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異世界の政 ~持続可能な異世界で、元総理が気づけばまた政治をしているわけですが~  作者: 五号戦車


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越境Ⅲ

まあ、予想通りの無様さだ。

初めから、このリオネルの反乱騎士どもは大してあてにはしていなかった。

私が自ら三千の軍勢を率い、大仰な軍旗を掲げてリオネル領のカノ村へと乗り込んできたものの、出迎えの場に用意されていた食料はお粗末極まるものだった。


街道沿いの掘立小屋めいた民家を陣屋とし、机の上に広げられた帳簿に目を落とす。三千の兵を維持するには、どう計算しても数日分の食料を確保するのが精々といったところだ。周辺の村々はもぬけの殻で、まともな徴発も進んでいないという。


「……リオン閣下。ま、誠に申し訳ございませぬ! すべてはあの小僧、レオナルドが事前に村人を脅して穀物を持ち去らせたせいでして……!」


額にびっしりと脂汗を浮かべ、腰を折り曲げて詫びを入れてくるのは騎士ゼノスだ。

先代アントニウスの時代からリオネル武門の重鎮面をしていた男が、今や息子の不始末で主レオナルドと対立し、私という他領の虎の威を借らねば息もできない哀れな騎士に成り下がっている。

その背後には、牢から引き摺り出されたばかりの息子ユーゲルが、気まずそうに目を泳がせて突っ立っていた。親の七光りで小賢しい立ち回りをし、あっさり年下の小僧に尻尾を掴まれた無能者だ。


そして――部屋の最も薄暗い隅に、腕を組み、微動だにせず腰掛けている男がいた。

グレリオ家の嫡男、ライモンドだ。

名目上、我らはこの男の「正当な家督継承」を支援するために出兵したことになっている。しかし当の本人は、私が入城して以来、形式的な礼の言葉を一度口にしたきり、置物のように固く唇を閉ざし、侮蔑とも諦憬ともつかぬ冷え切った眼差しを落としている。

反乱の神輿の分際で、己の手が汚れていないとでも言いたげな武人然としたその横顔に、内心で反吐が出そうになる。


(……ふん、揃いも揃って使い物にならん連中め)


だが、私は冷ややかに鼻を鳴らしつつも、表面には一切の苛立ちを出さず、むしろ鷹揚に口元を綻ばせてみせた。


「よい、よい。気にするな、ゼノス卿」


私は奴の落ち度を寛大に許す仕草をして見せた。

そもそも、私がわざわざ三千もの大軍を自ら率いて越境してきたのは、最初から「早期決着」を目指してのことだ。

大軍を維持するための食料は一時的に必要となるが、それとてせいぜい数日分あれば事足りる。一週間もあれば、この圧倒的な兵力をもってリオネル領都を易々と制圧し、すべてを我が手中に収めることができるのだからな。


「して、当の不届き者ども……ロメロとレオナルドの軍勢は、今いずこにおるのだ?」


私の問いに、ゼノスは待ってましたとばかりに顔を上げ、報告を告げた。


「はっ! ロメロは領都のリオネル城砦に閉じ籠もっておりますが、あろうことかレオナルドの小僧が自ら軍に同行し、この村から数時間の距離にある丘陵の簡易砦に入ったとの報がございました! 籠っているのは、平民どもを集めて急ごしらえで作った三百ばかりの雑兵に過ぎませぬ!」


それを耳にした瞬間、私は思わず吹き出しそうになった。


(案外、素直で可愛い奴ではないか……!)


わざわざ自分から殺されに前線まで出てきてくれるとは、願ったり叶ったりだ。

リオネル城砦といえば、かつて北方アルヴァ王国への備えとして公爵家が威信をかけて築き上げた堅牢無比な城だ。万が一あそこに引き籠もられでもしたら、いかに三千の軍勢とはいえ、包囲と兵糧攻めで長期戦を強いられるところだった。食料が乏しい現状で長期の攻城戦など御免被りたい。

だが、あの浅知恵の小僧は、その堅城を捨てて手前にある丸太組みの急造砦などに陣取ってくれたのだ。


「状況は分かった。ならば対応は単純だな。明朝、全軍を進発させ、その小生意気な簡易砦を踏み潰す。小僧の首を挙げれば、城砦のロメロなど戦わずして膝を屈するだろう」


私の決定に、ゼノスは顔を紅潮させ、手柄を焦るように身を乗り出してきた。


「閣下! 我がリオネル騎士団からも先陣として手勢を出撃させましょう! 主家を誑かしたあの小僧に、武門の誇りを教えてやらねば気が済みませぬ!」


だが、私は穏やかな笑みを崩さず、静かに掌を立ててその申し出を制した。


「いや、ゼノス卿。卿らはこのカノ村の守りと、後方での補給路の確保に専念してくれればよい。何よりライモンド殿をお守りする役目があるだろう? 砦の攻略は、我がシエル伯軍の精鋭だけで、赤子の手をひねるように片づけてみせる」

「は……しかし……」


食い下がろうとするゼノスを、私は鋭い眼光で黙らせた。

絶対に勝てる戦いで、わざわざリオネルの負け犬どもに武功を分け与えてやる義理など微塵もない。

手柄はすべて我が軍が独占し、愚かな小僧の首を刎ねてリオネルの息の根を止める。そうして恩を売るだけ売りつけて決定的な貸しを作り、戦後に待つ肥沃な土地と利権という名の旨味を、骨の髄まで私がしゃぶり尽くしてやればいいのだ。


部屋の隅で、ライモンドがわずかに眉を動かしたのを視界の端に捉えたが、もはや何もかも遅い。

自ら網に飛び込んできた哀れな獲物たちを思い浮かべながら、私は窓の外に広がる暗がりを眺め、昏い愉悦の笑みを深く刻み込んでいた。


-----人物紹介-----

リオン・ベルトレ

人族・32歳

リオネル領西方に隣接するシエル伯爵領を治める伯爵

先代アントニウスの死後、家督を巡って嫌疑をかけられた嫡男ライモンドを擁護し、その釈放に力を貸した人物

表向きはグレリオ家の正当な家督継承を支持しているが、リオネル領の内紛に介入し、自ら三千の軍勢を率いて領境を越える

レオナルドとロメロを排除し、ライモンドを当主に据えることでリオネル領への影響力を強めようとしている

自らの軍事力と領主としての地位に強い自信を持ち、レオナルドの率いる新設部隊を「平民を集めた雑兵」と見ている

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