葬儀Ⅰ
公都の牢からリオネルの屋敷へ帰還して数日ののち、遠征先の国境から、冷たくなった父上の遺体が無言の帰還を果たした。
棺に納められた父の亡骸に対面した時、胸に込み上げた激しい悔しさは今も消えない。
その後の調査で、陣中で水差しに劇毒を仕込んだ実行犯の正体がようやく判明していた。
軍へ兵糧を運び込んでいた商人の運送隊、その荷運びの一人だったらしい。本来の荷下ろし場である食糧貯蔵庫とはまるで違う、父上の天幕付近を不審にうろついている姿が何人かの兵に目撃されていたという。
だが――その男は天幕付近から姿を消した後、陣営の外れで遺体となって発見されていた。
表向きは自害と見られている。だが、死人に口はない。
誰の命を受け、どのような手引きで宿営地の警備をすり抜けたのか。背後関係を洗い出すための最大の糸口は絶たれ、真相は深い闇の中へと消え去っていた。
そして、葬儀の手はずと段取りを整え終えた昨晩のことだ。
男爵執務室に集まったロメロ、公都から戻ったゲオルグ、そしてバルド老の三名から、今後の領政と家督についての重大な相談を切り出された。
――いま、私がグレリオ男爵位を継承するのは、あまりに危うい。
シエル伯が恩義と婚姻関係を盾に、このリオネル領へと深く介入してくる恐れがある、と。
三人が恐る恐る告げてきたその懸念を聞いた時、私は怒りを覚えるどころか、むしろ胸のつかえがすっと下りていくのを感じていた。
公都の牢で、シエル伯リオン卿が憲兵へ金貨の詰まった革袋を滑らせ、あっさりと私の自由を買い取ったあの瞬間。
あの時、私の背筋を走った冷たい違和感の正体は、まさにそこへと行き着くものだったのだ。伯爵という大貴族が、見返りもなしに他領の若造にそこまでの手を回すはずがない。
三人が導き出した結論は、レオナルドが成人するまでのあと四年間、ロメロが公爵家の承認を得て「領主代理」を継続するというものだった。
驚きがなかったと言えば嘘になる。
長男として父の跡を継ぐ。それが生まれた時から当然のように定められた道だったのだから。
だが、不思議と惜しいとは思わなかった。
彼らは長男である私の顔色を窺い、家督を奪うかのような形になることを酷く申し訳なさそうに遠慮していたが、本音を言えば、次期当主にはレオナルドこそが相応しいと私自身はずっと前から思っていたのだ。
あいつの領地経営の手腕は、もはや十二歳の子供という枠組みを完全に踏み越え、常軌を逸している。
私のように剣しか振れぬ不器用な男が立つよりも、あの聡明な弟がこの家を導いた方が、リオネルの民も領地も遥かに豊かになるに決まっている。
ただ――強いて言えば、あいつの改革は少しばかり性急で、古くから家に仕える騎士たちに対して厳しすぎるきらいがある。
伝統や武門の矜持を重んじる連中の心を、もう少しうまく汲み取ってやれれば良いのだが……そのあたりの緩衝材となり、手綱を引くことこそが、武辺者である私の果たすべき役割なのだろう。
そういう複雑な事情もあり、明日執り行われる父上の葬儀の主座を務め、全軍と領民の前で仕切りを行うのは、喪主かつ領主代理たるロメロとなった。
家臣や騎士たちの中には、長男の私が差し置かれたように見えて不満を漏らす者がいるかもしれない。
だが、私には何ら不満も異存もなかった。
今は見栄や体裁にこだわっている時ではない。父を奪い、グレリオ家を揺さぶろうとする見えざる敵から、この愛する家族と領地を守り抜くことこそが、武門の長男たる私の守るべき誇りなのだから。




