学園都市ヴェリステル
聖都イニスカルラを出発してからちょうど七日目。
ようやく俺たちは目的地である学園都市ヴェリステルに到着した。
イニスカルラは段々畑状に石造りの建造物が層をなしていたが、ヴェリステルは平地に様々な様式の建物が雑多に立ち並んでいた。
木造の家もあれば、レンガ造りの家もある。イニスカルラみたいな統一感はないが、建築技術やデザインはヴェリステルの建物の方が洗練されているように思えた。
あと特徴的なのは道にまんべんなく石畳が敷き詰められていることだ。イニスカルラは土がむき出しの区画も多かったが、今のところ見た範囲ではヴェリステルに土がむき出しの道はない。
「イニスカルラもずいぶんと活気があったけど、ヴェリステルはそれ以上だな」
「全てのジャンルの最先端が集まる街だからね。自然と人も集まるのよ」
ステラがそう解説してくれる。
技術も知識も流行りも、全てがここから生まれる。人が集まらないわけがない。
「美味しいものも多いしのう」
「そういえば、なんか最近新しいお菓子が流行りなんだって。『クレープ』っていうらしいんだけど」
「ほう、それは楽しみじゃのう」
「それなら小腹もすく時間だし、先にそれを食べに行ってみるか?」
俺がそう提案すると、二人とも賛成してくれた。
そのまま店の場所を知るステラに案内してもらって店に着いてみると、そこは想像以上の大行列だった。
「これは凄いな」
「さすがに凄い人数ね……どうする?」
「別に並んだらいいんじゃないか? なあクリス」
「うむ、急ぎの用事もないしのう」
それに行列は凄いが、列が進む速度も早い。おそらくそこまで時間はかからないだろう。
それにしても気になるのは、クレープというお菓子。
それは俺が元いた世界にあった同じ名前のお菓子と同じものなのだろうか。
仮に同じものだったとして、それが最近流行りだしたというなら、それを広めた人物はもしかして――。
などと考え事をしていると、ふと視界の端に一人の女の子の姿が映る。
身長は150cmより少し高いくらいで、歳はおそらく俺より少し下だろう。
腰まで伸びたまっすぐな金髪と、それを飾る黒いリボンが印象的。
けれどそんなこと以上に、何よりも特徴的なのが、その服装だった。
まるでステラの踊り子の舞台衣装のような、過剰な露出の服を着て街を平然と歩いている。
さすがにステラの衣装のように透明なひらひらした布まではついていないが、全体のデザインはよく似ていて肩もお腹もむき出しだった。たぶん間近で見ると目のやり場に困る。
そんな女の子が、一人で人気の全くない薄汚れた路地裏に向かって歩いていく。
この街の治安状況はよく知らないし、まだ午後のティータイムくらいの時間なので日は充分に高い。
それでも何故か少しだけ、俺は彼女のことが心配になった。
そうすると案の定というべきか、彼女のことを付け狙うように、汚い身なりの男が三人、同じ路地裏に入っていった。
……分かりやすいな。
「悪い、二人はそのまま並んでてくれ」
俺はそうクリスとステラに言い残すと、返事を聞く前に女の子と男たちが消えていった路地裏に向かって走り出す。
狭い路地に人影はない。少し先にある脇道を曲がって、さらに路地の奥まった方に行ったのだろう。
そうして俺がその脇道までたどり着いた、その瞬間――。
タンッ、タンッ、タンッ――。
三回、小気味良く響く音。
一瞬何の音か分からなかったそれが銃声だと理解出来ると同時に、脇道の先から三人の男が必死の形相で逃げ出してきた。
俺は体を半身にし、道を開けるようにして三人を通してから、その先に進んでみる。
そこにいたのは、熱を感じさせない冷めた半眼でリボルバー式の古びた拳銃を構える少女。
「……まだいたの?」
「え?」
彼女はそう呟いた直後――迷いなく、その引き金を引いた。




