葬儀Ⅱ
叔父であるシエル伯リオンから、婚約者の父の葬儀へ参列するよう言い渡されたのは、昨晩のことだった。
公都から戻った叔父は、何やら上機嫌で口元に薄ら笑いを浮かべており、それがたまらなく気味が悪かった。
先代伯の庶子に過ぎなかったこの男が家督を握って以来、私はこの人物と言葉を交わすことすら虫唾が走るほどの嫌悪を覚えている。下手に詮索して余計な火の粉を被るのを避けるため、私はただ視線を伏せ、「分かりました」と短く素知らぬ顔で答えるのが一番だと心得ていた。
しかし、叔父は妙に饒舌だった。
「ライモンド殿は今、深い傷心の只中におられる。婚約者であるお前がいの一番に駆けつけ、優しく慰めてやるとよかろう」
などと、こちらが気圧されるほど下世話な言葉を平然と口にしてくる。
正式な婚姻まで、まだ丸三年もの月日があるというのに。
そして、叔父がこれ見よがしに語る話を聞き及ぶにつれ、私の背筋には生々しい悪寒が走った。
グレリオ男爵が遠征先の陣中で毒殺され、天幕に同席していたライモンド様があろうことか実父毒殺の疑いをかけられたのだという。そして、その絶体絶命の窮地に陥っていた彼を、自らが口添えをして救い出してやったのだと、信じがたい武勇伝のように語ってみせたのだ。
(……この男の周りでは、どうしてこうも暗殺や不審死ばかりが続くのかしら)
私の父と父の弟が相次いで謎の死を遂げ、伯爵だった祖父までもが後を追うように亡くなり、この男が伯爵位を奪い取ったあの日々が脳裏をよぎる。
それが偶然などとは思えない。
だが、証拠は何一つない。伯爵位を握った叔父を相手に、軽々しく口にできる疑念ではなかった。
さらに叔父は、私へ冷徹な声音で命じてきた。
「葬儀のついでに、向こうの内情を余さず探ってこい。グレリオ領を実質的に動かしている中心人物は誰か、発言力のある騎士や貴族は誰と繋がり、誰と反目しているのか。……目につき、耳に入ったものはすべて頭に叩き込んで私に報告しろ」
それが他家に嫁ぐ貴族の女の立派な仕事だ、と叔父はさも当然のように言い放った。
要するに、私を間者として男爵領の懐へ潜り込ませ、弱みを握ろうという腹づもりなのだ。
あたたかで廉潔な人柄であるライモンド様のことは、婚約者として好ましく、誇らしく思っている。
けれど、自らを梃子にして叔父の邪悪な手が彼の家へと伸びようとしている事実に、胸が押し潰されそうだった。
(……本当に、気の重い訪問になりそうだわ)
馬車の窓から流れる風景を見つめながら、私は冷え切った指先を握り締め、小さく息を吐き出した。




