雷鳴Ⅱ
執務室の中央に据えられた円卓には、四つの席が用意されていた。
私、家令のバルド老、宰相ゲオルグ様、そして予定を早めて無事に帰還した末弟のレオナルドがそれぞれの席についている。
すでに日はとっぷりと沈み、外の世界は濃密な夜の帳に覆い尽くされていた。
昼過ぎに遥か西の空に見えていたあの不気味な暗雲は、夕暮れを迎える頃には城砦の頭上すぐそこまで迫り、いまや唸りを上げる強風となって執務室の分厚いガラス窓を激しく叩きつけている。
給仕の手によって湯気の立つ最初の料理が手際よく並べられ、深紅の葡萄酒がそれぞれのグラスへと注がれる。
室内を満たす温かな料理の匂いと暖炉の灯火とは裏腹に、窓の外では雨脚だけが次第に強まっていた。
「バルド老、ゲオルグ様。今夜はこの悪天候ですから、ご自宅へ戻らず、マナーハウスに泊まっていかれた方が良さそうですね」
二人が頷くのを確認し、私は料理を運んできた給仕へ向けて「お二人の寝室を用意するように」と短く命じた。
やがて、グラスを傾けながら、席上の話題はレオナルドによる領内視察の報告へと移っていった。
「――港町リンクスですが、荷役用の滑車クレーンと木製レールの導入により、荷下ろしの回転率は計画通り劇的に改善しています。ただ、大型船の受け入れに関しては湾内の水深や暗礁の限界があり、これ以上の投資は男爵家単体ではなく、公国全体を巻き込んだ浚渫計画として進めるべきでしょう」
フォークを手に、淡々と視察の成果を語る末弟の姿を、私は驚嘆の念を禁じ得ずに見つめていた。
港湾や鉱山、街道の関所、そして新農法を導入した各村の作付け状況。
どこが想定通りに利益を上げ、どこに更なる手当てや追加の投資が必要なのか。 そして、情勢の変化に合わせてどの計画の優先順位を変更すべきなのか――。
(……本当に、信じられない少年だ)
まだ十二歳の子供なのだ。
本来であれば、剣の稽古に汗を流すか、家庭教師に小言を言われながら歴史書を広げているような年頃であるはずだ。それなのに、内務官顔負けの大局観と数字の正確さで、澱みなく的確に要点をまとめ、私たち三人を前にして堂々と政策を提言してくる。
内政を学んできた自負のある私でさえ、この弟が描き出す緻密な構想の前には、ただただ圧倒されるしかなかった。この非凡な知謀が我が家にあることの心強さと、同時にその早すぎる歩みが生み出す軋轢の重さを思い、私の胸中には頼もしさと危うさが複雑に渦巻いていた。
「……なるほど。であれば、西側の水路補修予算を一部回す形にいたしましょうか」
私が思考を巡らせて応じ、バルド老とゲオルグ様が頷いて意見を挟む。 車輪の軋みのような風の音を背景に、四人の建設的な議論は熱を帯びて続いていく。
ふと耳を澄ませば、窓を激しく叩く音の質が変わっていた。
乾いた風の唸り声から、重く叩きつけるような激しい水音へ――気がつけば、外は本格的な雨となっていた。
暗闇に閉ざされた硝子窓を、無数の雨粒が激しく打ち据え、歪んだ軌跡を描いて流れ落ちていく。
室内を満たす温かな料理の匂いと暖炉の灯火とは裏腹に、私の胸の奥には、その激しさを増す雨音に呼応するかのような、名状しがたい胸騒ぎがじっとりと燻り続けていた。




