺は言葉に詰まった。
こんな時に、どう言えばいいのか分からない。それに……俺はまだ、自分の気持ちが分からない。
……今までもそうだったが、俺は本当にクズだな。
もう2人から……もしかしたら3人から告白されているのに、何も答えを見つけようとしないまま、こうして彩乃が迫ってきているのに、全く答えが見つからない。
「……すまん。俺は最低だ……ここまでされても、俺は自分の気持ちが分からない」
「でも、せんぱい……」
「そうだ。俺は彩乃にドキドキしてるさ。正直今も興奮してる。でも……それはお前だけじゃないんだ」
そうだ。こんな動悸が激しくなるのは、彩乃だけじゃない。
沙耶香先輩に、雅だって……たまにドキッとしてしまう時がある。
これは、俺が男だから、ただ異性に対して反応しているだけなんだ。
これが恋愛的な動悸とは思えない。
こんな半端な状態で、俺は彼女に、素直な言葉を言う資格はないんだ。
「わるい……今は好きとか嫌いとか言う資格は俺にはない」
こんな言葉をに聞いたら、流石の彩乃も俺に幻滅しただろうな。
「……やっぱり、せんぱいは良い人ですね」
「……は?どこがだよ」
今のどこに良い人の要素があったんだ?どう考えてもクズ発言だっただろう。
「……ちゃんと、私のことを考えてくれてるところです」
違う。逃げてるだけだ。現実からただ、逃げているだけだ。
「私の事も、雅先輩達のことも……せんぱいはちゃんと真剣に向き合ってくれてるんだってわかりました」
「そ、そんなんじゃ……俺が情けないだけだ」
「情けなくても……最低なんかじゃないです。私はそんなせんぱいも好きですから」
この状況でその言葉は反則だろ……。
……だめだ。さっきまで意識が逸れてたから大丈夫だったが、また視線が勝手に彩乃の体に行ってしまう。
もう、これ以上は……。
「す、すまん!俺、風呂入ってくる!」
耐えきれなくなった俺は、力づくでベッドから降り、浴室に向かった。
浴室に入る前に、まだベッドに腰を下ろしていた彩乃に向かって言った。
「お、俺にこんなこと言う資格ないかもしれないけど、その……嫌いじゃない。それは絶対だ」
こんなに好意的に接してくれて、こうして仲良くしてくれて、嫌いになるはずがない。
彩乃だけじゃない。雅や沙耶香先輩だって、嫌いな訳が無い。
今でも信じられないけど、これまで地味に生きてきた俺に、こんなにも新しいものをくれた彼女達には、感謝しかない。
でも……。
「で、でも、今は誰かを選ぶなんてできない。誰かを好きだなんて言えない。それは本当にすまん」
それだけ言って、俺は浴室に入った。
ご拝読ありがとうございます!!
次の話で一旦更新を中断させていただきます。
これまで読んでくださっていた方には大変申し訳なく思いますが、必ず再開しますので、それまで気長に待っていてください。
そして、更新中断の間に息抜きで書いた新しい作品の投稿は、7月9日(木)を予定しています。1話目を19時頃、2話目を20時頃に更新したいと思います。3話目の更新はまだ未定です。
お休み中はどうか、そちらを読んで頂けたらと思います。よろしければ、ブックマークや評価をつけて下さると嬉しいです。短い話数で完結させる予定ですが、評価が増えたら、その後も続ける準備はありますので、もし気に入ったら評価の程よろしくお願いします。
タイトルは次話の後書きと活動報告で発表したいと思います。
それでは次話と新作品でまた。
長文、失礼致しました。




