第25話 「手を繋ぐ」
ストーカーの正体は、イメージとまるでそぐわない、とんでもなくチョロい生徒会長、工藤沙耶香だと判明し、この件は終息の一途をたどった。
彼女と友人関係になってから、もうだいぶ経った気がする。
そして今現在、俺は雅と2人電車に揺られていた。
一緒に帰るのはストーカー事件以来だったが、やっぱり雅と2人だけだと沈黙が続いて気まずくなってしまう。
俺から何か話題を振らないと。
そう思っていたのだが。
「あ、あの、直之くん……」
気まずくなった空間を先にかき消したのは雅だった。
「え、あ、うん。何?」
「えっと、工藤先輩と春川さんが、今度みんなで、遊ぼうって……それで」
俺の知らないところでそんなことが。
というか、工藤先輩とは順調に仲良くなってるみたいで安心した。彩乃とも相変わらずちゃんとコミュニケーションがとれているみたいだし。
彼女もまた、彩乃と同様に雅のコミュ力向上に一役かっているのだろう。
俺としてはとても望ましいことだ。
コミュ障を治し、同性の友達をつくるという当初の目的をしっかりと果たせている。
そろそろ俺もお役御免ってやつなのだろうか。
嬉しいような寂しいような。
「へー、じゃあ場所とか決めないとな。必要ならまた選んだるよ」
「は、はい。じゃあ、今度、お願いします……」
そろそろ3択カードともおさらばかと思ったが、もう少し続きそうだ。
まあ今日はもうないだろう。
そう思っていたんだが、
「あ、あのっ。直之くんっ」
雅にしては少し強め口調にびっくりした。
「な、何!?どした?」
「えっと……これっ!」
彼女はなんと……3枚のカードを出してきたのだ。
「ん、あれ?明日じゃなかったのか?」
「これは、違くて……でも、選んで、欲しいです……」
なんだ急に。
いや、いつもそうなんだけど、今日のはまじで唐突だな。
「ああ、まあいいけど」
俺は考えるのをやめていつものようにカードを1枚引いた。
引いたカードの内容を黙読した。
えーっとなになに…………「30秒間手を繋ぐ」っと。ほうほう、手を繋ぐ。
手を繋ぐ……………って、ん!?
内容を理解した途端、俺は固まった。
「え、あれ、これって……雅?」
角々しい口調でそう言いながら雅のほうを見る。
彼女は顔を真っ赤にしながら、右手の手のひらを俺に見せてきていた。
「お、お願い、しますっ」
………まじか。
なんで急に手を繋ぐなんて。
いや、雅の場合は予め考えていたのか。毎度思うが、カードを使うとすごい行動力だ。
て、そんな場合じゃない。
雅、まさか俺のことが……いや、友達でも手を繋ぐくらいするのか?単なる友達同士スキンシップということなんだろうか。
経験がないからよくわからん。
また俺の考えすぎか?そうだ、手を繋ぐぐらい普通か。
しかし、本当にいいのか?
まじで手ぇ握っちゃってもいいのか?
こんな可愛い子の手なんて俺が握ったら、手が穢れたりしないだろうか。
やばい、どうしたらっ!
そんなことを考えていると、痺れを切らした雅が自分から俺の手を握りに来た。
「ちょ、まっ……まだ心の準備がっ!!……あ」
そう言った頃には、俺の手に雅の手が握られる感触があった。
……なんだ、これは。
柔らかくて、温かくて、めっちゃ気持ちいい!
小さくて、全然ごつごつしてなくて、まるで何か違う生き物みたいだ。
女の子の手って……すげぇ。
「……ど、どうです、か……?」
手を握ったまま、雅がそう聞いていた。
「あ、えっと……」
うぉおおおおお!その上目遣いはやめてくれ!!可愛すぎるっての!!
やばい、冷静な思考ができない。
雅の手の感触と視線に気を取られてしまう。
なにか、何か感想を言わないと。
「そ、そうだな。うん……なんか、すげえ、としか言えない」
結局出てきたのは語彙力皆無な発言だった。
仕方ないだろ。こんなの初めて、どんな反応していいのか全くわからない。
てか俺、手汗大丈夫かな。さっきからだらだら出てる気がするし、キモくないかな。
そうだ、そろそろ30秒経った。早く手を離さないと。
「あ、ああ!もう30秒経ったんじゃないか!?終わりだ!」
俺は慌てふためきながら彼女の手を離した。
「あ、はい。そ、そう、ですね……」
彼女は赤面しながら視線を逸らす。
だからいちいち可愛いすぎなんだって。俺を萌え死にさせる気か。
このままじゃ俺の方がおかしくなりそうだった。
あかん……女の子の手はあかん。
これは耐性がないと精神的にキツいな。もはや凶器とさえ思えてくる。
……異性と手を繋ぐことの大変さを知った。
結局、その後はただひたすらに気まずい空気が続いてしまった。
────自宅にて。
「ちさ姉、お願いがあるんだけど」
「ん、どしたん?」
「ちょっとお手を拝借」
俺は姉の手を握ってみた。
確かに、あっかくて柔らかいし、ちゃんと女性らしい手をしている。
しかし、全然ドキドキしなかった。
「ちょ、本当にどうしたのナオ?あ、もしかしてついにシスコンに目覚めちゃったかなぁ?」
「あー、やっぱないな。うん、ちさ姉はないわー」
俺はひょうひょうとした顔で姉の部屋を出ていった。
「ちょ、なにそれ?え?ちょっとナオ!?」
───直之の訳の分からない行動に疑問符を浮かべる姉であった。
今回は雅メインのお話でした。次話もご期待して下さると幸いです。




