15話 四大杖家
蓮華と有馬は目を見開きながら、俺に何事かを訴えるようにじーっと見つめてくる。
それを微動だにせず、真顔で受け流す。
初めて訪れた魔法使いの家で発言しづらそうにしていた二人も、さすがに業を煮やして口を開こうとする。
「あの――」
「でかしたぁっ!!!」
蓮華は出鼻を挫かれる。
それまでしかめっ面をしていた無道が拳を握って破顔したのだ。
「よいっ! よいぞ、蒼夜っ! お前が嫁を娶るということになれば、この赤杖家をいよいよ復権することができるっ!! そなたたち、歳はいくつだっ?」
少年のような瞳をしながら、無道は身を乗り出す。
「じゅ、一八……」
問われるがままに蓮華が答え、
「……二〇です」
訝しみながらも有馬も続いた。
「よし。ようし!」
更に強く無道はぐっと拳を握る。
「ならば、赤杖家の跡継ぎは四〇人増えることとなろうぞ」
「なんの話ですかっ!?」
「一人二〇人っ!?」
なにも言わないとどんどん話が進んでいく気がしたのか、有馬と蓮華が声を上げた。
「あなた。落ち着いてちょうだい」
諫めるように妻、藍音がピシャリと言った。
「今日、顔を合わせたばかりで気が早いでしょう。物事には順序というものがあります。いきなり連れてこられて、なにも話さない内から、はい、そうですかということにはなりません。いかに没落の危機にあろうとも、赤杖家の当主たるもの矜持を持たなければいけないでしょう?」
「お、おう……」
と、無道は気まずそうに居住まいを正す。
「それで祝言の日取りはいつなの?」
「物事の順序どこぉっっっ!?」
びっくりしたように蓮華が聞き返していた。
「あら? 最近の若い子は、細かいことを気になさるのね」
「……自分で言ったのに……」
困惑したように蓮華は一人呟く。
藍音は藍音でおかしいのでは? と思っていることが、その視線からありありと伝わってきた。
「叔母上。先に家を案内したいのだよ」
ボロが出ない内に手早く切り上げようと、俺はそう提案した。
「そうね。わかったわ。それじゃ、二人とも実家だと思ってくつろいでね」
藍音は品のある笑みを覗かせた。
◇
「いきなり、どういうことですのっ!?」
ひとまずは人気のない道場に案内すると、火がついたような勢いで有馬が詰め寄ってきた。
「怒ったかね?」
どこ吹く風で俺が聞く。
ますます勢いを増して有馬は声を荒らげた。
「怒ったかね、じゃありませんっ! いきなりご両親に結婚だなんて、どういう了見ですのっ? なんの説明もありませんでしたわ!」
「結婚したかったのだ」
「け、け、けっこ……あの……ええと……!」
純情なのか、ストレートにそう口にすれば、途端に有馬はテンパったように顔を赤くしている。
「こ、子どもじゃないんですからっ。大体、二人と結婚なんかおかしいですっ!」
「そうか。一人ならいいのか?」
「えっ……!?」
不意を突かれたように、有馬はすぐに返事を返せないでいた。
「そ、そういう問題じゃ……」
語尾がか細くなり、声は消え入る。
「あ、あの……」
口を挟んだのは、妹の朱理である。
「蒼夜お兄様は……その……政略結婚を、避けたかったんです……」
「政略結婚?」
蓮華が首を捻る。
「どういうことですか?」
「は、はい……魔法使いの一族は、本家の黒瞳と分家の11杖家に分かれます。赤杖は杖家の中でも末席で……家が断絶しそうなぐらいでした……」
丁寧に朱理は説明していく。
「あ、さっき、当主の人が没落しそう、とか言ってたっけ?」
蓮華が思い出すように言った。
「で、でも……蒼夜お兄様が生まれたことで、赤杖家は息を吹き返したんです……」
「なんで?」
蓮華が聞く。
「……蒼夜お兄様は一〇〇〇年に一人の天才です……使い手がいなくなって久しい魔法を使いこなしたり、新たな魔法を生み出すことができる数少ない存在。魔法は魔法使いの一族にとって一番重要なもので、だから分家で強い権力を持つ四大杖家も無視することができなかったんです……」
「ええっ、すごぉっ」
素直に蓮華は感心している。
「で、でも、逆にそれが面白くなかったんだと思います。四大杖家は蒼夜お兄様を自分たちの家に取り込もうとしたんです」
「それで、政略結婚ということですの? 時代錯誤ですわ」
有馬の質問に朱理は力なく笑った。
「四大杖家は蒼夜お兄様と娘を結婚させて、自分の家の権力を拡大させようとしました。蒼夜お兄様のご両親が生きている間は、まだそれを避けることができました。でも、お二人とも亡くなってしまって……」
「見かねた鷹司杖家が、助け船を出してくれたのだよ。朱理の父、無道さんが、赤杖の藍音叔母上と婚姻し、赤杖家に婿入りした。鷹司杖家と結束を固め、四大杖家に対抗したのだ」
「あ! だから、朱理ちゃんと蒼夜は兄妹なんだ!」
ようやく納得がいったと蓮華が言う。
「しかし、スカイツリーダンジョンのおかげで、また赤杖家は苦しい立場でね。多方面から圧力をかけられている。あのダンジョンを落とし、赤杖の仕業ではないことを証明しなければならない。ただ今にも縁談を進められそうな気配があってね」
先に嫁を紹介してしまえば、あちらも身元を調べたりとどう切り崩すか考えるのに時間をかけるだろう。
まあ、結局のところ、強行してくるのだろうがな。
「なぁんだぁっ。それなら、そう言ってくれればいいのに」
「断られると思ったのでね」
「……断られるから既成事実を作ってしまえというのはどうかと思いますわよ……」
そう有馬は苦言を呈す。
「それに、誰とでも結婚できるのでしたら、政略結婚でもいいのではなくて?」
「父と母が亡くなる前なら、それもよかったかもしれんね」
俺が言うと、有馬は一瞬眉根を寄せる。
「どういう意味?」
不思議そうに蓮華が聞いてきた。
「殺されたのだよ、父と母は。四大杖家のいずれかにね」




