蜂起Ⅲ
ロメロ様がリオネル城砦へと移られた後のマナーハウス執務室を使わせてもらい、私は机の上に広げた書類と格闘していた。
簡易砦への追加補給の段取り、避難させた領民たちへの炊き出しの手配、そして反乱を起こした騎士たちによる略奪の被害に対する補償の試算――やるべきことは山のようにあった。 ……だが、今はそんな事務仕事に没頭している場合ではなかった。
昼前、レオナルド様は自衛隊の後詰中隊を率いて簡易砦へと出発された。
ロメロ様は城砦に残って領都全体の指揮を執られている。
つまり、このマナーハウスは城砦のすぐ目と鼻の先にあるとはいえ、城門を閉ざして厳戒態勢を敷いている以上、手薄なこちらへすぐさま援軍が届くわけではないのだ。
そして今、マナーハウスの敷地の前には、ゼノスの息がかかった数名の騎士たちが押し寄せ、館を包囲していた。
「ロメロ様はすでに城砦へ移られた!」と伝えたのだが、逆上した彼らは聞く耳を持たず、どうしても主筋の人質が欲しいようだった。狙いは明白、この館に残っておられる男爵家の令嬢――レティーシャ様だ。
私はレティーシャ様を執務室に匿い、城砦からの救援を待とうとしていた。
だが、外の騎士たちは城から兵が駆けつける前に身柄を確保しようと焦っているのか、一階大ホールの重い玄関扉に力任せに体当たりを繰り返していた。
ズシン、ズシンと、館全体を揺るがすような不穏な衝撃音が執務室にまで響いてくる。
「くっそ……! このままじゃ踏み込まれちまうぞ……!」
私は脂汗を流しながら、部屋の中を右へ左へと行ったり来たりして落ち着かない。
ふと、背後でカチャリと乾いた金属音が鳴った。
振り返って目に入った光景に、私は思わず目玉が飛び出そうになった。
レティーシャ様が、執務室の壁に飾り掛けられていた何本もの装飾剣を次々に手に取り、重さや刃の反りを確かめながら「手になじむ一本」を入念に品定めしておられたのだ。
(ま、まさか……!?)
いや、この方はそういうお方だった。社交界で無遠慮に言い寄ってきた貴族を木剣で叩きのめしたという武勇伝は伊達ではない。
「お、お待ちくださいレティーシャ様!」
慌てて窘めようとする私を、レティーシャ様は澄んだ碧い瞳でキッと見据えてきた。
「ジェロット、何を狼狽えているのです。私とて武門グレリオの女です。いざとなれば、敵の手におちるわけにはまいりません」
凛としたお声でそう告げられる。
……いや、お言葉の意味は「辱めを受ける前に自害する」みたいな悲壮な覚悟に聞こえますが、その剣の握り方と鋭い眼光を見る限り、あからさまに敵を返り討ちにする気満々ですよね……!?
そんな私のツッコミを置き去りにするように、一階から凄まじい破壊音が轟いた。
バキバキと木が裂け、ドシンと大ホールの扉が破られたのだ。
私は息を殺し、執務室をそっと抜け出してホールを見下ろせる二階の踊り場から下を窺った。
砂埃が舞う玄関ホールに、抜刀した三人の反乱騎士が足を踏み入れていた。ギラつく凶刃を手に、人質を捕らえんと上階を見上げている。
(やばい、本当にやばい……!)
今この館に残っている男といえば、執事のバルド老と、宰相のゲオルグ様、そしてしがない従士の私くらいだ。完全武装した現役の騎士三人を相手に、防ぎきれるはずがない。




