第35話 「遊園地」
時は風のように過ぎていき、当日になった。
そして俺は……。
「ご、ごめん!ちょっと遅れた!」
息を荒くしながら、予定時刻の5分遅れで待ち合わせ場所に到着した。
既に、俺以外の全員が集まっていた。
そう。俺は寝坊したのだ。
小学生の遠足の前日のように、俺は午前4時まで眠れずにいた。
「おっせーぞナオ。寝坊か?」
「るっせ、そうだよ。悪かったなあ。いや、まじですんません」
くそっ、めっちゃ恥ずかしい。
俺が1番はしゃいでたのばればれだ。
だってしょうがないじゃない。男女グループで遊園地だぞ?まるでリア充みたいじゃないか。
ショッピングモールの時は、雅のコミュ障を改善するという名目があったから、そこまで深く考えていなかった。
実質、今日初めて、健全な高校生らしいことをするんだ。
「よーし、みんな集まったことですし、早速切符を買いに行きましょー!」
1番年下の彩乃の掛け声のもと、俺達は駅の中にある券売機に向かった。
───切符を買い、電車でおよそ20分。
地元で1番規模の大きいテーマパークに到着した。
「おおー、初めて来たけど、やっぱでけえなー」
その壮大な敷地に、和希を筆頭に皆舌を巻いていた。
ここに来るのは、みんな初めてのようだ。
それにしても、流石は日曜日の日中だ。人の数が半端ない。
どこもかしこも人、人、人だ。
家族で来ているものや友達同士で来ているもの、そして、その中でもカップルらしき男女が多く見られる。
遊園地なんて、まさにリア充の巣窟みたいなものだ。
そして俺達もまた、その巣窟に今、足を踏み入れた。
「さあ!今日はがんがん遊びましょー!!」
またしても彩乃の先導で、俺達は入ってすぐの大通りを一歩一歩踏みしめながら歩きだした。
───と、凄まじい高揚感を抱いていた俺だったが、
大通りを歩く俺達に、多くの人々が視線を向けていた。
「うわ、なんだあれ。すげぇ」
「めっちゃ可愛い」
「何?芸能人?」
「眩しすぎるっ」
「一緒にいる男も結構イケメンよ」
「いや、でも1人だけ普通なやついるぞ」
「なんか1人だけぱっとしないな」
「完全に浮いてるわね」
「なんであんな地味なのが混ざってんだろ」
そんな会話を俺は聞いた。聞こえてしまったのだ。
………やめてくれ。
そんなの、自分が1番よーくわかっておりますとも。
そうだ、わかってたさ。この面子に混ざってたら嫌でも浮いてしまう。
はしゃいでた俺が馬鹿でしたよ。すみませんね!
だから……そんな目でこっち見ないでぇぇぇ!!
「だーれっかなぁ?1人だけ浮いてるやつってのはー」
あからさまにそんなこと言ってきたのは和希だった。
「はっ、ほっとけ。どうせ俺は場違いっすよ」
「何言ってるんですかー?そのメガネ外したらみんな驚きますよ?」
彩乃め……まだそんなこと言いやがって。
「だからやんないって言っただろ」
それに、例えメガネを外して少しましになった所で、この4人との差は埋まらない。
しかも、今日はコンタクト持ってきてないから、メガネ外したらまじで見えんくなる。遊びに来た意味無いじゃんってこと。
「気にしなくていいわ、直之くん。私はその……ちゃんとかっこいいと思っているわ」
真面目に言ってくれているのは充分わかっている。フォローしようとしてくれている。
けどすみません、沙耶香先輩。それは今言われると、結構傷つくのでやめてください……。
だが、それは心の中でしか言えなかった。代わりに口から出たのは苦笑い。
「あ、あはは……」
くぅぅぁ、自分が惨めでしょうがない。
だがしかし、そんなの気にしてたら楽しめるものも楽しめないよな。
俺は開き直り、周囲の視線に意識を向けないようにしながら歩いた。
「さー、そんなことより遊びましょー!と言いたいところですが、まずはお昼にしましょー!」
俺より切り替えの早い奴が1人いた。
「皆さんちゃんとお昼抜いてきましたかー?」
彩乃の放ったその質問に俺達は一斉に頷いた。
そう、今日は初めに、遊園地で遊ぶ前にフードコートで昼食をとるという予定になっている。
ちょうど近くに飲食系のテントが多く立ち並ぶフードコートを見つけた。
お昼時ではあったが、テーブルもいくつか空いていた。
「よし、とりあえずテーブル取りに行こうぜ」
和希の提案で、他の人に座られないように俺達は先にテーブルにつくことにした。
ちょうど5人座れるテーブルに座り、荷物を置いて一息ついた。
「ふぅ、なんか疲れた……」
「まだ何もしてねえじゃねえか。ナオ体力ないな」
この疲れはだな。体力というより精神的にくるやつだよ。
気にしないようにはしていたが、俺のメンタルはかなりズタボロだった。
「テーブルに座ったのはいいのだけれど、肝心の昼食は何にするのかしら?」
「あー、確かにその辺は決めてなかったっすもんね」
沙耶香先輩と和希がそんな会話をしていると、またしても彩乃が率先して発言した。
「はいはーい!私、今日のためにこの遊園地のオススメランチ調べて来ました!」
そんなことをしていたのか。手が早いな。1番下級生なのに、彩乃がこの中で1番頼りになる。
「へー、どこなんだ?」
「ここからちょっと離れたところの焼きそば屋さんです!この遊園地に来たら絶対そこの焼きそばと春巻きを食べろって書いてありました!」
焼きそばと春巻き……微妙に合いそうで合わなさそうな組み合わせだな。
ネットはガセネタも多いからな。ちょっと怪しいけど、彩乃を信じるしかないか。
「じゃあ2人か3人ぐらいで買いに行って、残りはテーブルキープって感じかな?」
和希がそう言うと、雅がまず手を挙げた。
「わ、私はここに残ります」
それに続き沙耶香先輩も便乗した。
「私も残るわ。ここに来てなんだけど、少しは勉強したいから」
彼女は3年生。まだ5月だが、進路に向けての準備は始まっている。
息抜きは必要だろうが、一分一秒でも勉強する時間を確保したいみたいだ。
流石の生徒会長。こればっかりは尊敬しかない。
これで2人が残ることになった。
「じゃあ彩乃と俺と和希の3人ってことでいいか?」
俺がそう言うと、いきなり和希が待ったをかけた。
「あ、俺も残るわ」
「は?なんでだよ」
「俺はみんなの分の飲み物でも適当に買ってくるわ。向こうに自販機あったし」
フードコートでは基本水が1杯ついてくるか、そもそもないかのどちらかだ。
確かに飲み物は必要か。
「じゃあせんぱい、2人で行きましょ!」
「あ、ああ、わかった。じゃあちょっと行ってくる」
「おう、金は後で払うわ」
「おっけー」
和希との会話を最後に、俺と彩乃はその謎の組み合わせをおすすめする焼きそば屋に向かった。




