第104話 「ステージで」
「時間が経つのは早いものです。気がつけば文化祭2日目……最終日となってしまいました」
まだ少し漂う生徒達の眠気が静けさをうむ体育館で、司会の生徒は寂しそうにそう言った。
俺達の高校では、文化祭が2日、そして体育祭が次の週に1日と計3日で学校祭が行われる。
短いと感じるものの、大体の高校の文化祭は2日、多くても3日というところが多い。
「しかし今日も様々な企画を用意しておりますので、文化祭2日目、盛り上がっていきましょー!!」
『いぇーーい!!』
司会の声に乗せられ、各々手に持つうちわを頭上に上げながら叫び出した。
「お、盛り上がって来ましたね!それじゃあこの勢いのまま、オープニングといきましょー!!」
これを合図に、体育館の照明が消え、壇上に巨大スクリーンが現れる。
こうして、とうとう文化祭2日目が始まった。
そんな俺は、1日目とはまるで違う心持ちだった。
昨日は本当に色々あった。
しい。
落ち着いていると言った方が正しいかもしれない。
既に自分の心が決まっているからだろうか。
とにかく、この固まった気持ちのまま、俺は今日を勝負の一日としよう。
そんな決意の元、俺の文化祭2日目が始まったのだ。
辛いことも、悲しいことも……でも、今は何だか清々しい。
落ち着いていると言った方が正しいかもしれない。
既に自分の心が決まっているからだろうか。
とにかく、この固まった気持ちのまま、俺は今日を勝負の一日としよう。
そんな決意の元、俺の文化祭2日目が始まったのだ。
午前の部は昨日と同様、体育館で生徒会の企画したイベントを全校生徒で見る時間となった。
各運動部で行うステージや書道部によるパフォーマンス、個人発表などと、様々な催しが壇上で披露された。
あまり興味をそそらないものもあったが、そんな時は和希や真帆との談笑で時間を潰した。
と、午前の部は基本的にその場から動くことはないし、トイレ休憩以外で体育館から出ることは禁止されているため、雅達と直接会うことは難しい。
……いや、会おうと思えば会える。
が、俺の勝手な感情で、今のこの状況を、この雰囲気を壊すのは違う気がする。
俺がこれからする行動は、時も場所も考えずにすることではないのだ。
だが、午前の部が終われば、2日目は昼食から閉会式まで基本的に自由時間となる。そうすれば、俺達は動きやすくなる。
そこが好機だと思っていた。
だから午前の部が終わりに差し掛かった頃、俺は残りの2人にメールを送ろうとスマホを起動させる。
雅と彩乃には、2人ともあの空き教室へ呼び出そうとしていた。
どちらとも思い出のあるあの空き教室で、俺は最後の答えを出そう……そんな決意のもとで。
先に、雅の方へと呼び出しのメールを送った。
『話がある。今日の4時にあの空き教室に来てくれ』
しかし、雅とは色々とあった後だ。
もしかしたら、もう俺のメールを見てくれないかもしれない。
そんな不安に駆られながらも、俺は迷わずメールを送った。
そして、次は彩乃に同様のメールを送ろうとした、そんな時だった。
俺より先に、彩乃からメールが届いたのだ。
その内容は─────
『私、3時から第2体育館のステージでライブするのでよかったら見てください!』
こんなタイミングだったため、少し身構えていた節もあったが、そのメール内容を目にしてほっとした。
とても単純で、シンプルなものだったからだ。
そのメールが届いてすぐに俺は、「見るに決まってるだろ!」と、少々強めの口調で返信をした。
断る理由もないし、雅に連絡した時間まで正直ノープランだった。
和希達と適当に昼食を済ませ、その後はライブが始まるまで体育館で待っているというのもアリだ。
その旨を和希達に話すと、2人ともすぐに首を縦に振ってくれた。
彩乃には、ライブが終わったあとに直接場所と時間を伝えればいいか。
そんな考えのもと、午前の部が終わり、自由時間になったと同時に、俺達は昼食を取りに体育館から出た。
3人で校内を歩いていると、そこらじゅうから馨しい香りが漂ってくる。
