14話 魔法使いの一族
戦闘不能と判断されたか、光の手が雨宮みのりをつかみ、壁の中へと連れ去っていった。
「宝玉のレプリカはあったか?」
「うぅん。こっちにはなかったよ。なんか、宝箱はあったけど、中身は剣みたいな?」
蓮華がドクロの剣が入った宝箱を指さす。
となれば、残るは――
『ええっと……蒼夜……さん?』
ちょうど聞こえたのは、有馬の声である。
「有馬の声が聞こえた。転移する」
「私も一緒に行けるの?」
「行ける。転移しながら、お前を呼んで引っ張っていく」
そう口にして、魔法陣を描く。
「【転移】」
瞬間、俺の体は時空を超えて、有馬のもとへ転移した。遅れて、引っ張った蓮華もやってくる。
「あ……本当に来ましたわね……」
半ば驚いたように言った有馬の手には、宝玉レプリカがあった。周囲にはウィザードが四人倒れていた。
「すごっ、全員一人で倒しちゃったのっ?」
蓮華が感心したように、倒れているウィザードたちを覗き込む。外傷は少ないが、全員綺麗に意識を失っていた。
「B級二人、C級二人のパーティでしたからね。とりあえず、これを守り切れば合格ですが、残り二つの宝玉レプリカもそろそろ他パーティの手にわたった頃でしょう」
「ってことは、手に入れられなかったパーティが、宝玉レプリカを奪いに来る感じ?」
「そうなるでしょうね。一番憂慮すべきことは残りのパーティに共闘されることですわ。こちらも宝玉レプリカを手に入れたパーティと共闘するのが手堅いのではないかしら?」
俺に意見を求めるように有馬は聞いてきた。
「もう終わった」
「え……?」
「終わったって?」
有馬と蓮華がきょとんとした表情を浮かべる。
次の瞬間、目の前の時空が歪み、一人の少女が転移してきた。朱理である。
「朱理ちゃんっ!」
嬉しそうに蓮華が言う。彼女の手には宝玉レプリカが二つあった。
「こ、こんにちは……宝玉レプリカ、ありました……」
「ええぇーっ、すごっ! すごいっ! なんでっ? 他のパーティに遭遇しなかったのっ?」
「は、はい……その……た、倒しました……」
おどおどしながら、朱理はそう答えた。
「倒した……? 何人ですの?」
「……何人……? その……全員……です……」
「二パーティをお一人で?」
信じられないといった風に有馬が聞く。
「ご、ごめんなさい……全パーティ……でした……」
「全パーティッ!?」
目を見開いて蓮華が驚きをあらわにする。
「C級ウィザードですのに……」
「朱理は魔法使いなのでね」
すると、そこで有馬がはっと気がついた。
「妹さんのお名前……確か朱理でしたわね?」
「えっ、でも、朱理ちゃんって、鷹司杖って言ってなかった? 蒼夜は赤杖なのに?」
「魔法使いの家系は複雑でね」
ここで込み入った話をしても長くなるので、そう言っておく。
すると、ダンジョンフロアに設置されたスピーカーから声が聞こえてきた。
『そこまでだ。生存が一パーティのみになったんで、試験を終了する。お疲れさん』
A級ギルドマスター試験及び集団戦ランク認定試験は終わりを告げた。
◇
「A級ギルドマスター試験、合格おめでとうございます」
受付で俺はA級ギルドマスターのライセンス証を受け取った。
踵を返せば、受付カウンターから少し離れた場所で、朱理、有馬、蓮華が待っていた。
「蒼夜っ、おめでとうっ! 私も合格したよーっ」
蓮華は集団戦ランク認定の証明証を持っていた。
「朱理ちゃんも合格したよねっ」
「……は、はいっ……しました……けど、蒼夜お兄様は興味がありませんから……」
「えぇーっ! せっかく妹が合格したのにぃっ。よくないよぉっ」
ぷくーっと蓮華は頬を膨らませる。
「可愛い子ぶるな」
蓮華の頬をつかみ、膨らました頬を潰してやる。プスッと空気の抜ける音がした。
「なんでぇっ! なにするのっ!?」
蓮華がふくれっ面で抗議してくる。
「朱理が集団戦ランク認定を受けたのは、俺がA級ギルドマスター試験に合格するためだ」
事前に集団戦ランク認定とA級ギルドマスター試験が合同でやるかもしれないという噂を入手していた。定かではなかったが、念には念を入れておいたのだ。
「――そんなことより」
話題をピシャリと切ったのは有馬である。彼女は真剣な表情を俺に向けてきた。
「スカイツリーダンジョンですわ。東京が壊滅するというのは、どういうことですの?」
俺はウィザードタワーにとりつけられたガラス張りの窓に視線を向けた。そこから、空に浮かぶ巨大なスカイツリーダンジョンが見える。
「あのダンジョン全体に取りつけられている巨大なスタークリスタル。アレは赤杖家の始祖、赤杖楽堂が編み出した禁術、【輝ノ月】の魔法陣でね」
有馬と蓮華が息を呑む。
「魔法使いの禁術……ですか……?」
「え、じゃ、じゃあ、スカイツリーダンジョンは蒼夜みたいな魔法使いが作ったものってことっ?」
「その通りだ」
俺が肯定すると、続けて有馬が問う。
「何者……なんですか?」
「赤杖家は人材難でね。【輝ノ月】ほどの禁術を使える人間は、今は一人」
問いかけるような二人の視線に、俺は言った。
「俺だけだ」
「はい……?」
「つまり、他の家からすれば赤杖家が一番の容疑者なのだよ。アレを止めねば、赤杖の沽券に関わるのだ」
有馬と蓮華は訝しげな表情を浮かべている。理解がまだ追いつかないのだろう。
「あの……魔法使いの一族が赤杖家なのではないのですか?」
「本家と、十一杖家と呼ばれる分家がある。赤杖は分家だ」
外の人間が知らないのは無理もない。魔法使いの一族は魔法を知らない者たちと関わらずに生きてきたのだ。
「魔法使いの家って、興味あるなぁ。なんか、すごそう」
「では来たまえ」
そう口にして、俺は歩き出す。朱理はすぐ後ろについてきた。
「え? あの……?」
戸惑っている蓮華と有馬を振り返り、俺は告げた。
「ちょうどいい機会だ。お前たちを赤杖家に招待しよう」
◇
東京の外れ、自然豊かな山奥に大きな日本屋敷がある。広い座敷に通され、蓮華と有馬はやや緊張した面持ちで座っていた。
出迎えたのは赤杖家の現当主、赤杖無道とその妻、藍音だ。
「よく帰った、蒼夜。して、その者たちは? まずは、この里に下界の人間を連れてきた理由を聞こうぞ」
「この二人は俺の嫁だ」
俺がそう答えると、両隣に座っていた蓮華と有馬がばっと振り向いた。
「嫁っ……!?」
「二人っておかしくないっ……!?」
停滞していた魔法使いの里に、波乱がやってきたのだ。




