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異世界の政 ~持続可能な異世界で、元総理が気づけばまた政治をしているわけですが~  作者: 五号戦車


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対面Ⅲ

いたずらっぽく笑いかけてみると、案の定、少年はかすかに目を見開き、一瞬だけ面食らったように身体を固くした。

完璧な仮面を剥ぎ取り、その奥に潜む素顔をほんの少し覗かせたことに、私は胸の内で小さな満足感を覚えた。


――レオナルド・グレリオ。

伝え聞くこの十歳の少年の経歴は、辺境の小領主の三男という枠組みを明らかに逸脱していた。

赤子の頃は滅多に泣かず、不吉な「悪魔憑き」などと心無い噂を立てられていたこと。

それが実務教育として送られたウェルマ村で目覚ましい成功を収め、瞬く間に「神童」と持て囃されるようになったこと。

そして先日は、私が布告した難民受け入れ停止令を巡る男爵家の審問会で、文言の隙を突く巧みな弁舌によって自らへの追及を退けてみせたこと。

私が独自に探らせた情報だと、水面下では非公式に男爵領全体の開発や財政に深く関与し始めているという。

大人の都合を軽々と飛び越えてみせる底知れぬ少年。


私は眼下の光の海へと視線を戻し、先ほどの問いをもう一度、穏やかに投げかけた。


「で……ノルデンはどうかな?」


少年は、すぐに作り込まれたあどけない笑みをその顔に貼り付けた。


「……素晴らしい公都でございます。夜闇に映える街の賑わいを見れば、閣下の御治世がいかに手厚く行き届いているか、私にもよく分かります」


それは誰の耳にも心地よい、しかし一切の核心に触れない完璧な社交辞令だった。

これほどの才器を持ちながら、平然と「無知な子供」の殻に閉じこもる。その抜け目のなさに、私の探求心はかえって刺激された。


「お世辞はいいさ」


私はくすりと笑い、手すりに軽く体重を預けた。


「私はね、君のこれまでの仕事ぶりを耳にしているんだ。ウェルマ村で見せた君の開発手腕を、私は高く評価しているんだよ」


為政者としての率直な敬意を示し、警戒を解こうと試みる。

だが、少年は決してその分厚い壁を下ろそうとはしなかった。それどころか、あどけない瞳の奥には、私がただの世間話をしに来たのではなく、自分を値踏みしに来たのだと見抜いたような警戒の色が浮かんでいた。


(……ほう。簡単に腹は見せてくれない、というわけか)


ますます面白い。私はさらに一歩踏み込むべく、具体的な疑問を口にした。


「ウェルマ村で導入したという、土地を休ませずに作物を回す新しい農法……あれは実に合理的だ。休耕地を作らないことで土地の収穫量を跳ね上げるという発想は、並の農政官には思いつけない。あれはいったいどこから着想を得たんだ?」


私の問いに、少年は探るようにこちらの顔色を伺いながらも、言葉を選びながら答え始めた。


「……同じ作物を作り続ければ土地が痩せることは、農民たちも昔から知っております。ならば、作物と牧草を順に入れ替え、家畜も組み合わせれば、休ませる土地を減らせるのではないかと考えました。もっとも、実際に土地に合う形へ整えたのは、ウェルマの農民たちですが」


「理を繋ぐ、か……言うのは容易いが、伝統に縛られた古い農民たちを納得させ、実際に従わせるのは並大抵のことではないはずだ。それに、あの羊毛加工もそうだ。単に羊を増やすだけでなく、付加価値の高い毛織物として流通させている。村の資源をただ売るのではなく、加工して外貨を稼ぐという発想……君は経済の循環というものを実によく理解している」


「恐れ入ります。ただ、飢えぬように生きるための手段を考えた結果でしかありません」


最初は探り探り、慎重に言葉を選んでいた少年だった。

だが、私が統治者として日頃抱いている領国経営の悩み――農地の収量限界や、交易における物流の停滞、人口動態と雇用のバランス――といった現実的な課題をぶつけるにつれ、少年の受け答えに変化が生じ始めた。

私の問いの意図を、彼はいちいち説明されずとも瞬時に理解するのだ。

そして返ってくる答えは、どれも数字と理屈に裏打ちされた、大人顔負けの現実的な解決策ばかりだった。


「関税を下げれば、その分だけ収入が減るのではないか?」


「一荷あたりの税が減っても、通る荷が倍になれば税収は増えます。商人が『ここを通った方が儲かる』と思う水準を探すべきです。税率そのものではなく、最終的にいくら集まるかを見るべきかと」


私が一を問えば、彼は十を察する。

いや――時には、こちらが問いに込めた意図すら先回りして答えてくる。

十歳の少年と話している。

そのはずなのに、何度もその事実を忘れそうになった。


面白い。

実に面白い。

だが同時に、胸の奥には説明のつかない薄寒さが芽生えていた。


この少年が、もし私と同じ方向を向いている限りはいい。

では――もし違う方向を向いたなら?


その問いだけは、なぜか口に出す気になれなかった。


-----人物紹介-----

ヴァイシス・ルガーノ

人族・25歳

アルビオン五公国の一つ、ノルテン公国を治めるルガーノ公爵家の現当主

十七歳の時、父である先代公爵の急逝により若くして公爵位を継承した

細身の体躯に波打つ金髪と碧眼を持ち、年齢よりも若く見られる顔立ちをしている

その幼さを少しでも隠すため、口元には薄く口髭を蓄えている

公爵位を継いだ直後に他国との政略結婚で迎えた先妻を病で失う

その後に迎えた現在の妻との間に、長女ベアトリーチェと長男ボナペントゥーラをもうけている

柔和で気さくな性格から堅苦しい儀礼を好まない一方、領国経営においては冷静かつ現実的な判断を下す統治者でもある

若くして公国を背負いながら領内の発展と治安の安定に努め、ノルテン公国を五公国の中でも有数の国力を持つ公国として維持している

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