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第48話 「女子会 後編」


直之たちがカラオケに向かった頃、美少女三人衆はというと────。


「それで逢坂先輩?女子会って言ってもどこに行くんですか?」


「そうね。そもそも今日はなんのために3人で話すのかしら?」


予め聞いてはいたものの、今回の女子会の目的までは聞いていなかったため、一気に質問が飛んでくる。


「えっと、と、とりあえず喫茶店に行こうと、思います」


「おお、いいですねぇ。なんか女子って感じですね!」


「まあ、あとの話はそこで聞かせてもらおうかしら」


「は、はい。それじゃあ……」


そして、彼女達もまた、教室を出て、近くの喫茶店に向かった。



───地元では有数のオシャレな喫茶店に足を運んだ3人は、窓際の4人用のテーブルに腰掛けた。


「ご注文は何になさいますか?」


すぐに店員の女性が注文を取りに来る。


「あ、えっと、じゃあアイスカフェオレを……」


「はいはい、私はこの特製パンケーキとキャラメルラテをお願いしまーす」


「私はアイスコーヒーをお願いします」


「かしこまりました。少々お待ちください」


注文を取った女性店員は厨房へ戻って行った。


「工藤先輩アイスコーヒーなんて大人ですねー!」


「え、そんな、普通よ。というか春川さん、こんなの食べるの?」


沙耶香はメニューのオススメに乗っていた、特性パンケーキの写真を指さす。


「えー!だって美味しそうだったから。やっぱり女の子と言えばパンケーキでしょ!」


「そんなの初めて聞いたわ」


と、そんなやりとりをしている中、周りから多くの視線を感じた。


「何あれ、すっごい美人……」


「芸能人かしら……」


「やべぇ、声掛けよっかな……」


そんな声が喫茶店で飛び交うが、彼女達は気にせず3人の会話を続けた。


そして、注文していた品がテーブルに並び、早速彩乃は目をキラキラさせながらパンケーキに手をつけた。


「それで逢坂さん、話というのは何なの?」


「そーですよー。女子会ですよ!ガールズトークですよね!ね!」


「あ、えっと、はい……」


両手を内ももに挟み、もじもじしながら彩乃の質問にイエスと答えた。


まさか本当にそうだとは思わなかった彩乃は露骨に驚いた表情をする。


「え?本当にガールズトークってやつですか?」


雅は無言でコクリと頷く。


「あ、あの、工藤先輩と、春川さんは……その、直之くんのことを、どう思ってるん、ですか……?」



そんな雅の質問に、他の2人は不思議そうな顔で相槌を打つ。


「え、そんなの……」


「好きに決まってるじゃないですかー」


「えっ……!?」


衝撃の事実に雅は目を剥いた。


「いや、春川さんなんて見てるだけで分かるじゃない。明らかに彼にアプローチしてるの」


「えへへー、それほどでもぉ」


「別に褒めてはないのだけど」


平然と笑っている彩乃。そしてそれに呆れる沙耶香を見て、更に雅は困惑する。


「えっと、どうしてそんなに、普通に……」


どうしてそんなに普通にしていられるのか。


同じ意中の相手を持っていると最初から知っていたのに、どうしてそんな何食わぬ顔ができるのか。


普通はぎすぎすして、会話どころじゃなくなるだろうに。


「まあ、確かに……多少は意識してしまうわ。でも……」


「でも私は、今こうやってみんなで遊んだりおしゃべりしたりするのも楽しいんですよー!」


今この状況にとても充実感を感じている2人。だから、この環境を壊したくない。


雅にとっても、こうして友達と呼べる存在と、放課後に喫茶店で話したり、休日に遊びに行ったり……そんな高校生としては当たり前な日常に確かな幸福感を感じていた。


2人の気持ちはとても理解できる。


「だからまあ、今はこのままでいいと私は思うわ」


「私もです!でも、最終的には私がせんぱいとくっつきますけどね!」


「な、何を言っているの!わ、私だって!」


「えー、ストーカーしてたような人にせんぱいは振り向いてくれませんよー」


お互い想い人が同じ。なのに、お互いに遠慮などしない対等な関係を築いている。


───だったら、私もっ。


「あ、あのっ」


雅は少し声をはりあげて、2人の会話を止めた。


「そ、その……わ、私も、な、直之くんのことが……す、好き、なんです……」


今まで恥ずかしくて口に出来なかった言葉を2人の前で言った。


これだけ遠慮のない関係が構築されているのなら、自分もその輪の中に入れるのではないか。そう思った故の決心だった。


だったのだが……。


「え、逢坂先輩?今更何言ってるんですか?」


「……え?」


雅はつい、虚ろな表情を浮かべる。


「だって、逢坂先輩が直之先輩のこと好きなの、とっくに知ってますよ?」


「まあ、見てれば普通にわかるわよ」


雅は動揺が隠せなかった。


まさか、2人が既に自分の気持ちを知っているなんて、微塵も思っていなかった。


「あの3択カード?だって、逢坂さんなりのアプローチだったんじゃないの?」


「そ、それは……」


まさにその通りだった。


今は普通に頑張れば、自分の伝えたいことを伝えられるだろう。


しかし、直之に限ってはそうあることが出来ない。


彼の前では、恥ずかしくて素直な気持ちが言えなくなる。


先日初めて、素直な言葉を言えたつもりだったが、当の本人は気づいていないようだった。


だから、今はあの3択カードに頼るしかない。でも……


「わ、私は……2人みたいに、なれないですけど……それでも、私は直之くんがっ」


