11話 魔法使いの修行
「なんか、なんかなんかなんかっ。すごく縁がある気がするよねっ」
有馬がパーティに入ったことに、蓮華が興奮した様子で言った。その気持ちはよくわからんが、確かにこの三人は最近なにかと縁がある。
「よろしくお願いします、紀野さん」
「蓮華ねー。もう友達でしょっ。私も虚子って呼ぶし」
人懐っこく彼女は言う。相変わらず蓮華は距離を縮めるのが早い。俺の時もそうだった。
「ええ。よろしくお願いしますね、蓮華さん」
「えーと、四人一組だから、あと一人だよね?」
蓮華が俺の方を振り向いた。
「いいや。もう揃っているのだよ」
「え? どこに……」
と、蓮華は俺の隣にいた背の低い少女に気がついた。
銀髪で色素のない瞳をしており、蓮華よりも更に若い。ともすれば、幼女に見紛うばかりの容貌である。
「あ……えっと……た」
彼女は怯えたように声を震わせる。人見知りなのだ。
「た?」
「た、鷹司杖……朱理です。C級ウィザード……だと……思います?」
「思います?」
「あ、間違えっ……C級ウィザードです、C級です……たぶん」
色々と怪しいながらも、彼女はぺこりと挨拶をした。
「うんっ。よろしくー」
蓮華は笑顔で応じる。
「……ん? 朱理……?」
引っかかるといった表情で有馬が何事かを考えている。ちょうどその時だ。試験官の荒瀬が野太い声を張り上げた。
「うっしっ! パーティ分けは決まったな! んじゃ、ちと移動すっぞ」
◇
受験者たちはそれぞれ別々の階段を降りて、ダンジョンフロアにやってきた。
ダンジョンを模した造りとなっており、床も壁も石でできている。主にダンジョンの模擬戦を行うために使われているフロアだそうだ。
俺たちがいるフロアはだだっ広く、東西南北に四つの通路が見える。
「試験のルールを説明するぜ。フロアのどこかに宝玉のレプリカを配置してある。数は全部で三つ。これを試験終了時まで所有していたパーティが合格。制限時間は60分だ」
荒瀬の声が魔法でフロア中に響き渡る。
「受験者パーティ同士の交戦に制限はねえ。死にたくなけりゃリタイアを宣言しな。すぐに助けてやる」
死んでも文句は言えないということか。
「んじゃ、試験開始だ。健闘を祈るぜ」
ビービーと機械音が鳴り響き、ダンジョンフロアが赤く明滅する。それが試験開始の合図なのだろう。
「蒼夜ー、どうするの? まずは宝玉レプリカを探さなきゃだよね?」
蓮華が聞いてくる。
「出題者の意図はこうだ。宝玉レプリカを入手するには四手に分かれた方が確実だ。しかし、分かれた先で全員揃ったパーティと遭遇すれば、勝ち目が薄くなる」
「おぉー、なるほどー」
宝玉を手に入れる確率を優先するか、パーティの生存を優先するか。マスターの判断が試されるといったとこなのだろうね。
「なんともウィザードらしいデジタルな試験なのだよ」
俺は言った。
「四手に分かれる」
「敵パーティと遭遇した場合は退却しますの? 私は一人でも問題ありませんけども」
有馬が言った。S級ウィザードの彼女ならば、相当の多勢が相手でない限り、一人で勝てるだろう。
「俺の名を呼べ」
「はい?」
「俺の名を呼べと言ったのだよ」
訝しげな表情で有馬は首をかしげる。
「……わかりましたが……呼ぶとどうなるか聞いてもよろしいでしょうか?」
「場所がわかる。作戦は以上だ」
そう口にして、俺はまっすぐ北の通路へ走り出す。
「了解ぃっ。早く助けに来てねー」
「じゃ……」
元気よく返事をして、蓮華は西の通路へ向かう。まだなにか聞きたそうな顔で有馬は東に、朱理は南へ向かった。
宝玉ならばある程度の位置は探知できるのだが、レプリカにはそれほどの魔力がないのだろう。大小様々なウィザードたちの魔力に混ざり、どこにあるのかが判然としない。
見たことがあれば目星もつくのだがね。
とはいえ、東西南北のどれか一つは辺りのはずだ。
「む」
一瞬、影がちらついたかと思えば、目の前に投擲されたナイフが迫っていた。首を捻ってそれをかわす。
「これはついている」
そう言って俺の前に現れたのは、学科1位A級ウィザードの森熊大地である。
「なあ、お前、赤杖だったか? 運が良かったなぁ」
森熊は見下すような視線を向けてくる。その表情には確かに嘲りの色が混ざっていた。
「話が見えんね」
「とぼけんなよ。有馬虚子をメンバーに入れられることに気がついたのはたまたまなんだろ? 学科14点のお前には誰もメンバーになろうとしなかった。それで暇だから、受験者の人数を数えてたら、偶然にも数が合わないことに気がついたんじゃねえの?」
なるほど。
不愉快な感情を向けてくる男だ。
「君はこう言いたいのかね? 自分が見落とした問題に、学科最下位の人間が気がつくわけがない、と」
ニヤッと森熊は下卑た笑みを覗かせる。
「事実だよなぁ」
「森熊君」
よちよち歩きの彼を、迎え入れるように俺は両腕を広げた。
「ようこそ、競争社会へ。嫉妬の感情は初めてかな? 是非次からは、このように正直に吐露したまえ。悔しくてたまらない、とね」
沸点を一気に超えたか、森熊の筋肉が急激に膨れ上がる。【肉体強化】の魔法だ。
「ぶっ殺すぞぉっっ!! ガキがっ!!!」
両手にナイフを持ち、森熊は喉と心臓を抉りにきた。その顔面へ、俺は素の拳を叩き込む。
「……がばあぁっ……!!!」
顔面から血を流し、森熊は派手にぶっ飛んで地面を転がる。
「な……あ……んな……馬鹿、な……」
立とうとするが、しかし彼は立ち上がることができない。完全に効いてしまっているのだ。
「学科最下位の野郎が……俺より……強力な【肉体強化】を……?」
「魔法使いの修行はウィザードの比ではなくてね。補助輪がないのだ。正面から魔法に耐えうる器を鍛えなければならない」
「……なにを……言っている……?」
「わからないかね? よく見たまえ」
俺は森熊のそばまで歩いていき、拳を握る。
「素で殴ったのだよ」
ドゴォッと森熊を殴りつけると、彼は意識を手放し、がっくりとその場に倒れたのだった。




