第28話 「会長がとんでもなく初だった 後編」
「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?」
俺は壁に激突し、その場で痛そうにしている彼女に近づこうとする。
「こ、こないで!」
視線を逸らしながら、両手だけを前に広げて俺の接近を妨害した。
「た、確かに私は、あなたのことが好きだと言ったけど、こ、これ以上はまだ……だめよ!!」
え、何言ってんだこの人は。さっきも子供がどうのとか言ってたし。
「これ以上って……手を握っただけじゃないですか」
「だ、だめよ!これ以上手を握ってたら子供ができちゃう!」
彼女が冗談を言っているようには見えなかった。
あぁ、こいつは参ったな……。
こんな人、現実で初めて見たわ。本当にいるもんだな。
まさか、工藤先輩が……性知識に無頓着だったとは。
本当にストーカーまでして俺に告白してきた人と同一人物か?
普通はキスしたら子供ができる、みたいな勘違いをするが、彼女は更に酷い。
「あの、手を握っただけじゃ子供なんてできませんよ」
もし手を握っただけで子供ができてしまうなら、今頃少子化問題は余裕で解決している。
「というか、今まで手を握ってる男女なんてたくさんいたでしょうに」
「そ、それは、みんな避妊をしていたんじゃないの?」
「んな訳ないでしょ……」
避妊って言葉は知ってるのか。知識偏りすぎだろ。
なんでこんなんなるまで放置してたんだ。まさか、世間知らずのお嬢様だったとか。いや、そんな話は聞いたことがない。
そういえば、俺と出会うまでは異性にほとんど関心がなかったみたいなことを言っていたような気がする。
それに、学内では凛々しい生徒会長。
馴れ馴れしくし難い存在だ。今までその手の話題を振ってくれる友達がいなかったのかもしれない。
しかしこれは酷いな。
いくらなんでも初すぎだ。
「はぁ……手を握ったぐらいじゃ何も起きないから安心してください」
「え?じゃあどうしたら子供ができるの?」
……そう来たか。
なーんか、急にベタなシチュエーションになってきたな。
ここは耳打ちで子供の作り方を教えるのが鉄の掟だが、正直あれやってるラノベ主人公、まじて肝座ってるわ。
だって異性にそんなこと言ったら普通にヒかれると思うけどな。
「それは自分で調べてください。子供の作り方とでも打てば出てきますよ」
「いや!もやもやしているのは嫌いなの。今教えてちょうだい!」
くそっ……無知って怖ぇ。
あー、もう知らん!どうとでもなれや!
「さ、先に言っときますけど、俺は悪くないですからね……えーっとだから、子供って言うのは……」
そう言って、俺は先輩の耳元で、子供の作り方を簡潔に述べた。
「………と、いう感じです」
この後の展開は想像に固くない。
案の定、事実を目の前にした彼女はリンゴのように顔を赤く染めながら沸騰していた。
「な、ななななななっ……!?!?」
酷く動揺しているようだ。
あー、俺知らない。俺悪くない。悪いのは今まで放置していた世間様だ。
今どきこんな初な高校生がいるなんて思わないだろ普通。
「あー、とりあえず、後は自分で調べることをおすすめします。先輩もわかったでしょ」
男女間でこの手の話をするのはキツいって。
正直に言うと、この場からさっさと逃げ出したいのは俺の方だ。
何で童貞の俺が、学園一の美少女に性知識を教えないといけないんだ。
こういうのは男の方が気まずくなるんだよ。
変に意識してしまうから。
「じゃあ俺はもう行くんで、失礼しますね」
「ま、待ってっ!」
ここに来て呼び止めるって、どういう神経してんだよ。
こっちの気持ちも組んでくれ。
「な、何ですか?」
「手を握っても大丈夫なら、そ、その……もう1回、手を握って、くれないかしら……」
このタイミングでの彼女の発言に、俺はフリーズしてしまった。
……ちょいちょい。冗談もここまで来ると笑えないぞ。
いきなり何言い出すんだこの人は。
さっきまでめちゃくちゃ取り乱してたじゃねえか。
切り替え早すぎだろ。
「ほ、ほら、早くしてよ……」
立ち止まる俺にその白くて柔らかそうな手を差し出してきた。
「……ちょ、ちょっとだけですよ」
俺は抵抗することを諦めて、彼女の差し出した手を握る。
「こ、これでいいでしょ」
「……う、ぅぅ。やっぱり、恥ずかしいわ……でも、なんか、変な感じ」
いや、いやいやいやいや。
1人で何ふわふわしちゃってんの!?こっちは恥ずかしさなんかとっくに通り越して、今にも爆発しそうなんだよ。
あんな話をした後にこれだ。俺からしたら完全に生殺し状態だ。
「直之くんの手、大きくて固くて、温かいわ……」
や、やめてくれ。そんな変な言い回ししないでくれぇえ!!
余計意識しちまうじゃないか。
あ、やばい、もう理性が残ってない。
下半身の制御が効かなくなってきた。
あかん……これはまじであかん。
理性が飛びそうになった、その時だった。
キーン、コーン、カーン、コーン……
昼休みが終わり、次の授業が始まる5分前の予鈴が校舎に鳴り響いた。
奇跡だ。逃げるのは今しかない。
「あ、あー!!予鈴がなってる!もう教室戻らないと!」
ギリギリ保っていた理性をフル活用し、一気に手を離した。
「そ、それじゃあ俺は戻るんで、先輩も早く戻った方がいいですよ!!」
俺は全速力で空き教室を出た。
いやぁ、危なかった。あのままだったら俺、まじでどうにかなってたわ。
余計な知識吹き込むんじゃなかった。




