第39話 「帰りの電車で」
───気がつくと、俺達は既に帰りの電車に揺られていた。
窓からは綺麗な夕日が差し込んでいる。現在午後6時。
「いやー、楽しかったですね!今日は」
「そうね。私はジェットコースターが良かったわ」
「あ、俺もあれめっちゃ楽しかったっす」
「ネットで調べたら、あれ結構全国的にも有名なやつらしかったですよ!」
「そうだったの?道理で楽しい訳だわ」
「そうっすよねー。もう何回乗ったか覚えてませんもん」
てな感じで、彩乃、沙耶香先輩、そして和希の3人は、遊園地のジェットコースターについて目を輝かせながら語り合っていた。
───昼食をとって俺達はすぐにジェットコースターに乗った。
飯を食べた後すぐにジェットコースターというのは些か危ないのではと、最初は皆懸念していたものの、彩乃の強い勧めで乗ることになった。
ジェットコースターは初めてだったが、そんなに大したことないだろと甘く見ていた。
超高速であっちこっちに振り回されることには恐怖しかなかった。
落ちたらやばいし、手を離す奴は何を考えてんだとも思った。
が、俺と雅以外の3人はジェットコースターを降りた後ピンピンしていた。
というか興奮していた。水を得た魚のように。
3人は「もう1回乗ってくる」と行って、すぐに並ぶ列に入っていった。
一方で俺と雅は顔を真っ青にしながら近くのベンチでぐったりとしていた。
その後も、帰ってきたと思ったらまたジェットコースターの列に並んでら並んで、また並んで………。
俺達は完全に放置プレイだった。
しばらくして、だいぶ気分も良くなり、このままベンチに座っててもつまらないと思った俺は雅に話しかけた。
「ど、どーしよっか。あいつら戻って来なさそうだし、俺らもどっか違うとこ行ってみる?」
「あ、それじゃあ……これ」
まだ少し気だるさの残る雅は自身の持つポーチからカードを出した。
こんなとこまで……いっつも持ち歩いてるのか?
「あー、おっけーおっけー、それで決める訳ね」
「う、うん」
俺はいつものように、カードを1枚引き抜き、引いたアトラクションへと向かったのだった。
その後、2時間程してようやくジェットコースター3人組と合流し、最後の2時間は5人で遊園地を回った。
────そんなこんなで、現状に至るのだが、この3人はさっきからジェットコースターの事しか話してない。
「ナオと逢坂さんも、もっとジェットコースター乗れば良かったのにな」
「いやあれは無理だわ。1回で死にそうになった」
あんだけ乗ってピンピンしてるとか、この3人の三半規管はどうなってんだ。
もう二度とジェットコースターには乗りたくないな。
「わ、私も、ちょっと……無理です」
雅は俺より辛そうだったからな。今日のジェットコースターはトラウマになるだろう。
まあ、ジェットコースターはともかく、今日はなんだかんだで楽しかった。
焼きそばと春巻きは普通に美味かったし、一応ほとんどのアトラクションに乗れたから、満足感はしっかりあった。
今日初めて、青春らしいことをした気がする。
と、そうしているうちに、先程までのバカ騒ぎは嘘のように静まり返っていた。
はしゃぎすぎて疲れたのだろう。みんなぐっすりと寝ている。
が、そんな中、色んな意味で1番疲労が溜まっている俺はと言うと……。
───ね、眠れないっ。
疲労からきた眠気はある。が、どうしても瞼が閉じない。むしろ限界まで開いていた。
なぜなら。
───こんな状況で、寝られるかよ!
心の中でそう叫んだ。
そう、俺の肩に、隣で小さな寝息を立てている雅の頭がちょこんと乗っかっていたのだ。
くっそ、意識しすぎて逆に目が冴えてきた。
やべえ、めちゃくちゃいい匂いする。
以前、3択カードを引いた結果、雅の頭を撫でた時と同じ香りが鼻をくすぐる。
今日はだいぶ歩いたし、汗もかいているはずなのに、雅からはほんのり甘い香りしか感じなかった。
どうなってんだ、女の子の汗は!
だめだ。肩に意識がいって、なんだかぞわぞわしてきた。
どうすんだこれ。雅もぐっすり寝てるし、起こすのも気が引ける。
かと言って、そろそろ俺の理性もリミットを迎えようとしていた。
何か、何か別のことに意識を向けないと。
そう思い、俺は雅を起こさないように、ポケットからゆっくりとスマホを取り出す。
こういう時は、好きなアニソンでも聞いてやりすごす………。
と、スマホを操作していたら、謝って写真が保存されているアプリを開いてしまう。
俺のアルバムに保存されているのは、ほとんどが2次元キャラのイラストだった。
が、1番新しい欄に、1枚の写真があった。
そう、今日みんなで記念にとった集合写真だった。
みんな笑顔で写っている写真を見て、俺は小さな笑みを浮かべた。
───みんな楽しそうだ。そして俺は……めっちゃ浮いてる。
この写真を見て、間違っているところを探せと言われたら100人中100人が、「1人だけ浮いてる」と答えるだろう。
だが、そんなことはわかっている。気にしていても仕方ないのは分かっていた。
だから俺は───指で自分の顔を隠した。
うん、まさに完璧な写真だ。
とはいえ、今日は本当に楽しかった。
最初は戸惑いなんかもあったが、また行こうと言われたら次ら即答でイエスと答えるだろう。
……お、なんか雅への意識が薄れてきた。今のうちだ。
俺は音楽アプリを開き持参のイヤホンを装着して、アニソンを流し始めた。
そして、俺は自分の世界に入った途端、激しい睡魔が襲い、いつの間にか瞼を閉じていた。
────直之がみんなで撮った写真を見ていた頃、雅は1度起きていた。
(え、わた、私……直之くんの、肩に……はぅっ)
顔を真っ赤にしながら、心臓をばっくばくに鳴らしていた雅に直之はまるで気づいていなかった。




