第36話 「因縁、そしてほっぺに…… 前編」
焼きそば屋に向かって3分程歩いた。
「なあ、まだなのか?その変な焼きそば屋」
「えーっと、もうちょっと先ですね」
遊園地の入口で貰ったパンフレットを見ながら歩く。
と、そんな時。
「傍から見たら私達、デートしてるように見えますかね。えへへ」
「な……っ!?」
意表を突かれた俺は露骨に驚く。
くそっ、だからあざと可愛いんだよ。
そういえば、ここに来てから1番楽しそうにしているのは彩乃だったな。
「てか、彩乃今日すごい楽しそうだな。寝坊した俺よりも」
今日のために色々プランを立ててくれたし、今日の幹事は完全に彩乃だ。
「だってえ、せんぱいと一緒に遊びに行けると思ったらもう嬉しくて!」
だからそういうの、可愛くてあっさり惚れそうだからやめろ。
「ちょ、冗談キツいっての……」
「冗談じゃないんですねど……まあ1番はやっぱり、友達とこうやって遊びに行くのが初めてだったからですかね」
「え?そうなのか?」
入学早々学園の三姫と呼ばれ、男女ともに人気を博した彼女が、友達と遊びに行ったことがないなんて。そんなことありえるのか?
「はい、私って中学の頃は自分を変えるのに必死でしたし。高校に入っても特別仲のいい友達みたいなのはいなかったんですよね」
「へー、意外だな」
人気すぎても良くはないってことなのだろうか。その辺はよく分からんけど。
「えへへ。だから、今日は凄く楽しみだったんです。初めてちゃんと友達って呼べる人達といれるのが」
雲の上の存在かと思っていた。が、彩乃も俺と同じ気持ちだったんだな。
和希とは何度か遊びに出かけたことはあったけど、こうして大人数でってのは今まで1度もなかった。
俺もこうして、友達と友達らしいことをするのに、とてつもない高揚感を抱いていた。
「それじゃあ、今日はめいっばい楽しまないとな。お互いに」
「はい!だからまずは焼きそばと春巻きです!」
「あはは、そうだな。なんか俺も腹減ってきたわ。早く買って戻ろう」
「おー!」
そして俺達は軽い足取りで焼きそば屋に向かって歩く。
だが、そんな時だった。
「あれー?もしかして春川さんじゃない?」
背後から知らない女の声が聞こえた。
その声に、彩乃はビクリと体を震わせ、その場に立ち止まった。
俺も立ち止まり、声の主の方に視線を向ける。
そこには、金色に染めた髪に、厚化粧、耳にはピアスを付けた、見るからにギャルな少女。
更にその後ろにはチャラ男とギャルが2人ずついた。
うっわ。なんか面倒臭いのに絡まれたな。
てか、さっきこいつ、彩乃の名前を呼んだのか?
当の本人は俺の後ろに半身を隠し、目を伏せていた。 俺の服の裾を掴むその手は異様なまでに震えていた。
「ねえ、春川さんだよね!あたしのこと覚えてる?中学ん時のさ」
「中学の時の」───それを聞いて、俺も何となく察しがついた。
「へえ、この子があんたの言ってた地味子ちゃん?」
「やだ、結構可愛いじゃん」
「それな。聞いてたんと全然違うやん」
地味子……か。
やっぱりこいつら、というか1番前でどんと構えてるこの女が、彩乃の言っていた奴なんだろう。
彩乃が自分を隠し、偽るようになった元凶。
どれだけ明るく振舞っていても、あの時の恐怖が消えた訳じゃない。
過去の因縁に決着が着いたわけじゃないんだ。
「へえ、ちょっとは可愛くなったみたいだけど、地味子なのは変わんないじゃない?地味なオーラがむんむんだもん」
こりゃまたガキ臭いことを。
これは彩乃じゃなくても、誰でもわかるわ。
こいつは────なんか、嫌だ。
「つーか春川さん、男と一緒に来てんの?やっぱ調子乗ってんのは変わんないんだあ」
いや、それブーメランだから。お前彩乃と同じ高一だろ。お前の方がいきがってんじゃねえか。
「えー、でも彼氏の方、めっちゃ地味じゃない?」
「確かにー!パッとしないっていうか、陰キャっていうかさ!」
くぅっ……これは何も言い返せん。ごめん彩乃。
「春川さんって男選びも地味なんだね。ほんと、何も変わってないよ。地味子のまんま」
「変わってないよ」。その言葉を聞いた彩乃は更に体が震えだす。
いや、彩乃は確実に変われている。確かに、まだこいつに対する恐怖は残っているみたいだ。
だが、今の彩乃の姿を見て、変わってないなんて言えるこいつの目は腐っている。
「彼氏くんも災難だね。春川さんに遊ばれてるよ。その子すぐに調子に乗るから」
まだそんなことを言うのか……。
俺は流石に怒りが治まらなかった。
そしてついに、俺は歯噛みしていた口を割く。
「……さっきから聞いてれば、調子乗ってるだの、地味だのって。お前何様だよ」




