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異世界の政 ~持続可能な異世界で、元総理が気づけばまた政治をしているわけですが~  作者: 五号戦車


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自衛隊Ⅰ

アルヴァの山々も雪解けの季節を迎え、リオネルの地に柔らかな春の風が吹き始めた頃、新設する常備軍の編成作業は思いのほか難航していた。

自警団から募った志願兵は、当初の予想を遥かに超える数に達していた。選抜と適性検査を慎重に行う必要があり、審査と面談を重ねるうちに少々時間を食ってしまったのだ。

だが、それ以上に時間を要したのは、この軍の「位置づけ」を巡る家中での擦り合わせだった。


ロメロ兄上、ライモンド兄上、そしてゲオルグを交えて深夜まで議論を重ねた結果、この軍は「領内の防衛にのみ用いる」という厳格な制約を課すことで決着を見た。

つまり、公国からの要請で他領や国境へ遠征する公国軍としては動かせない、完全な領内防備専用の兵力ということだ。

もっとも、私としては最初からシエル伯の潜在的な脅威に対抗するための抑止力として構想していたのだから、領内専守に縛られようと実用上の問題は何一つない。


専守防衛の軍隊か……。

前世の記憶を思い返し、些かの皮肉を込めて、この軍の呼称を「自衛隊」と定めてみた。

もちろん、こちらの世界の人間にそんな洒落が通じるはずもない。

書類上の正式名称は、異世界の言語であるアルビオン語に英語の直訳で『Self-Defense Forces』に相当する単語を当てはめただけだ。仮にこの世界に同郷の転生者がいたとしても、その真意に気づくかどうかは甚だ怪しいところだろう。


練兵場の土埃の向こうに整列したのは、第一期の選抜をくぐり抜けた百六十名あまりの志願兵たちだった。

見渡せば、隊列の大半を占めているのは獣人や亜人たちだ。

それも道理である。そもそも自警団は、急速に受け入れたアルヴァ王国の移民たちを積極的に採用して組織したものだ。その母体から有志を募れば、構成比がこうなるのは至極当然の帰結だった。

家中からは「他領から流れてきた者たちに、真の忠義など期待できるのか」と危惧する声も上がった。だが、私はそうは思わない。

飢餓や迫害を逃れ、このリオネルで人としての暮らしと温かな土地を手に入れた彼らだからこそ、「この居場所を守る」という防衛の士気は誰よりも高くなる。

もっとも、この刃を彼らの故郷であるアルヴァ王国へ向けろと言えば話は別だろうが――幸いなことに、現時点でそんな戦争を起こす予定など欠片もない。


整列する兵たちの顔ぶれを検分していると、ふと懐かしい面々が視界に入った。

ウェルマ村の自警団からも、数名が志願して合格していたのだ。

狼人族のバウンド、猿人族のウカン、そしてかつてワーグナー技師とともに移住してきたドワーフのグラーフさんまでいる。

視線が合うと、バウンドとウカンが、普段の彼ららしくもなくぎこちなく背筋を伸ばし、慌てて軍礼をとってきた。

その瞬間――ウカンの顔が視界に飛び込んできた。


「……ぶっ」


思わず、口元から噴き出すような笑いが漏れてしまった。

慌てて手で覆ったものの、収まるどころではない。肩が激しく震え、笑いの波が次から次へと押し寄せてくる。完全にツボにはまってしまった。

ウカンは「なんで若様がそんなに笑ってるんだ……?」と、心底怪訝そうな顔をしている。

駄目だ、その顔を見れば見るほど笑いが止まらない。

唐突に前世の記憶の引き出しが開いてしまったのだ。

昔、テレビのドラマで観た、あの中国の有名な古典物語――そう、猿人族のウカンが真面目な顔を作れば作るほど、あの有名な猿のキャラクターに驚くほど瓜二つだったのだ。


(待ってくれ、待ってくれ……お前、それは反則だろ……っ)


腹筋が攣りそうになり、目元に滲んだ涙を指先で拭う。

当惑しきっているウカンに向けて、息も絶え絶えに右手をひらひらと振った。


「す、すまない……っ。昔見た劇の登場人物に、あまりにそっくりで……っ」

「は、はあ……?」

「もみあげの毛をフーッってやってみてくれよ」


無論、事情を説明したところでウカンに伝わるはずもない。彼はどう反応していいか分からず、困り果てたようにバウンドと顔を見合わせていた。

必死に呼吸を整え、まだ引きずっている笑いを噛み殺そうとしていた、その時だった。


「――おい、レオ」


背後から、低く楽しげな声が降ってきた。

ぎょっとして振り返ると、そこには木剣を肩に担いだライモンド兄上が立っていた。


「ずいぶんとご機嫌じゃないか。久しぶりに、お前に稽古をつけてやろう」

「……え?」


兄上は白い歯を見せ、にっこりと極上の笑顔を浮かべている。


(いやいやいや、待ってください。私は自衛隊員じゃないんですけど……!?)


引きつった私の抗議など、歴戦の武辺者である兄上はまるで聞き入れる気がないようだった。逃げ場のない練兵場で、兄上の瞳が獲物を捕らえた獣のように爛々と輝いていた。

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