触れてしまった
「なんかね、最近便秘気味でお腹が張るのよね。」
「そうなんですか。ちょっとお腹を触ってみましょうか?」
交通事故で打撲症の診断と検査目的で入院してきたのは、30代後半の活発そうな女性だった。
打撲自体はたいしたことはなかったが、軽く頭を打ったとのことで、経過観察と検査のための短期入院の予定だった。
触れてみると、便秘だという腹部はむしろ柔らかく、便秘特有のガスによる膨らみや下腹部の塊は触れなかった。
しかし。
「…あれ?これ、なんだ…?」
「どうかしました?」
「ちょっと…右のお腹なんですけど、これ、前からこんなでしたか?」
「え??」
腹部の右側から側腹部にかけて、もりっと何かが触れる。大きさは…握りこぶしくらいか?境界は動揺性あり、触れても痛みは訴えない。
「え…これ、知らない…。今気が付きました…!」
「ちょっと、先生に見てもらいましょう。」
動揺を抑えながらステーションに戻って主治医をコールする。電話に出た主治医に経緯を報告すると、数分で病棟にやって来た。
「…確かに何か触れるね。入院期間、少し延ばそう。大腸ファイバー予約しといて。」
「え…先生、これ、何なんですか…?」
「今は何かある、としかわかりません。ですから検査で調べましょう。大腸を内視鏡で調べてみます。」
顔色が青ざめた彼女の背中をさすりながら、言葉を継いだ。
「調べてみて何もなかったらラッキー。何かあったら見つかってラッキー、ですよ。知らなければ何もできないんですから。」
「そ、そうですよね…でも、どうしよう…!」
「まずはこれからの流れをおさらいしましょう?準備してるうちに落ち着きますから。」
「…はい…!」
わずかの希望もむなしく内視鏡の結果、大腸ガンが見つかってしまった。うちの病院では手術出来る消化器外科の医師が常駐していないため、結果が出てすぐに彼女は総合病院へと転院していった。
今でも彼女はどうしているだろうか、とふと思い出してしまう。




