4話 核兵器
俺の問いに、有馬は険しい表情を浮かべた。
「宝玉が作られた? なにを言ってますの? 宝玉は最初からダンジョンにあるものでしょう」
俺は軽く首を左右に振る。
「その答えには趣がないね」
再び有馬は柳眉を逆立てる。怒気を込めて、鋭く問うた。
「真面目に答える気がないということですか?」
「君がね」
有馬は眼光鋭く俺を睨めつけた。
「よろしい。宝玉の破壊はウィザード協定違反。魔導器を捨て、大人しく投降なさい。でなければ、殺されても文句は言えません」
「つまらん表現だよ。魔法使いならこう言うべきだ」
俺はまっすぐ有馬を指さす。
「月の上か海の底、君の亡骸をどこへ届けようか?」
「気持ち悪い男」
嫌悪感をあらわにした次の瞬間、彼女の指先に魔力が集中する。
「【紅蓮炎輝線】」
これ以上の問答は無用とばかりに有馬の指先から紅蓮のレーザーが撃ち放たれた。
一瞬にして俺の体に直撃したそれは角度を変えてすり抜けていく。
「……!?」
「嘘だろっ……! 有馬さんの【紅蓮炎輝線】を避けるなんて……レーザーだぞっ……!?」
ウィザードの一人が舌を巻く。
「避けたようには見えませんけども?」
有馬は【紅蓮炎輝線】を連射する。俺の体をすり潰すほど大量のレーザーが降り注いだが、その全てが俺の体をすり抜ける。
「わかりませんわね。ラーニング」
中指の指輪を向けながらも、有馬は俺を見た。
その目には魔導器が数値化する俺の能力が映し出されているのだろう。彼女は驚いたように目を見開いた。
「え……レベル-1っ!? 魔力も……!? そんなステータスで、どうやってわたくしの【紅蓮炎輝線】を防いだというの?」
「単純な話だよ。光はガラスをすり抜けていく。君の【紅蓮炎輝線】に対して、俺の体はガラスだったのだ」
有馬は険しい表情を浮かべる。
「奇妙な魔法ですわね」
「違うね。俺の魔法は伝統的だ。君たちウィザードの魔法こそデジタルなのだよ」
「デジタル?」
有馬が僅かに首をかしげる。
「わからないといった顔だね」
「ええ、わかりませんわ。どんな特殊な魔法で【紅蓮炎輝線】すり抜けているのかも。ですけど、関係ありませんわね」
有馬は指輪に魔力を込めた。
すると、指輪が外れ、有馬の目の前で巨大化していく。その指輪を中心にして、魔法陣が描かれた。
「わたくしの異名、ご存じですわね? 核兵器。比喩でもなんでもなく、核属性魔法が使えるんですよ」
ジジジジジッと魔法陣の周囲に激しい火花が散っている。
途方もなく強大な魔力がそこに集中し、ガタガタとダンジョンさえも震撼させていた。
「どんな特殊な魔法も、圧倒的な力の前には無力。あなたが魔法を使おうとも、レベルー1で防げるような威力ではありません」
まったく、あきれ果てるとしか言いようがないな。
「君たちウィザードは骨の髄までデジタルだ。核属性という近代魔法には魔法の温もりが感じられんのだよ」
フッと彼女は微笑した。
「つまり、あなたには防げない。投降するのなら、これが最後のチャンスですよ。残念ながら、この魔法はわたくしにも手加減ができません」
「けっこう。全力で来たまえ」
僅かに有馬は目を見開く。
「本当に死にますわよっ!」
「魔法使いが魔法を使うのが怖いなら、今すぐやめたまえ。俺の勝ちでいいかね?」
そう口にして、踵を返す。
背を向けた俺に、彼女は唖然とした様子だった。
「じゃあな、負け犬」
ギリッと彼女は奥歯を噛み、怒りをあらわにした。
「後悔なさいっ!!!!」
突き出した右手から膨大な魔力が放出され、魔導器の指輪を回転させる。
目を開けていられないほどの目映い光が周囲を覆いつくし、魔法陣から紅蓮のエネルギーが撃ち放たれた。
「【紅蓮核分裂輝線】!!】
核のエネルギーがレーザーのように突っ込んでくる。
そうして、なにもかもを破壊する大爆発を引き起こした。
核爆弾の威力全てを、対象の一点に集中する魔法。その力は近代魔法の中でも他の追随を許さないだろう。
しかしだ。
「……なっ……」
息を呑む音が聞こえた。
「……ど……どうして……?」
俺は無傷だ。
手にしているのは神社で授かるお守りである。かなり古い代物だ。
「レベル-1で、【紅蓮核分裂輝線】を防いだというんですかっ!? 核爆弾級の威力があるんですよっ!!」
あり得ないといった風に、彼女は叫んだ。
「極めてデジタルな考え方だ。そんなことだから、この手にあるものの大きさに気がつかないのだ」
「……そのお守りが、どうしたんですか……? 大した魔力もないようですが……?」
「これは、俺の祖先が我が子の安全を願って渡したものだ。その子はまた自分の子に、そうやって代々受け継がれ、俺はこれを父からもらった」
「……だから、それが、なんだと言いますの?」
半ば苛立ったように彼女は問うてくる。
「核爆弾は街を破壊し、大量の生物を殺す。では、問おうか? 核爆弾は子を思う親の想いを、先祖代々続いた家族の絆を壊せるのか?」
理解できないといった風に有馬は顔をしかめる。
「答えは壊せない。これが魔法の情緒というものなのだよ」
俺が使ったのは【絆障壁】の魔法。切れない絆、壊せない想いを障壁にしたのだ。
「でしたらっ!」
瞬間、彼女の体が消えた。
魔力で速度をブーストして一瞬にして背後に回った有馬は、俺の後頭部をつかんだ。
「これで魔法障壁も使えませんわっ!」
至近距離で彼女は魔法陣を描く。
「【紅蓮炎輝線】」
「【鏡体】」
俺の全身が鏡と化し、紅蓮のレーザーを反射する。それが彼女の手を弾き飛ばし、その体に直撃した。
「きゃっ、きゃあああああぁぁぁっ!!!」
有馬は吹き飛ばされ、地面に倒れた。
「ダンジョンと魔導器の力により、ステータスという極めてデジタルな思考で君たちは魔法を使えるようになった。その近代魔法は確かに魔力を数値化して考えれば、一定の力があることは認められる。しかしね、あまりに猪突猛進が過ぎる」
どうにか体を起こした有馬の横を通り過ぎ、俺は出口へ向かう。
「俺に言わせれば補助輪だ。素人が補助輪の力で魔法の真似事をしている。それが君たち、ウィザードだよ」
異を唱えられる者は、この場にはいなかった。
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