第38話 「親友は気になっている」
あれから俺達は無事に焼きそば屋に到着し、人数分の焼きそばと春巻きを買い、帰りは何事もなくすぐに3人の元へ戻った。
「お待たせしましたー!」
「おう、遅かったなお前ら。なんかあったん?」
だいぶ時間がかかった俺達にそう聞く和希。
「い、いや、何もなかったよ。焼きそば屋が意外と遠くてさ」
「ふーん、ほーう」
なんでそんな妙な返しをするんだ。
ふと、彩乃にキスされた頬に意識が向いてしまう。
だめだ。意識するな。自然な感じで振る舞うんだ。
「そうですよ。なーんにも、なかったですよね?せんぱい?」
おいおいおい!!そういう言い方はやめてくれ!
妙に彩乃の唇に視線がいく。
そんな中、和希は直之をまじまじと見ていた。まるで観察しているように。
───うーん、やっぱりなんかあったなこりゃ。
察しのいい和希は、この2人に何かあったことにすぐ気づいた。
───こいつらもそうだが、逢坂さんや工藤先輩とも
だめだ。どうしても意識してしまう。
俺は顔を少し赤らめ、彩乃から視線を逸らした。
絶対何かあったんだろうな。
そう、直之達が昼食を買いに行っている間に、和希達の方でも一悶着あったのだ。
────和希は近くの自販機でペットボトルのお茶を5本買い、テーブルに戻った。
「おーい、買ってきたぞー」
「あ、ありがとう、ございます……」
「ありがとう瀬戸くん。140円くらいかしら?」
2人は財布から硬貨を取り出そうとするが、和希はそれを止めた。
「いいですって、こんくらい」
「そ、そう?じゃあお言葉に甘えて」
そして、和希はペットボトルを1本ずつ2人に渡す。
しかし、この時和希は別のことを考えていた。
───結局、この2人と春川彩乃は、ナオとはどういった関係にあるのだろうか。
3人とも、直之に多少なりとも好意を寄せていることはわかる。
特に春川彩乃は、毎度のように直之にべったりだから、この3人の中で1番わかりやすい。
逢坂雅も、あの時のショッピングモールでのダブルデートで、かなり気があることは明らかだ。
そして、この中で1番わからないのは、工藤沙耶香についてだ。
ある程度は心を許しているように見える。が、やはり生徒会長としての凛とした立ち振る舞いは揺るがない。
直之とも適度な距離を保持し続けているように見える。
そもそも、直之と工藤沙耶香がどう知り合ったのか、直之から詳しい説明を受けていない。
妙に不自然だ。
だから和希は意を決して彼女達に聞いたのだ。
「ねえ工藤先輩。あ、あと逢坂さんも、ちょっと聞きたいことあるんすけど」
「ん、何かしら?」
「ぶっちゃけ、ナオとはどういう関係なんすか?」
ちょうどそれを言った時、沙耶香はペットボトルに口をつけていたため、驚いて少し吹き出した。
なかなか新鮮な光景だ。今までこんな光景を見たのは、ここにいる逢坂雅と和希の2人だけだろう。
「ぢょ、ちょっと、急に何っ!?」
「いやー、俺一応ナオの親友っすからね。ちょっと気になっちゃって」
「そ、そんなこと言われても……と、友達、としか言えないわ」
沙耶香はだいぶ動揺している様子だった。
「へー、んで、逢坂さんの方は?」
こっちは何となく察しがつくが、果たしてどう答えるか。
「わ、私も、友達、です。ちょっとだけ、特別な……友達です」
「特別な」という意味に和希の中では2つの解釈があった。
3択カードを通して色々アクションを起こすという妙な関係、という意味の特別。
もしくは、友達だが、直之に恋愛的感情を抱いている、の特別。
和希としては、後者の方が可能性として高いとみた。
まあ彼女の方はひとまず置いておく。
「なるほど……じゃあ、工藤先輩って、ナオとどうやって知り合ったんすか?」
「えっ!?いや、えっと、その……」
だいぶ口を渋っている。何か隠したいことでもあるのだろうか。
「3年の先輩とナオが今こうして遊びに行くような仲なんですよ?何かあるんでしょ」
「瀬戸くんって、結構ぐいぐい来る人だったのね」
「まあ、ナオのためっすから」
「そ、そう……えっと、まあ簡潔に言うと、私からコンタクトをとったわ」
それは何となく察していた。和希はそんなことを聞きたかった訳でない。
「どうやって接触したすか?」
「そ、それは……す、ストーカーを……して」
「なるほどそっかストーカー……って、へ?」
あまりに予想外な発言に思わず変な声が出てしまう。
───おいおいそれはちょっとぶっ飛びすぎだろ。
凛々しさで有名な生徒会長が、まさかストーキングなんてするとは微塵も思っていなかった。
逢坂雅も初耳のようで、露骨に驚いていた。
「え、えっと、なぜストーカーを…?」
「そ、それは……直之くんのこと、ずっと見てたかったから」
───何言ってんだこの人。
「ずっと前に、直之くんがお年寄りを助けてるのを見て……あの素朴な優しさと笑顔をもっと見たくて…… つい」
それを聞いた瞬間、和希は当時の直之と全く同じことを考えた。
───あ、この人……チョロい系の人だ。
理性的なくせに、恋に理屈なんてないとか言う系の人だ。
驚愕の事実を知ってしまった逢坂雅は声も出せなくなっていた。
───てかそれって、完全にナオのこと好きってことじゃねえか。
となると、この状況は直之にとってかなりシビアなのではないかと考えた。
3人ともが直之のことが男として好きだと言うことだ。
やはり噂は本当だったのだと、ここでようやく信じた。
春川彩乃はあからさまだが、他の2人はかなり奥手と見た。
が、今はそんなこと問題ではない。
ここにいる全員、直之のことが好きで、それでいて今、友達として輪を連ねている。
彼女達も、お互いに直之への気持ちは何となく理解しているだろう。
和希は急に焦燥に駆られた。
───えー、てことはつまり……アレだ。ラノベとかでよくある奴だ。この状況はいわゆる……修羅場と言うやつか。
予想以上に直之の置かれている状況が非現実的だということは理解した。
「い、言っておくけど、今はあくまでお友達として接しているわ」
「わ、私も、今はみんなで、仲良くしたいって……」
両者とも、状況を理解した上で、この発言をしたのだろう。
となると、現状では春川彩乃が少し優勢になるのだろうか。
───ま、ナオ争奪戦が激化するのは、もう少し先になりそうだな。
和希は小さな笑みを浮かべる。
「りょーかいっす。変な事聞いてすんませんしたね」
そう言った時だ、直之達が帰ってきたのは。
こうして、和希の気がかりはほんの少し消え、会話は打ち止めとなった。




