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変わり者

 俺がさっき出会った少女はステラの知り合いなのだという。


「私の孤児院時代の幼馴染がその子なの。頭は良いんだけど、ちょっと変わってて」

「ああ、それはばっちり伝わった」


 ちょっとかどうかはかなり怪しいが。


「あの服も昔に私が冗談で衣装と同じものを作ってプレゼントしたら、動きやすいからって気に入って、それ以来自分でも調達して私服にしてるんだって」


 やっぱりあれは踊り子の衣装だったらしい。

 さすがに異世界とはいえど、あれはかなり特殊な服装で、街中では明らかに悪目立ちしていた。

 というかあれだけ扇情的な格好だと、良からぬ連中に目を付けられるのも分からない話じゃない。


 それにあの子は、容姿だけで言えば充分にかわいいと言える見た目をしていた。

 服装はともかく人気のない路地裏を避けるとか、もう少し用心しても良さそうだけど、そういう考え方をしないからこそ、長い付き合いのステラにも変わっていると言われるのだろう。


「というかステラ、それならあの子に会いに行くか? 会うのは久々なんだろ?」

「そうね……と言いたいところだけど、先にシンたちの用事を済ませちゃいましょう」

「うむ。その方が話もゆっくり出来るじゃろうし、そうするかのう」


 クレープを食べ終わるころには話がまとまった。

 まああの後あの子がどこに行ったのかは俺も分からないので、探す手間も考えたら先に魔法ギルドでドラゴンの魔石を換金してしまう方がいいだろう。


 そうして俺たちはギルドの集まる区画を目指して歩き出す。


 ああ、そういえば。


「なあステラ、あの子って名前はなんて言うんだ?」

「ノーラよ。ノーラ・アンテロイネン。昔は苗字なんて持ってなかったけど、学術ギルドで特別な勲章をもらった時に何か一緒についてきた、って本人は言ってたわ」


 何か一緒についてきた、と自分の苗字ことなのに他人事のように語ったらしい。

 それを聞いて何となくノーラという少女の性格がつかめてくる。たぶん、自分の興味のないことには淡泊なのだろう。


 そんな話をしているうちに、魔法ギルドに到着した。イニスカルラの魔法ギルドもかなり大きな建物だったが、さすが本部というだけあってこのヴェリステルの建物はさらに倍くらいの大きさをしている。


 中に入ってみると、内装はそこまで大きく変わっていないようで、いくつか受付が並んでいるのも同じだった。

 違いがあるとするなら、オカマの人がいないことくらいか。

 まああんな個性的で面白い人が何人もいたら驚きでしかないけれど。


「イニスカルラ支部のアウルから話が行っておるかも知れんが、ドラゴンの魔石を買い取ってもらいに来たのじゃが」

「ああ、あなた方が例の。少々お待ちください」


 クリスが受付の男性に話をすると、そう言われてしばらく待たされる。

 十分近く経って、ようやく奥の方から受付の男性が一人の女性を連れて戻ってきた。


「こんにちは。ギルドマスターのミレイです」


 ミレイと名乗ったその女性は、艶やかな長い黒髪に濃いブラウンの瞳をしていた。丈の長い黒のワンピースに白のカーディガンという格好からは落ち着きが感じられる。

 身長は女性にしては高く、俺と同じくらいで170cm半ばくらいはありそうだ。


 しかしそれ以上に何というか……若い。


 ギルドマスターというのだから、魔法ギルドでは一番偉い人物なのだろうが、見ようによっては二十代前半にも見える外見だった。


「話によると、あなた方がドラゴンを倒したそうですが……なるほど、そういうことですか」


 ミレイはそう言って俺の方を見て笑う。


 ――どうして俺の方を見る?

 ――その笑みの意味は何だ?


 彼女にはこちらの全てを見透しているような、そんな雰囲気があった。

 もしかしたら彼女は、俺の正体を一目で見抜いたのかも知れない。まあ別に隠すつもりがあるわけでもないんだけど。


 そんな風に考える俺に構わず、ミレイは話を続ける。


「それでは、魔石の方を拝見させてもらっても構いませんか?」

「うむ、これじゃ」


 そう言ってクリスがドラゴンの魔石を取り出す。

 受付の男性はそれを見て驚きの表情を隠せずにいたが、一方でミレイは表情一つ変えずに言う。


「申し分ありませんね。では現在のレートに従い、こちらは金貨十五枚で買い取りを致します」


 確か金貨一枚が元の世界の300万円くらいだったはずだから、十五枚だと4500万円になる。

 ……マジか。


 しかしこんな石一つに、それだけの値段がつく理由ってそもそも何なんだろうか。


「一つ訊きたいんだが、この魔石ってそんなに価値のあるものなのか?」

「ええ。ドラゴンは倒すことも困難ですが、そもそも遭遇することさえ稀なのです。目撃情報でさえこの十年くらいは皆無だったと思いますよ」

「いや、そうじゃなくてだな……それだけの金を払ってこの魔石を手に入れたとして、その価値に見合う使い方ってのが想像出来ないんだ」

「ああ、そういうことですか。といっても魔石は単純にエネルギーの塊ですから、何だって出来てしまいます。人間の持つマナでは到底起動できない術式も、魔石の補助があれば扱えるようになります。ドラゴンの魔石クラスであれば、それこそ街一つ消し飛ばす、なんてことも可能ですね」


 ――街一つ消し飛ばす。

 そんな物騒なことも、笑みを浮かべながらミレイは言う。

 淡々と事実を例示しているだけで、そこに冗談という雰囲気はない。


「もちろんそんなもったいない使い方はしませんけどね。まあ何にせよ、この魔石には金額相応の価値がある、ということは理解していただけましたか?」

「……ああ、よく分かったよ」

「うふふ、それは良かったです」


 確かに使い方次第ではあるが、金額に見合った見返りを得ることはそう難しくもなさそうだ。


 しかし何というか、このミレイという人は得体の知れない存在感がある。

 若くして魔法ギルドの長を務めているのだから、もちろん只者ではないのだろうけど。


 ノーラにしろミレイにしろ、この世界にもいろんなタイプの人がいるんだな……いや、当然なんだけどさ。


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