第15話 「学園のアイドル」
俺は手紙を握ったまま、体が動かなくなった。
───どうすんだこれ。これは明らかにラブレターだし、んー……どうすんだ!?
俺は混乱が止まらなかった。
しかし、予鈴は鳴り、担当教師も入ってきていた。
この場で固まっていたって仕方がない。
俺はポケットに手紙を突っ込んで自分の席に戻った。
このシチュエーション、デジャブすぎる。
雅の時と同様に、ラブレターのことで頭がいっぱいになり、他の思考を停止させていると、いつの間にか放課後になっていた。
他の生徒達が帰って行くのを見てようやく気づいた。
「あれ、もう放課後?」
くそっ、まずいまずい。
まだ心の整理がついてないってのに。
俺は机に頭をつけながらどんと肩を落としていた。
考えすぎて疲れてきた。
でも、マジでどうしよう。
これは妄想抜きでほぼ100パーセントラブレターだ。
いや、また俺の勘違いなのか?
今までそれでどれだけ恥ずかしい思いをしてきたことか。
よく考えてみると、こんなあからさまなラブレター、普通送ってくるか?
これこそ、何かのイタズラだったりするんじゃないか?
そうだよな。だってラブレターを送られる要因が一つもないもん。
雅の時だって、小学生の頃の出会いを持ち出してきた。
高校に入ってから女子とまともに関わったことはまず無い。
かと言って、高校に入る以前の記憶にも、雅以外に関わりを持った女の子は居ないはずだ。
いや、また俺が忘れてるとか?
実はどっかで窮地からその子を助けてたりとかしたりして。
……って、だから妄想!やめろ俺!
そんな感じで自分の中の理性と妄想が格闘を繰り広げていた。
と、その時だった。
「あ、あの……直之、くん……」
この声は……。
聞き覚えのある声が聞こえ、俺は一旦思考をやめ、頭を上げた。
「ん、おお、雅。どうした?」
生徒達がほとんど帰った教室に現れたのは、友達の逢坂雅だった。
「えっと、今日も……あの、お願いします」
そう言いながら、雅は見慣れた3枚のカードを出した。
ここ1週間は、放課後に選択肢カードを引くのが当たり前になっていた。
カードの内容は大抵、2人で一緒に帰るか、最近俺たちがハマっているスマホゲームをするかのどちらかが多い。
友達らしいことをしたいという雅の要望だった。
いつもなら、はいはいと二つ返事ですぐにカードを引くところだが、今日はどうしても手が出せなかった。
「あー……今日はちょっと用事があってさ。ごめんだけど今日だけ引かなくてもいいか?」
「あ、え……はい。全然、大丈夫、です……」
彼女はそう言うが、少し落ち込んでいるようにも見えた。
「本当にごめん。じゃあ俺は行くとこあるから、また明日ね」
「あ、はい……また、明日……」
挨拶を交わし、俺は教室を出ていった。
雅には悪いが、ちょうど決心をつけるいいきっかけになってくれた。
俺は急いで空き教室に向かった。
とりあえず、行ってみて確認するしかないからな。
空き教室に着き、俺は一つ深呼吸をした後、扉を開けた。
雅のように、また教卓に隠れてるんじゃないかとも想像したが、今回はちゃんと視界に入るところにいた。
教室には1人、見覚えのない女子生徒がいた。
しかし、俺は一瞬でわかった。
彼女は雅に匹敵するほどの……美少女だと。
夕日に当たっても尚透き通るような肌に大きな瞳。
幼さが残る顔立ちだが、誰がどう見ても美少女と認識するだろう。
「待っていましたよ。橋田直之……先輩」
俺と目があった瞬間、彼女は俺のことを先輩と呼んだ。
どうやら1年生のようだ。
「え、えっと、この手紙をくれたのは君で間違いないかな?」
俺はポケットから手紙を取り出して見せた。
これもまたとんでもないデジャブ。
「はい。その通りです。私は先輩がとても気になっていました。ずっと前から」
「ずっと前からって……俺たち初対面だよね?少なくとも俺は君のことを知らない。君は誰なんだ?」
こんな美少女知らない。1年生だし、会う機会がそもそもほとんどないはずだ。
「私ですか?私は1年の春川彩乃と言います。自分で言うのもなんですけど、私結構有名なんですよ?」
その名前には聞き覚えがあった。
学園の三姫と呼ばれている3人の女子生徒の1人だったはず。
「春川彩乃……て、あの春川彩乃っ!?!?」
「そうですよ。すぐに気づいてくれると思ったのに……でも、そんな抜けたところも最高です!」
え?え?なんで彼女が俺のことを……!?
まったく意味がわからない。
「で、でも、俺たち初対面なはずだ。俺だって名前を聞いたことがあるだけで、俺は君のことなんて知らない」
「そうですね。私も先輩とちゃんと顔を合わせたのは初めてです。高校に入ってからは」
「えっ……それって……」
おいおいまじかよ。
これは……雅の時とまったく同じパターンなのか?
そして、そんな予感は見事に的中した。してしまったのである。
「私が初めて先輩に出会ったのは、中学2年生の時でした」
………………………。
またこれかよ!!!




