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異世界の政 ~持続可能な異世界で、元総理が気づけばまた政治をしているわけですが~  作者: 五号戦車


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賽は投げられたⅢ

ウェルマ村へと続く街道の先に、二十名ほどの武装した一団が進んでいた。

隊列を組むのは、私が手ずから整えてきた自衛隊の精鋭を率いる騎士パウロだ。一分の乱れもなく整然と歩を進めるその姿は、規律ある軍人そのものである。


「レオナルド様、このような荒事、我らにお任せくださればよろしいものを」


馬を並べるパウロの進言は、もっともだった。相手は上級騎士の息子とはいえ、一介の横領犯に過ぎない。わざわざ領主家の人間が直接出向く必要などないのだ。


「お気遣い感謝します、パウロ。ですが――これは私の仕事でしょう」


手綱を握り直しながら、私は静かに返した。

上級騎士ゼノスが率いる旧態依然とした騎士階級への、明確な宣戦布告。

この逮捕劇を合図に、グレリオ男爵領内の内紛は決定的な段階へと突入し、もはや後戻りはできなくなるだろう。

今後起こりうるであろう血生臭い展開や家中の一大整理を考えると、正直なところ少し気が重くもなる。だが、膿を出し切るためには絶対に避けては通れない、必要な外科手術なのだ。


ふと、領都を発つ直前に交わした、異母兄マルチェロとの短い対話を思い出す。

ゼノスから接触を受けた件について直接言葉を交わしたのだが――私はこれまで、あの兄に対して少々勘違いをしていたようだ。

己の庶子という立場を弁えすぎているあまり、少々遠慮がちで影の薄い兄貴だと思っていた。だが、実際に腹を割って話してみると、実に芯の通った人物だったのだ。

ゼノスの甘言を綺麗に跳ね除け、何が家のためになるのかという「道理」を深く理解し、自身の感情を交えずに的確な言葉を選ぶ慎重さ。なるほど、あの冷静沈着な宰相ゲオルグの甥という血筋にも大いに頷ける。


(……ああいう男は、危うい天秤の上でこそ真価を発揮するかもしれんな)


思わぬ掘り出し物の身内に、思わず口元へ薄い笑みがこぼれそうになる。

だが、視線の先にウェルマ村の木造の防壁と正門が見えてきた瞬間、私は思考を切り替え、表情を引き締めた。


門の前には、すでに執政官たる騎士ユーゲルが、副官の騎士を伴って出迎えるように立っていた。

かつて私が土を耕し、特産品を育てて立て直した思い出の村を、己の私腹を肥やす餌場にしていた男だ。

ライモンド兄上を神輿に担ぐゼノスの息子という驕りがあるのか、馬上の私を迎えるその立ち姿には、臣下としての敬意など欠片も見当たらず、どこか不遜な侮りが透けて見えていた。


その不敬を、先頭を進んでいたパウロが見逃すはずもない。


「――控えよッ! レオナルド様の御到着であるぞ! 主筋を前にして、臣下の礼も取れぬか!」


歴戦の古参騎士であるパウロの、雷鳴のような一喝が村の門前に轟き渡った。

気圧されたユーゲルは舌打ちを噛み殺し、忌々しげに腰を折ってようやく頭を下げた。横に立つ副官の騎士も、慌ててつられるように深く平伏する。


私は馬上から冷徹な視線を落とし、頭を垂れるユーゲルの頭頂部を見下ろした。

情けをかける猶予など、最初から一秒たりとも用意していない。


「騎士ユーゲル」


乾いた冷たい声で、名を呼ぶ。


「調査の結果、貴殿がウェルマ村の執政官の地位を悪用し、数年にわたり村の備蓄穀物を横領、公都の商人と結託して私腹を肥やしていた動かぬ証拠が揃いました。帳簿の改ざん、裏領収書、そして立ち会った倉庫番と商人の証言、すべて押さえてあります」

「なっ……!?」


弾かれたように顔を上げたユーゲルに対し、私は淡々と、容赦なく宣告を下した。


「執政官として預かった領有財産の横領、帳簿改竄、不正売却の疑いにより、貴殿の身柄を拘束します――パウロ、捕縛しなさい」

「はっ! 者ども、取り押さえよ!」


パウロの号令一下、背後に控えていた自衛隊員たちが一斉に雪崩れ込み、ユーゲルを地面へとねじ伏せた。

背中を踏みつけられ縛り上げられていくユーゲル。


「ふざけるな! 貴様ら、この私を誰だと思っている! 私の父は、男爵家を長年支えてきた騎士ゼノスだぞ! 卑しい流民風情が、騎士たるこの私に気安く触れるなッ!」


唾を撒き散らしながら暴れるユーゲル。

家柄と血統を唯一無二の盾だと信じて疑わない、旧態依然とした武門の典型的な驕りだ。

私は馬上から揺れる手綱を静かに握り直し、冷め切った視線でその男を見下ろした。


「それが、領民から預かった財を盗んでよい理由にはなりませんよ、ユーゲル」


感情の籠もらない私の淡々とした声に、ユーゲルはぎょっとして視線を上へと跳ね上げた。


「盗んだだと……!? 言いがかりをつけるな! 村の管理を任された執政官が、裁量の中で多少の実入りを得ることの何が罪だと言うのだ! 昔からどの村でも行われてきた慣習ではないか! それを、このような小僧の独断で……!」

「慣習、ですか。それを盗人猛々しいと言うのです」

「おのれ……レオナルド! このような暴挙、父や騎士団が黙って見過ごすと思うか! 私を縛るということは、ゼノス率いる騎士たち全員を敵に回すということだぞ! 正気か貴様はッ!」

「申し開きは領都にて領主代理の元で聞きますよ」


これから始まる領内の動乱を前に、私は胸中で静かに告げていた。


(さあ、賽は投げられた)


-----人物紹介-----

オズモ・ペルノー

人族・16歳

グレリオ男爵家に仕える騎士パウロ・ペルノーと、レオナルドの乳母を務めたロザリンダ・ペルノー夫妻の三男。男ばかり五人兄弟の三番目にあたる。

武門に仕える家に生まれ、二人の兄も騎士の道へ進んだが、幼い頃にウェルマ村でレオナルドの改革を間近に経験したことで、自らは剣ではなく文官として領地を支える道を選んだ。

実直で几帳面な性格で、帳簿や数字を扱うことに長ける。レオナルドから教えられた「数字だけを見るな。数字の向こうにいる人間を見ろ」という言葉を仕事の基本としており、若くして調査や監査の実務に頭角を現し始めている。

後に五人の兄弟は、それぞれ異なる分野でレオナルドを支えることになる。

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