自衛隊Ⅲ
「それは無理というものですぞ、若様」
工房の机の上に広げられた図面を指先で叩きながら、わしは率直に難色を示した。
若様から持ちかけられた相談の題目は、新設された自衛隊における「装備の規格の統一」であった。
図面と説明を見れば、若様の意図は痛いほどよく分かる。同じ規格、同じ形状の武具を揃えておけば、破損した際の替えも戦場での補充も容易く、量産によって鍛冶の手間も費用も劇的に抑えられる。理屈の上では、誠に理にかなった見事な着想だ。
だが、鍛冶師の現場から言わせてもらえば、机上の空論と言わざるを得ない。
「人族だけであれば、大中小の数種類の型を用意すれば何とか誤魔化しも利きましょう。しかし、あの自衛隊は人族のみで構成された部隊ではございませんぞ」
わしの言葉に、若様は静かに耳を傾けておられる。
「あの部隊には、人族だけでなく獣人や亜人が混成されております。狼人族に猿人族、筋骨隆々の者から身軽な者まで様々だ。骨格のサイズも、重心の掛かり方も、膂力も、果ては手になじむ得意な武器の形状すら何もかもが違いすぎる。あれらを一つの型に押し込めば、かえって彼らの強みを殺すことになりますぞ」
そこまで一気にまくし立てると、若様は腕を組み、「なるほど、それはそうですね」とあっさりと納得してしまわれた。
自らの考えに固執せず、現場の職人の意見を素直に受け入れる柔軟さは、相変わらずこの歳にして舌を巻くところがある。
図面を眺める若様の様子を見るに、どうやら若様は自衛隊員たちへ武器や防具を一式「支給」してやりたいと考えておられるようだった。
通常の騎士であれば、先祖伝来の武具や高価な甲冑は己の財力で自前で用意するのがこの世界の常識だ。しかし、あの隊員たちは昨日まで土を耕し、日々の糧を得ていた平民や流民たちである。高価な鉄製の剣や鎧など、自分たちで買い揃えられるはずもない。
なればこそ、規格化ではなく別の手立てが必要となる。
わしは髭を擦りながら、代案を口にした。
「画一的な量産は諦め、隊員ごとに合わせた装備を定期的に仕立てて支給する形にしてはいかがですかな? 一度に揃えようとせずとも、順次行き渡らせていけばよい」
若様はしばし天井を見上げて思案された後、ふっと笑みを浮かべられた。
「いいですね。定期的に支給し、損耗した古い装備を回収して炉で打ち直せば、貴重な鉄の再利用も可能です。それでいきましょう」
話がまとまったのは結構なことだが――その合意が下された翌朝から、わしの工房は地獄のような忙しさに叩き落とされることとなった。
「おい、動くな! 尾っぽの付け根の寸法が狂うだろうが!」
「そっちの熊人族の腕の太さを測り直せ! 人族の倍近くあるぞ!」
工房に次々と呼び出される自衛隊員たちの採寸、それぞれが要望する得物の聞き取り、そしてそれらを現実的な防具の形へと落とし込む微調整の連続。
狼人族の体躯に合わせた頑丈な革鎧、猿人族の長い腕と柔軟な関節を妨げぬ防具、膂力に優れた者が振るう幅広の刃――。一人として同じ体躯の者がおらず、型紙は見る間に机を埋め尽くしていく。
額の脂汗を袖で乱暴に拭いながら、わしは山積みになった羊皮紙の束を前に、大きなため息を吐き出した。
(まったく……なんてことを提案してしまったのか。はてさて、全員分の武具が揃うのは一体いつになることやら)
ぶつぶつと愚痴をこぼしながらも、わしの手は自然と槌を握り直していた。あの若様が手ずから育てようとしている軍勢だ。どれほど手間がかかろうと、半端な鉄屑を持たせるわけにはいかんからな。




