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威嚇射撃

 少女の放った銃弾は俺の顔目掛けて――いや、少しだけ左に逸れる弾道だった。

 この距離で外したのかと一瞬思うが、そういえばさっきの男たちに対しても当たっていなかったことを考えると、わざと外して威嚇を目的にしているのだろう。


 とりあえず弾が逸れることが分かったので、俺はそのまま弾が通り過ぎるのを見送ってから、口を開く。


「悪い、驚かすつもりはなかったんだ。ただ柄の悪い連中が君の後をつけていったから、何かあったら助けようと思っただけで」

「……そう。……私は、無事」

「みたいだな」

「……用は、それだけ?」

「ああ、そうだ」


 たぶんさっきの連中の仲間と勘違いされたのだろうと思い、俺はまず誤解を解くように弁明した。

 けれど相変わらず、彼女は俺に対して銃を向けたまま、ジトっとした半眼で俺のことを見ている。


「えっと、誤解が解けたなら一旦銃を下ろしてもらえると助かるんだけど」

「……それとこれは、話が別……あなたは、少し変……警戒すべき」

「それは確かに否定できないけどさ……」


 普通は銃を撃たれれば、さっきの三人組のように、這う這うの体で逃げ出すのだろう。

 彼女は弾をわざと外してはいるが、当てようと思えばいつだって当てられるに違いない。

 引き金を引くことに何の躊躇いもない彼女を、一切恐れず普通に会話している時点で彼女からすれば充分に変だろう。


「いやでも俺は本当に怪しい者ではなくてだな」

「……それを決めるのは、私」

「そりゃ確かにそうだ」


 何というかとりあえず、この子は相当な頑固者な気がする。

 何にせよ、彼女が無事であるなら俺としてはこれ以上特に何も言うことはない。


「まあ、君が無事ならそれでいいんだ。どこ行くのかは知らないけど、安全には気を付けてな」

「……ん、ありがとう」


 ああ、そこは素直にお礼を言うのか。

 少し変な子ではあるけれど、悪い子ではないのかも知れない。


 ……まあ、いきなり銃で撃たれたんだけどな。


 とりあえずそんな感じで彼女に背を向けて、路地裏から大通りの方を目指して歩き出したが、結局俺は最後まで彼女に銃を向けられたままだった。




 そうしてクレープ屋に戻ると、ちょうど会計を終えたらしいクリスとステラがクレープの乗った紙皿を三つ受け取っているところだった。


 フルーツやジャム、クリームといったものを薄めの生地で包んでいて、確かにそれはクレープなのだけど……見た目は完全に餃子だった。

 そんな一口サイズの餃子の形をしたクレープが、紙皿にいくつか並んでいる。


 惜しい。もう少しだけ頑張って欲しかった。

 微妙に間違って広まってしまったようなこの世界のクレープを見て、俺はそんなことを思う。


 クレープの皿を持った二人は、俺の存在に気付いたようでゆっくりと近づいてきた。


「もう、突然どこ行っちゃってたの?」

「悪い。柄の悪い男たちが、女の子を追いかけて路地裏に入っていったから、少し気になったんだ」

「ふむ、分かりやすい状況じゃのう。それでおぬしはその女の子を助けてきたというのじゃな?」

「いや、俺が追いついたときにはその女の子は自分で男たちを撃退してて、俺は出る幕がなかったよ」


 そんな風に会話しながら、俺たちは近くの座れそうな場所までたどり着く。

 そこに並んで座り、さっそく俺たちはクレープを食べることにした。


 皿に乗っているうちの一つを食べてみると、味は元の世界のクレープそのもので、甘くて美味しいお菓子だった。確かにこの味なら人気で大行列が出来るというのも納得……見た目は餃子だけど。


「それで、その女の子ってどんな子だったの?」

「銃を持ってて、それをためらわずに撃って威嚇してたな。それで俺も仲間と誤解されて一発撃たれた」

「……その子って、もしかして金髪で」

「ああ」

「黒いリボンしてて」

「そうだ」

「露出の高い服とか着てたり」

「してたな」


 そんな風に、ステラはぽんぽんと少女の特徴を言い当てていく。

 そうしてステラは、少し困った顔をしながら、その言葉を口に出した。


「あー…………その子、確実に私の知り合いだわ」


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