冒険者ギルド
「シン、朝じゃぞ」
クリスに起こされて目が覚める。
どうやら予想以上に爆睡していたらしい。
その甲斐あって、疲れはちゃんと取れたみたいだ。
俺はすっきりとした状態で朝の支度をすることにした。
ちなみにこの街では地下水を汲み上げる魔道具が普及していて、水道が普通にあった。だから顔を洗うのも部屋で出来る。元の世界では当たり前だったけど、かなり便利だ。
まあ俺もクリスも魔法で水を出せるから、水浸しになることさえ注意すれば水道にそこまで依存はしないだろうけど。
一通り支度が終わってから、俺は待っていたクリスに声をかけた。
「悪い、待たせた」
「構わぬ。それで朝食はどうする? ここの食堂でも食べられるし、街で食べても構わぬが」
クリスに訊かれて、俺はここで食べると返事をした。
一度は宿屋の飯というのを経験しておくのも悪くないと思ったからだ。
宿屋の食堂は結構な広さがあり、100人は入れそうな雰囲気だった。
利用者はちらほらいるが、広さの割には少ないように思う。
メニューは入り口の壁に張り出されている。朝食だからか、あまり種類は多くない。
俺はその中から定番らしいセットメニューを選ぶ。クリスはフルーツセットを注文した。
味の方は、正直言って微妙だった。パンのような主食はぱさぱさしているし、サラダもしんなりとしていて新鮮ではなさそうな感じだ。
不味いというほどではないが、取り立てて褒めるところもない、無難な朝食だった。
少なくとも、この世界で最初に食べたクリスの料理には遠く及ばない出来。
ちなみにクリスはフルーツの盛り合わせを美味しそうに食べている。
確かにフルーツの盛り合わせを不味く作る方が難しい。クリスの選択は正解だ。
「うん、よく分かった」
「うむ? 何が分かったのじゃ?」
「クリスの作る料理の方が美味いってことが」
「……そうか。仕方ない、それなら旅の道中では儂が作ってやろう」
そう言ったクリスはどことなく嬉しそうだった。
朝食を終えて、俺たちは街に出る。
「ドラゴンの魔石の買い取りまでまだ三日もあるし、ただ待っておるのも退屈じゃろ?」
「確かにな。何か丁度いい時間つぶしでもあるのか?」
「時間つぶしとは少し違うかも知れんが、今日は冒険者ギルドで依頼でも受けてみようかと思う。おぬしがこの世界で生業とするには、現状一番向いておる仕事じゃろうしな」
「冒険者、か」
確かに俺は戦闘に関してならかなりの力があるらしい。冒険者というのが一番向いているのは間違いないのだろう。
早いうちに一度経験しておくのも悪くない。
ということでクリスに連れられて冒険者ギルドにやってきた。
ちなみに魔法ギルドがあったのと同じ区画にある。というか100メートルくらいしか離れていない。
建物に入ると、複数の受付が並んでいた。
とりあえずは俺も開いている受付に自分の用件を伝えることにする。
「すみません、冒険者の登録に来たんですけど」
「はい、それではこちらの用紙に記入をお願いします」
受付の女性は事務的に言った。
ちなみにその人は20代半ばくらいで、しっかり者の雰囲気。仕事が出来そうという印象だ。
俺は貰った用紙に必要事項を記入する。
名前、種族、年齢、性別。
あとはギルドの規約を守りますという宣誓文。意外と記入事項は少ない。
ギルドの規約を読んでみたが、特に変なことは書いていない。というかかなり制約が緩い。
ギルドは仕事を依頼し、冒険者は仕事を受ける。あくまでビジネスとしての関係らしい。
ちなみに依頼によって発生した被害などに関して、ギルド側は一切責任を負わないとある。
冒険者が死んでもそれは自己責任ということだ。それはまあ、そうだろう。
問題なさそうなので、俺は記入した用紙を受付に提出する。
「講習はお受けになりますか?」
「講習?」
「ええ。当ギルドでは魔物の生態やダンジョン、採集物に関する基礎知識など、冒険者として最低限必要な知識に関する講習を行っています」
それは少し魅力的だった。何せ俺はこの世界のことはまだよく分かっていない。
そんなことを考えていると、後ろに立っていたクリスから声がかかる。
「やめておいた方が良いぞ。実際の依頼には大して役には立たんし、費用もかかるしのう」
「ああ、有料なのか」
現状資金に困ってはいないから、もし俺が一人で旅をしていたなら講習を受けるのも悪くなかったかも知れない。
ただよく考えれば俺には博識なクリスがいた。分からないことがあればクリスに訊けばいい。
講習を断った俺は、次に依頼を探すことにする。
多いのは討伐、採集、護衛といったもの。一応相場はあるようだが、基本的には依頼者が報酬は決定するみたいで、難易度と報酬が単純に比例するわけではないらしい。
割の良い依頼はすぐに無くなるし、報酬の割に手間のかかる依頼は余りがち。よくある話だ。
ちなみに依頼によっては冒険者の必要最低ランクが定められているものがある。
ランクというのは冒険者の実績を表す指標で、最初はFからとなる。だから俺もFランクだ。
最高でSランクまであるが、Sランクは世界にも数えるほどしかいないらしい。
冒険者としては、Cランクもあれば一目置かれる。
そして国などからの大きな依頼は、Cランク以上にしか開示されないという。
冒険者として活動するなら、とりあえずはCランクを目指すことになるようだ。
「ふむ……手ごろな依頼は、これかこれ……こっちは割は良いが三日では終わりそうにないのう」
依頼は周辺の町や村からのものも多い。
俺はまだ地理が分からなくて移動時間も計算できないからクリスと一緒に依頼を選んでいる。
そうしていると、突然女の子の大きな声がギルド内に響き渡った。
「ちょっと! 護衛が出せないってどういうことよ!」