昨日は自分達が出し物をしていたから気づかなかったが、こうしてあちらこちらからいい匂いがすると、急に空腹感を覚えてくる。
「なあ、どこで昼飯食うよ?」
「うーん……どうしようか」
「どこも美味しそうで困っちゃうね〜」
さくっと済ませようと思っていたが……正直迷う。
中庭でもいろいろと店が出ているみたいだし……どうしたものか。
そんな風に3人で頭を悩ませていた時。
「あら、そんな難しい顔してどうしたの?」
背後からそんな声が聞こえ、俺は反射的にその声の主の方へと体を向ける。
するとそこには、珍しく少しだけ制服を着崩している沙耶香先輩の姿があった。
「せ、先輩!?」
彼女を見て、俺は一瞬後ずさろうとしてしまった。
昨日のことがどうしても脳裏から離れない。
沙耶香先輩を見ると、昨日の彼女の表情を思い出してしまう。
ふっきれたつもり、だったんだけど……
真帆の方はあんな性格だから、そこまで気にならなかったが、沙耶香先輩には同じように接する自信がない。
そんな気持ちが無意識にあり、俺はバツの悪い表情を浮かべていた。が……
「昨日のこと、 ……まだ引きずっているの?」
俺の顔を見て何か勘づいた沙耶香先輩が少し心配そうに聞いてくる。
「あ、いや、その……少しだけ」
「そうなのね……」
俺が正直な気持ちを答えると、彼女もどこか苦しそうな顔をする。
沙耶香先輩もまだ……。
と、思ったのだが、それは違った。
「忘れろとは言わないけれど、あなたはもうちゃんと決めたのでしょう?なら後は前を向いて進むだけじゃないかしら?」
沈んだ心を叩き起すかのように、彼女は両手で俺の肩を強く握ってきた。
「私も、これからちゃんと前を向いていくから、ね?」
「先輩……」
そうだ。先輩は俺なんかよりもっと苦しい思いをしたはずだ。
そんな彼女が前を向けと、俺を激励してくれてもいるんだ。
その気持ちに応えなくてどうする。
「そう、ですよね。はい!俺、ちゃんと前を向いていきます!」
「うん、とてもいい返事ね」
「先輩っ」
そんな風に、俺と先輩との広がりかけた溝は、瞬く間に埋まっていった。
「おーい、俺達のこと忘れてんじゃないだろうなぁ?」
「完全に外野扱いだねぇ〜」
いつの間にか置いてけぼりにされていた和希と真帆が俺を睨みつけていた。
「あ、ああごめん!そういうつもりじゃ」
「それはいいけどよ、結局飯どうすんだ?あんまし道草食ってる余裕も無くなってきたぜ?」
「私お腹減ったよぉ〜」
「そ、そうだったな。まじでどうしよ……」
本来の目的を思い出し、再び店選びに迷っていた時。
「そういえば、生徒会の子から聞いたんだけど、人気なのは3年1組の出してる台湾風あんかけ焼きそばらしいわよ?」
「あ、そうなんですか?」
沙耶香先輩からの思いがけない提案に皆意識を持っていかれた。
要は普通のあんかけ焼きそばだが……「台湾風」と付けると妙に美味しそうに思えてくる不思議。
しかし、人気とあらば行く他ないだろう。
一応和希達に相槌を打つと、2人とも深く頷いたので、即決となった。
「じゃあそこにしようか」
「いいんじゃね」
「賛成ぃ〜」
総意がとれ、早速例の場所へと向かおうとした、その直後。
「私も、一緒に行ってもいいかしら」
「え?それは勿論大歓迎ですけど……」
別に仲間外れにした訳ではない。
先輩も来てくれるなら嬉しい。けど……
「でも用事とかはないんですか?」
昨日の昼間も沙耶香先輩達生徒会はとても忙しそうだったため、この時間に時間が空いているのか、という疑問を考慮しての事だった。
「今日は風紀委員の人達が仕事を代わってくれて、生徒会は自由時間を貰ってるの。だから……」
「そうだったんですね!じゃあ是非一緒に!2人もいいでしょ?」
そう言いながら和希達に視線を移すと、2人は間髪入れずに頷いた。
「よし、じゃあ早いとこ行こーぜ」
和希を先頭に、俺達は3年生が店を出しているスペースへと歩き出した。
到着した先では、既にずらりと長い行列が出来ていた。
