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異世界の政 ~持続可能な異世界で、元総理が気づけばまた政治をしているわけですが~  作者: 五号戦車


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絡み合う事情Ⅱ

 僕は馬車の窓から見える景色に目を輝かせていた。公都ノルデンの近郊にある公爵家直轄領。今日から僕は、教育係であるレオナルド先生――心の中で密かに『兄様』と呼んでいる大好きな人と一緒に、この地域の「改革視察」に来ているのだ。


「すごいですね、レオナルド先生! 水路に水がいっぱい流れています!」

「ええ。以前はこのあたりは水不足で、作物の収穫がとても不安定だったのです」


 僕の隣に座るレオナルド先生は、いつものように穏やかな声で答えてくれた。

 馬車が村の広場に到着すると、今か今かと収穫を待つ畑が広がり、遠くには牛や羊が草を食む姿が見えた。風に乗って、今まで公都では嗅いだことのないような、甘くて少し酸っぱい匂いが運ばれてくる。


「よくおいでくださいました、ボナペントゥーラ様!」


 僕たちを出迎えてくれたのは、まだ若い役人の男の人だった。彼はレオナルド先生が公都で進めている人材育成の成果として、実地経験を積むためにこの試験村へ配属された若い官吏候補の一人なのだという。レオナルド先生はあえて自分から説明せず、その若い役人に僕への案内を任せた。


「この村では、新しく引いた水路を使って畑作を安定させました。そして、余った土地で家畜の餌になる草を育てているのです」

「だから、あんなに牛やヤギがいるのですね」

「はい! そのおかげで、村では今、乳搾りが盛んです。牛乳からチーズやバターといった『乳製品』を作って公都へ売ることで、村はどんどん豊かになっています」


 若い役人は、誇らしげに現場の帳簿を見せてくれた。そこには、僕でも読めるように分かりやすく整理された文字と数字が並んでいる。先生が教えてくれた『行政の基礎』が、こうして実際の村を豊かにしているのを見て、僕は胸が熱くなるのを感じた。


「素晴らしい成果です」


 後ろで見守っていたレオナルド先生が、若い役人を褒めた。


「君たちが現地に入り、村の者たちと水利の調整や徴税の管理をしっかり行ってくれたおかげですよ」

「とんでもありません! すべては家令閣下のご指導の賜物です!」


 若い役人は顔を真っ赤にして深く頭を下げた。そう、公国において先生は『家令』という重い役職に就いている。村の人たちも笑顔で働いている。僕は父のようにいつかは、こういう豊かな村を公国中に増やさなければいけないのだと、強く心に誓った。


「さて、次はあちらの牧場を視察しましょうか」


 レオナルド先生が歩き出し、僕たちもそれに続く。その時だった。


「……あれ?」


 レオナルド先生が、ふと立ち止まった。その視線の先には、今日の視察の警備のために公都から派遣されてきた騎士たちが立っている。皆、真新しい銀色の鎧を着た若い騎士たちだ。


「まさか……」


 先生は目を丸くして、その中の一人の騎士を見つめた。いつも冷静で、大人よりも大人びているレオナルド先生が、あんなに驚いた顔をするのを僕は初めて見た。


「シグルド? シグルドじゃないか!」


 次の瞬間、先生はまるで僕と同じくらいの子供に戻ったような、無邪気で弾けるような笑顔を見せ、その若い騎士の元へ駆け寄っていったのだ。


「えっ? あ、わ、若様……!?」


 声をかけられた『シグルド』という名前の騎士は、ビクッと肩を震わせた。再会を喜ぶ先生とは対照的に、彼はまるで幽霊でも見たかのように目を白黒させ、ひどく戸惑った顔をしている。


「お前、公国の騎士になったのか! なぜ一言教えてくれなかったんだ!」

「い、いや! 叙任式の時に、私は若様の前に……その、いましたよ?」

「え?」

「若様が、俺の胸に徽章をつけてくれたんじゃないですか」


 シグルドという騎士は、引き攣った笑顔で探るように先生を見返している。先生はきょとんとした顔をした後、「……ああ」と何かを察したように、少しだけ気まずそうに目を逸らした。


「そ、そうか。あの日の叙任式に、お前がいたのか。いや、すまない。あの日は……その、少し考え事をしていて、顔をよく見ていなかったんだ」


 先生は明らかにバツが悪そうに言い訳をしていた。だが、すぐにまた本当に嬉しそうな笑顔に戻り、シグルドという騎士の肩をバンバンと叩いた。


「いや、だが本当に驚いた! お前が公都にいるなら、今度ゆっくり酒でも飲もう。積もる話もある!」

「は、はあ……。ありがとうございます……?」


 シグルドという騎士は、まだ狐につままれたような顔をしている。その戸惑いは、僕の目から見てもはっきり分かった。


「先生のお友達ですか?」


 僕が追いついて尋ねると、レオナルド先生は少し照れくさそうに頷いた。


「ええ。私の、故郷の幼馴染です。昔はよく、一緒に森を駆け回った悪友でして」


 そう言って笑う先生の横顔は、公爵家の家令という重い立場を忘れ、ただの一人の少年に戻っているように見えた。大人の事情でいろいろと忙しいレオナルド兄様だけれど、こうして昔の友達と笑い合える時間があるのは、とてもいいことだと思う。

 僕は村の秋晴れの下で、なんだかとても温かい気持ちになっていた。

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