第49話 「様子がおかしい」
───俺が学校に到着するのは、、登校時間ギリギリという日が多い。
朝起きるのが少し苦手ということもあるが、一番の理由は、電車の時間帯だ。
無難に遅刻しないように電車に乗ると、同じく学校に向かう生徒達で車内は混雑する。
人集りが嫌いな俺は、そんな渦の中に身を投げるなんて自殺行為だ。
だから、俺はギリギリだが、1本遅れの比較的空いている電車に乗るのだ。
出勤する社会人はちらほらいるが基本的にその時間に乗る学生は俺だけだった。
だった……のだが。
「あ、せんぱーい!偶然ですね!」
そんな声と共に、途中の駅で乗り込んでくる少女がいた。
「あ、彩乃!?」
「やっぱりせんぱい、この電車に乗ってたんですね!」
どうして彩乃がっ!?
今まで登校の電車で出くわしたことなかったのに。
「ど、どうしたんだ?この電車だと結構ギリギリになるんだぞ?」
「今日はちょっと寝坊しちゃったんですよー」
朝っぱらから陽気な声色で俺の隣の席に座る。
「えへへ、朝からせんぱいに会えるなんてラッキーです!」
そう言いながら俺の腕に抱きついてくる。
「ちょ、なんで俺の隣に座る!他にも空いてる席たくさんあるだろ」
「えー、いいじゃないですかぁ。私はせんぱいの隣がいいんですー」
俺の腕に頭をぐりぐりしてくる彩乃に、俺は息が詰まる思いだった。
……な、なんだよ、この可愛い生き物は!
まるで飼い主に構ってもらいたい猫のようにすりすりしてくる。
だめだ。このままじゃ……。
「ちょ、まじで離れろって!」
いつもなら、ここで軽く突き放してやれば、大人しく離れてくれるのだが……。
「やーです。離しませんよぉ」
今日は俺の腕にしがみついたまま離れてくれない。
「え……ちょ、今日はどうした!?おかしいぞ、今日の彩乃」
確かに、いつも彩乃は積極的だが、今日は特に酷い。
昨日の今日で何かあったとしか考えられない。
「そういえば、昨日女子会か何かやってただろ。その時に何かあったのか?」
「えー、どうですかねぇ」
表情を一切変えずに、彩乃はしらを切ろうとしている。
やっぱり何かあったな。
「なんだよ、教えてくれよ」
「ダメでーす。女の子の秘密ですよ」
何かあるのだろうが、俺には教えられない秘密。
うーん……はっ!まさか、エロい話でもしていたのか!?
いや、まさかな……。
「……そっか。でも、とりあえず離れろ」
「はーい。でも、ドキドキしたでしょ?」
「そ、そんな訳ないし」
はい、ドキドキしてましたよ。そりゃね、こんなことされて萌えない童貞はいませんよ。
やっぱり、今日の彩乃はおかしい。何かがおかしい。
そして、それは彩乃だけじゃなかった────。
休み時間の度に、3人が俺の教室に来たのだ。
クラスメイト達は、その3人が来る度に、異様にざわつく。
それは、彼女達が俺の周りに集まっているからだ。
「ちょ、どうしたんですか!?沙耶香先輩に雅まで……」
「あ、いや、彩乃さんがナオくんの教室に入っていくのを見かけたから、私もって」
「わ、私も……」
……いや、意味がわからん。
彩乃はともかく、この2人に限ってはもっと理性的に動いていると思っていた。
それが何だ。彩乃が行ったから自分もって……何か張り合ってるみたいに。
やっぱり、昨日の女子会で何かあったのだろう。
いつの間にか、名前で呼びあっているし。
……気になる。
この3人の距離感が妙に近い、その理由が。
「せんぱい!今日はお昼もご一緒していいですか?」
「はっ!?こ、ここでか?」
「別にここが嫌なら中庭とかでもいいですよ?」
いや、マジでどうした!?今まで昼食の時間だけは、和希と2人だけだったのに。
「そ、それなら私もご一緒するわ!」
「わ、私も……」
またしても、彩乃に張り合うようにそう言ってくる。
これは……これはおかしい。本当におかしい。
───そして、本当に昼食を一緒にとることになった。
「わぁ、せんぱいのお弁当おいしそー!」
俺の弁当を覗き込みながらそんなことを言ってくる。
「ちょっと彩乃さん!ナオくんが困っているじゃない!」
いや、別に困っているとかではないのだが……。
この状況にひたすら疑念を感じているだけだ。
さっきから四方八方から視線を感じるし。
なんでこんなことになってしまったんだ……。
学校で女の子3人と昼飯とか、まじでありえなさすぎる。というか場違いすぎる。
まあ、和希が一緒にいてくれているだけマシだけど。
それでも、今までこんなことは1度もなかったんだ。何かおかしい。
何度聞いたって、秘密だとか言われたり、はぐらかされたりして、その旨を教えてくれない。
俺は和希に耳打ちで質問した。
「なぁ、これって絶対おかしいよな。俺の勘違いじゃないよな」
「さあね。ま、なんかあったのは確かだろうけどな」
「だよな。和希ならなんか気づいてるんじゃないか」
日頃、何かと察しのいい素振りをする和希のことだ。この状況に何か見当がついているかもしれない。
「……知らん。てか、もし何か気づいてたとしても、ナオには教えてやんねえよ」
「は?何だよそれ」
「ま、お前も色々頑張れとだけ言っといてやるよ」
頑張れっつったって……。
「1つだけ言っといてやろう。多分これからもっと何かあるぞ」
「何かって……何だよ」
「それはその何かが起きてからのお楽しみだな」
これ以上何が起こるのかまるで見当がつかないが、和希が無駄なことを言うとは思えない。
心の片隅に置いておこう。
───そんな具合で、それから毎日、休み時間になれば3人と過ごし、昼食を共にする学校生活が始まった。
俺の日常は更に常軌を逸し始めることとなったのだ。
───そして、この現状を更に掻き乱す、忘れ去られていたもう1人の少女……そう、『学園の三姫』最後の1人と遭遇するのは、もう少し先の話だ。