それを聞いた彩乃と沙耶香は再び相槌をうち、そして小さな笑みを浮かべる。


「わかってますよ、逢坂先輩もアレですよ、ライバルってやつです!」


「でもその前に、私達はお友達よ。遠慮なんて必要ないからね」


「春川さん……工藤、先輩……ありがとう、ございますっ」


雅の胸の内にあったのは、この状況に対する幸福感だけだった。


好きな相手が同じだと言うのに、全く空気が変わらない。こんなことは、これからの人生で二度とないとまで思える。


「お友達だけど、負けるつもりなんてないからね」


「は、はいっ」


「でも先輩元ストーカーですしねぇ。負ける気がしません」


横から悪戯な笑みを浮かべた彩乃が入ってくる。


「ちょ!ストーカーの話はもう出さないで!」


「えへへー、でもこの中じゃ私が1番優勢ですよ!今度の週末にせんぱいとデートの約束しちゃいましたもん!」


「そ、それなら私は、これからナオくんって呼んでもいいって言われたわ!」


「なんですかそれ!ずるーい!」


「あ、あなたの方がずるいわ!」


またそんな、遠慮のない、素直な気持ちのぶつかり合いが始まる。


───あぁ、なんか、羨ましい。


───私もいつか、こんな風になりたい。


まだ口には出せなかったが、確かにそう思う雅。その表情に、もう翳りのようなものは一切なかった。


「あ、あのっ。今日は、ありがとうございました。わ、私もその、これから頑張ります」


友人であると共に、恋敵の2人に何を言っているんだと思ったが、こういうことなんだろう。遠慮しないというのは。


「そうですね。まあこれからアピール合戦ってやつですよ!」


「ええ、とりあえずは、私が卒業するまでに告白の返事が欲しいところだわ」


「えっ!?」


沙耶香の発言に先に驚いたのは彩乃だった。続いて雅もすぐに目を見開く。


「言ってなかったかしら?私もうナオくんに告白したわよ。ストーカーしてた時に」


先に驚愕した彩乃だったが、すぐににやりと笑みを浮かべ、張り合うように言った。


「わ、私だってもう告白してますもんね!ラブレター送って告白しましたもん!」


隣で堂々と告白した宣言する彩乃を見て、雅は更に焦燥に駆られた。


「えっ、えっ……」


「あれ?逢坂さんはまだなの?」


「じゃあ私達が1歩リードって感じですね!」


急にライバル意識を向けてくる2人。


さっきまでの和やかな空気が嘘のように、2人の目はぎらぎらと雅を睨みつけていた。


「わ、私も、しましたっ。告白……」


全く伝わらなかったけど。


「あれ?そうなの?」


「じゃあ皆同じ土俵にいる訳ですね!」


決して嘘は言っていない。が、雅はまだ2人より1歩後ろにいることを自覚していた。


「それじゃあとりあえず、工藤先輩の卒業を目安にして、最後にせんぱいに選ばれた人が勝ちということで!」


彩乃の提案に、他2人も頷いた。


「それまでは恋敵でもあり、仲のいい友達でいましょう」


現実的な話をすると、意中の相手が同じ女の子が3人も集まれば、お互いがお互いを避け、友達の輪を乱すのは目に見えている。


だが、なんの根拠もないが、ここにいる3人は、ずっと仲のいい友達でいられる気がした。


「じゃあ私、これから皆のこと名前で呼びますね!沙耶香先輩と雅先輩って」


「そうね。今まではちょっと堅苦しかった気がするわ。私も、雅さんに彩乃さんと呼ぶことにするわ」


ライバル意識が芽生えたとともに、以前より1層親近感が増したと感じだ2人はそんなやりとりをする。


「雅先輩も、私達のこと名前で呼んでくださいね!あと私には敬語もなしで!」


「う、うん。わかった……彩乃、さん。あと、沙耶香、先輩……」


「ええ、これからもよろしくね」


名前を呼び合うことで、お互いに距離を縮めたという実感を持った。


「あぁっ!!」


と、急に声を上げたのは彩乃だった。


「ど、どうしたの?」


「ぱ、パンケーキが、無くなってる!?」


皿の上にパンケーキが無くなっていることに驚いている彩乃を見て、沙耶香は呆れた表情をする。


「いや、さっきから食べてたわよ、彩乃さん」


「ええ!?そんなぁ……会話に夢中で全然味わってなかったですぅ……よし、こうなったらもう一個頼むしかありません!」


「ちょ、本気で言ってるの!?」


無意識だったとはいえかなりのボリュームだったパンケーキをもう1つ頼むと言い出せば、それは驚きもする。


「直之せんぱいの前だったらこんなはしたないことしませんよ。でも友達同士だし、女の子同士ですから。遠慮なんてしません!」


それを聞き、雅は何か決心した時ように口を解いた。


「あ、あの。私も、パンケーキをっ」


「雅さんまで……な、なら私も食べるわ。ちょっと気になっていたし……」


彩乃の言った「遠慮なんてしない」という言葉に感化されたのか、2人とも恥じらいを捨てる。


「わかりました!すみませーん!特製パンケーキ3つお願いしまーす!」


遠くにいた店員に声をかける彩乃。



この3人の女子会はもう少し続いた。




───水面下で、3人の美少女達の恋の戦いがとうとう本格的に始まったことを知る由もなく、その頃アニソンを熱唱している直之だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 見させて頂いてます! いつも元気もらってます! 私は春川彩乃さんを超応援してます! これからも頑張って下さい! 応援してます! [気になる点] 誤字報告です! ご注意は何になさいますか?→…
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