人気と聞いていたからそこそこ並んでいるかもとは思っていたが、まさかこれ程とは……。
せっかく来たが、これじゃ彩乃のライブまでに間に合わないかもしれない。
そんなことを考えていた矢先だ。
沙耶香先輩が何やら調理場の方へと向かっていった。
彼女が近づいていくと、中から何人かの生徒が出てきて、歓喜の表情を浮かばせていた。
「すごいよ工藤さん!こんなにお客さん来るなんて!」
「これも工藤さんのおかげだよ!」
「流石は生徒会長ですね!」
「そんな、おおけざよ」
目をギラギラさせて迫る生徒達に、少し照れている様子の沙耶香先輩。
彼らの会話から察するに、この店がここまで行列を作っているのは、沙耶香先輩が手を回したからだろう。
先輩が人声かければ、そりゃ人が集まるわな。
そういえば、沙耶香先輩は3年1組だったっけ。
俺達は、沙耶香先輩がこの店に誘導した数多いる生徒のうちの3人というわけか。
まんまと誘導されたみたいだ。
先輩も意外と策士だな。
「それで、ちょっとお願いなんだけど、料理を先に貰えないかしら。4人分なのだけど」
長い行列ができている横で、小声でやり取りする3年生達。
沙耶香先輩がそんな手を取るとは思わなかったが、最上級生にもなるとやはりこういった悪知恵が働くのだろうか。
「もちろんですよ!すぐに用意します!」
そう言うと、返事をした生徒を含めた数人は、メインの調理場から離れ、補助用の小さな鉄板でこっそりと調理を始めた。
調理自体はものの数分で終了し、俺達の手元にあんかけ焼きそばが届いた。
実際には数十分並ばなければならないそれを、俺達は数分で手に入れることができた。
普通に並んで待っている生徒達には申し訳ないが、彩乃のライブに間に合わせたいという気持ちの方が強かったため、俺は躊躇なく食べ始めた。
味としてはやはり普通のあんかけ焼きそばなのだが、妙に美味しく感じる。
料理の名前が影響しているのか、それとも……。
俺はずっと前に皆で遊園地に行った時のことを思い出す。
あの時も確か有名だって言われた焼きそばを食べたっけ。
そういえば、あの時は色々あったな。
特に、彩乃と……。
……ドクン。
一瞬、俺の心が弾むような感覚を覚えた。
この感情が一体何なのか、俺はもう知っている。
……そうだったんだな。俺は……。
自身の気持ちを再確認しながら、俺は焼きそばを黙々と食べ進める。
そして、全員が完食したのと同時に、俺達は4人で彩乃が立つステージのある、第2体育館へと向かった。
第2体育館へ到着すると、既に大勢の生徒が集結していた。
ライブまであと30分もあるというのに、さっきの行列を遥に上回っている。
それほどまでに彩乃のライブを待ちわびているというのだろうか。
「すごい人だかり。ライブまでまだ時間あるのに」
「ライブもそうだけど、その前の生徒会企画に来ているんじゃないかしら、皆」
「生徒会企画?」
その言葉を沙耶香先輩から聞き、俺はすぐに配布されたスケジュール入りのうちわに目をやった。
2日目、2時半────生徒会企画、『この際全部叫んじゃお!』
「先輩、これって……」
「そう。まあ言ってしまえばよくある文化祭イベントね」
「なるほど、だから……」
その企画のタイトルと沙耶香先輩の説明から、概要は何となく察した。
文化祭でよく行われる、「この際だから普段話せないことを言ってやろう」ってやつだ。
漫画やアニメなんかでも、こういう場で告白なんかする生徒もいたな。
と、そんな会話をしているうちに、その生徒会企画が始まったみたいだ。
「さあ、ライブ前の生徒会企画!『この期に全部叫んじゃお!』を始めたいと思いまーす!」
『イェーイ!!!!』
司会の声に息を合わせて盛り上がる生徒達。
ライブ前から盛り上がりは最高潮の様だ。
「それでは早速いってみましょう!まずはトップバッター、2年5組の高宮くん、どうぞ!」
「数学の橋岡せんせー!授業中にいきなりデカい声出すのやめてもらっていいですかー。普通にビビるんスけどー!」
瞬間、その先生に注目が集まった。
