17話 禍々しき匂い
スカイツリーダンジョン最下層の階段に俺たちは着地した。そのまま、階段を上がっていく。
「スカイツリーダンジョンの扉は四人でなければ開かない仕組みになっていますわ。どうしますの?」
階段を駆け上がりながら、有馬が問う。朱理を置いてきたため、俺と有馬と蓮華の三人しかいない。
「扉を見てから決める。魔法の仕組みならば、やりようはあるのだよ」
一気に階段を上り終えると、その先に巨大な両開きの扉が見えた。
「あれ? 誰かいる……?」
蓮華が言った。
扉の前にはウィザードが何人か立っている。その内の一人には見覚えがあった。
A級ギルドマスター試験を担当していた試験官、S級ウィザードの荒瀬半蔵だ。
彼はこちらに顔を向けた。
「あん? 有馬か。どうしたんだ?」
「スカイツリーダンジョンを攻略しに来ましたわ」
すると、荒瀬は「ははあ」と納得いったような表情を浮かべた。
「聞いてないんだろ。スカイツリーダンジョンの攻略は、ひとまず俺に一任されることになったぜ。他のウィザードは入れねえ」
「……え?」
有馬は俺に目配せをする。
このタイミングで、スカイツリーダンジョンの攻略が制限されるか。偶然にしては出来すぎていると思うがね。
「どうして、荒瀬さんに?」
「話すと長いんだが、俺はこのダンジョンの中に入ったことがあんだ。つーか、かれこれ三ヶ月近くはここで過ごした」
三ヶ月?
「スカイツリーダンジョンが出現してから、まだ一ヶ月も経っていませんわ」
つまり、考えられることは一つ。
「君はこのダンジョンが飛ぶ前に中に入ったのだな?」
俺がそう言うと、
「話が早いじゃねえか。師匠に言われて、ちょいと特訓でダンジョンごもりをしたんだが、気がついたら浮かび上がってよ。慌てて下りてきたってわけだ」
やはり、か。
いきなりダンジョンが出現し、スタークリスタルが取りつけられたわけではない。これを作った魔法使いは何ヶ月も前から準備していたのだ。
「君の師匠の名は?」
「あん? 東条泰然だ。あの人はすげえぜ」
東条泰然、聞き覚えのない名だ。恐らく、魔法使いの偽名だろう。四大杖家ならば、それぐらいのことはできるはずだ。
荒瀬をうまく利用しているのか。
魔法使いがウィザード側に入り込んでいるなら、本当のことを言っても無駄かもしれないな。
「荒瀬さん。わたくしたちはスカイツリーダンジョンを攻略したいんです。一緒に連れていってくれませんか?」
有馬がそう申し出る。
「お前たち三人をか?」
「はい」
「うーむ」
顎に手をやって、荒瀬は考え込む。
「まあ、どの道、これから一回調査隊を出すつもりだった。内部が変わってないか確かめるためにもな。それでいいなら、一緒に連れていってもいいぜ」
有馬は俺の方を向いた。
こくりとうなずき、それで構わないと伝えてやる。
「構いません」
「よし、じゃ来な」
扉の前に移動する。見れば扉には四つの魔法陣が描かれていた。
「ここに手を当て、四人で魔力を送れば、中に転移する仕組みだ。ただし、全員同じフロアの別々の場所に出る」
「位置はわかっているのかね?」
「いや、ランダムだ。まずは合流を優先する」
「わかりましたわ」
と、有馬は意味ありげに視線を送ってきた。
確かに、好都合だ。
荒らせとは合流せずに先へ進み、事を済ませればいいのだ。
「行くぞ」
荒瀬の合図で俺たちは魔法陣に手を重ねる。魔力を送れば、体が光に包まれていく。
目の前の風景が歪み、そして再構築される。
黒い石造りのダンジョンが現れた。周囲には誰もいない。
俺は辺りを探索するため、すぐに走り出した。このフロアはさほど複雑な造りではないな。
少し経って、螺旋階段に辿り着く。見上げれば、どこまでも高く階段は続いている。
おかしい。
ダンジョンに入れば、有馬も蓮華も俺を呼ぶはずだ。そうすれば、転移して合流することができる。
荒瀬がいたため言葉で確認できたわけではないが、そのつもりであることは目で合図をした。
だが、二人とも俺を呼ぶ気配がない。
なにがあったのだ?
……いや、いずれにしても、今はこのスカイツリーダンジョンを落とすのが先決だ。【輝ノ月】が発動してしまえば、中にいる者は無事に済まない。
俺は螺旋階段を飛ぶように駆け上がりながら、観察した。これだけのダンジョンを空に飛ばしているのだから、目立つ仕掛けがあるはずだ。
どこだ?
瞬間、俺は目の端に魔力を捉え、急停止した。
螺旋階段からそのフロアに移動して、まっすぐ走っていく。扉を開けば、そこに無数の鳥籠があった。
中には大量の鳥がいる。
籠の鳥か。なるほど。
これがスカイツリーダンジョンを飛ばしている魔法だ。籠の中に閉じ込めた鳥は飛びたいと願う。
その願いを形に変え、飛行する魔法の効果を最大限発揮しているのだ。
「【空波】」
空気をナイフのように尖らせ、無数の鳥籠を切断する。解放された鳥たちがフロアに一斉に飛び上がった。
これで――
「……落ちない?」
飛行魔法の大元を潰したのに、スカイツリーダンジョンは依然として飛んだままだ。落ちてくる気配は微塵もない。
ということは、このダンジョンを飛ばせている魔法は他にある。
「…………」
僅かな腐臭と血の匂い。
俺は【空波】で鳥籠を全て隅へ弾き飛ばした。大量の鳥籠が置かれていた床に隠されていたのは扉である。
それを開き、中に入る。
腐臭などではない。更に禍々しい匂いがした。
目に飛び込んできたのは、人間の首だ。何十という数の首が、部屋中に所狭しと飾られている。
その中の二つに見覚えがあった。
「……父上……母上……」
父と母の首が、置かれていたのだ。
「感動の再会よのう、蒼夜」
背後から声をかけられた。
その男は俺もよく知っている。赤杖家の現当主、朱理の父である赤杖無道であった。




