混浴の露天風呂
「まさか異世界にも風呂があるとはなぁ……」
「何じゃ、おぬしの世界にもあったのか?」
俺たちは宿にあった露天風呂につかりながらそんな会話をする。
クリスが言っていた設備というのは風呂のことだった。
……何で男女別じゃないのかって?
それは俺も思ったが、この世界では混浴が普通なのだという。
その証拠に、今俺たちの入っている風呂には老若男女、種族も問わず二十人近くが入っている。
この世界では風呂という設備は最近出来たばかりで、まだ珍しいものなのだという。
風呂には希少な魔道具が必要で、だから男女を分けられるほど数がない。
というわけでこの世界では混浴が当たり前になっていた。
混浴という文化は元の世界にもあったけど、もちろん俺は経験したことがない。
だから最初は抵抗があったし、当然恥ずかしかった。
しかし、周りは誰も恥ずかしがっておらず、堂々としている。
そんな中で一人だけ恥ずかしがっている方が正直恥ずかしい。
そういう考えに至るまで、わずか数分の話だった。
クリスと二人きりとかパンツが見えそうとか、さっき部屋でドキドキしていたのは何だったのだろう。
10分もしないうちに全裸を見られたし、見てしまった。もうどうにでもしてくれ。
というわけで今の俺は完全に開き直っていた。
「あー、生き返る……」
俺はリラックスしながら呟く。
旅の道中では水で体を拭いたりはしていたが、やっぱり風呂とは全然違う。
体の疲れがお湯に溶けていくような感じがする。
「せっかくおぬしを驚かせてやろうと思ったのに」
「いや驚いたって」
「そうではなくて! もっとこう、『異世界すげぇ!』って感じの反応が見たかったのじゃ」
たぶんこの世界の人にとっては、風呂という発明は画期的で凄かったのだと思う。
だから当時のその感動を共有したかったようだ。
残念ながら元の世界にも風呂があったせいで、思惑通りにはいかなかったみたいだけど。
でも、そうしたクリスの気持ちは嬉しかった。だから俺は礼を言うことにする。
「……クリス、ありがとう」
「何じゃいきなり?」
「クリスはこの世界の良いところを俺に紹介してくれたんだろ? 俺がこの世界を好きになれるように」
お人好しで世話焼きなクリスのことだから、たぶんそんな風に俺に気遣ったのだと思う。
それはきっと、この旅が始まったときからクリスが考えていてくれたことなのだろう。
「……恥ずかしい」
「え?」
「失敗した上に見透かされて礼まで言われるなんて、恥ずかしいのじゃ! ええい、次じゃ! 次こそは必ずこの世界の凄さを見せつけてやるのじゃ!」
「……何か目的変わってないか?」
「問答無用じゃ! 絶対におぬしに『異世界すげぇ!』って言わせてやるから、覚悟しておれ!」
「分かった、分かったから立つなって、見えるだろ」
俺は興奮して立ちあがるクリスから目を逸らしながら注意する。見えるというのは胸とか、まあ色々だ。
開き直ったとはいえ、やっぱりまだ直視するのは抵抗がある。そりゃそうだ。
ということで、よく分からないが俺は覚悟しておく必要があるらしい。
といってもなぁ……。
俺はこの世界の凄さをこれまで体感しつづけてきたつもりだ。
魔法があって、ドラゴンみたいな魔物がいて、人間以外の種族もたくさんいて。
特にクリスの魔法には最初から驚かされてばかりだ。
治癒魔法に、氷の魔法、そして空間魔法。
たぶんクリスはまだまだ色々なことが出来るはずだ。
ということはクリスと一緒に旅をしていれば、これからも必然的に異世界の凄さを体感していくことになるだろう。
けどそれは「クリスすげぇ」であって、クリスの望む「異世界すげぇ」とは違うものなのかも知れない。
まあそれは俺が考えても仕方のないことか。
「それにしてもクリスって、意外と意地っ張りというか、負けず嫌いなんだな」
「……おぬしにだけは言われとうないが」
ジト目で睨むクリス。怖いというよりは正直言ってかわいい。
その後ほどよく体も温まったところで、風呂を上がって部屋に戻る。
そのまま少しのつもりで寝台に横になったら、急激な眠気に襲われた。
どうやら慣れない旅の疲れが俺も気付かないうちに溜まっていたらしい。
「クリス……悪い、寝る……」
「うむ。……おやすみ、シン」
「………………」
クリスに返事をしたかも分からないまま、俺は眠りに落ちた。