橋岡先生のことは知っている。俺のクラスの数学も見ているからな。
確かに授業中、別に悪いことしてないのに、なんの前触れもなく急に叫び出すことあるな。
「あ、あれは……別に怒ってる訳じゃないが、たまに叫びたくなるんだ。許せ」
普段強面と言われている先生がやけに弱腰になるその様を見て、生徒達の中では笑いが飛び交った。
これぞ生徒会が狙っていた風景だろう。
これがトップバッターなら、まだまだ楽しめそうだ。
「ありがとうございました!それでは2人目の方、3年3組の東くん、お願いします!」
「購買部に一言!パンの値段全体的に安くしてくれー!」
そんな風に、生徒会企画は順調に進み、狙い通りの盛り上がりと言える状況だ。
そんな中、6人目でついにあの言葉が……。
「それでは6人目の方、2年1組の駒野くん、どうぞ!」
「はい!僕はこの期に告白します!同じクラスの吉川さん、好きです!僕と付き合ってください!!」
瞬間、会場がどよめきに包まれた。
まさか本当に告白する生徒がいるなんて、流石に思わなかったのだろう。
しかし、そんな驚きもつかの間で、彼らは勇気を出した駒野くんに歓声を送った。
「いいぞいいぞ!」
「よく言ったな!」
「相手の子、返事してやれよー!」
そんな煽りの中、スポットライトは告白の相手である女生徒へ向けられた。
その光に照らされるのは、顔を真っ赤に染め、恥じらうように拳をぎゅっと握る少女の姿。
「わ、私も、ずっと前から好きでした!よ、よろしくお願いします!」
注目の中、彼女の返事は「Yes」だった。
瞬間、会場は今までで1番の盛り上がりとなった。
文化祭マジックを目の当たりにした俺も思わず声を上げてしまう。
ステージの上で告白した男子生徒に関しては、尊敬の念すら覚えた。
もしふられれば、この時のことを生涯黒歴史として背負っていかなければならない状況で、よく堂々と言えるものだ。
そんな1人の告白に感化されたのか、ラストを飾るべくステージに立った生徒も、元々考えていた言葉を止め、告白へとシフトチェンジした。
「前の人に感化されました!俺も愛の告白します!隣のクラスの橘さん、好きです!俺と付き合ってくださーい!」
先程のように混乱することなく、スポットライトはその女生徒へと向かった。
そして、肝心の返事は……
「ごめんなさい!あなたのこと全然知らないです!」
申し訳なさそうに断る女生徒を見て、男子生徒はその場で灰のようになっていた。
そう、こうなってしまえば終わりだ。
だがその勇気……尊敬するぜ!
「あぁ、えっと……以上で生徒会企画は終了です!これよりライブの準備に入りますのでしばらくお待ちください」
撃沈した男子生徒を間近で見ていた司会はバツの悪い顔をしながらも企画を進めていく。
彩乃のライブまであと5分。
それまでの間、4人でさっきの告白のことを話していた。
「ナオもあんぐらい出来るようになったらどうよ?」
「いや流石に真似出来ねえ……」
「そうね。あれだけの度胸があったらこんな所まで引きずることなんてなかったでしょうね?」
「うぅ……っ」
痛いところをついてくる沙耶香先輩に、ついみぞおちを食らった時のような声が出る。が、彼女は「ふふっ、冗談よ」と嬉しそうに笑った。
なんか先輩、ちょっと意地悪になった気がするな。
と、そんな会話をしているうちに、ライブの準備は整ったようで、司会が話し始めた。
「さあいよいよ始まります!皆さんが待ちに待ったライブイベント!本日歌ってくれるのはこの方です!」
その声がけの直後、会場の照明が落ち、スポットライトの光だけがステージへと照らされた。
そして、ステージの脇から小走りで出てくる1人の女子生徒に、会場は歓声の渦に包まれた。
「皆さんこんにちはー!1年2組の春川彩乃です!」
休み明けに1度会ったっきり、今日まで1度も顔を合わせなかった彼女の姿がそこにあった。
1度書いた文章のデータが飛んでしまい、急遽書き直したものなので、誤字や脱字が大量にあるかもしれません。もし見かけましたら報告お願いします!




