第53話 ユーピテル=ベクトル
「あのう…シャワーを浴びるのは罪なのでしょうか? この仕打ちは、一体」
意識を取り戻し、今はバスローブ姿で何故か正座をしているナインに、私は全身全霊をかけて謝る。
「そんなもの、急に見せるから悪いのよ!」
── つもりなのに。素直になれずゴメンなさい。
その様子にリヴィアはお腹を抱え笑い転げている。全ての元凶は彼女なのに。
「わはっはっ…ゲホッ…はは…ほんま、うちを笑い殺すつもりなんか!? あかん、ほんま死にそうや」
リヴィアは息切れしながら「これやから、ここの人間は愛おしいんや…」と、優しい眼差しを向けてくる。
── そうだ、リヴィアの目的を聞いている途中だった。
「急に集まってもろて、すまんな。みんなに大事な話を聞いてもらうためや、堪忍やで」
その言葉の後、リヴィアの見せた真剣な表情に皆が固唾を飲む。
「全ての始まりは、現実世界でナイン……、いや、アルト少年と出会った事がきっかけやったんや」
どうやらリヴィアは現実世界で幼少期のアルトと接触したらしい。
「リヴィアと俺が会っているって? いつ?」
「アルトが小ちゃい時や。タカシくんと神社で遊んでたやろ。実はな、あんたの理を超える能力は、うちの一部なんや」
ナインは考え込む仕草の後、何かを思い出したように「ああ!もしかしてあの記憶の」と、つぶやいた。
ナインの話では、小学生時代に友達とかくれんぼをしていた時に《それ》を見つけたらしい。
「じゃあ、あの緑に輝く蛇は……?」
「そう、ウチや。あん時、ウチに触れてアルトはアカシックレコードにアクセスして死にかけてもたからなぁ。蘇生するのに、ウチが身を切ったと云うわけや」
「むしろ、俺、被害者ですよね?」
「アルトが手出すからあかんのやで。まあ、ええ。これから言うことちゃんと聞いときや」
リヴィアはそう言うとゆっくり話し始める。
リヴィアは元々『多元世界』の均衡を守護するのが役割だったらしい。しかしアルトを助ける為に自分の領域をアルトに移植した。
結果、自分の姿を維持する事すら困難となり、意識だけが彷徨う情報思念と化してしまったらしい。
「せやから、お父さんに身体作ってもろたんやけど……」
その後、偶然出会ったユダさんにADMへの互換情報体。つまり、『ELI』を創り出すのに必要な知識を提供する事を条件に身体を作ってもらったらしい。 しかし、今まで通りとはいかず、本来あった『世界』との干渉が出来ないままでいるのだ。
「そこで問題発生や」
そんな中、リヴィアの創造主はこの世界を消去する決定を下した。
「理由は…『オリュンポス』つまり、この仮想世界の発明。あんたらが創造主と同じ『仮想の人類』を生み出したから、脅威と判定されて消去対象になった訳や」
そして、本来その実行をするのがリヴィアの役目だった。
「でも、なんでやろなぁ? なんか、人間とこの世界が愛おしくなってしもてん」
やろうと思えば、アルトから無理やり力を奪う事は可能らしいが、リヴィアはそれをしなかった。
つまり、リヴィアは創造主を裏切ったのだ。
何故なのか尋ねてみるも、自分でもよくわからないらしく、「長い間、人間を見てきたからかもしれんな…」と、八重歯を覗かせて笑う。
そして、リヴィアが使い物にならないと知った創造主が次に下した手段が……。
『I ntroducing a Virus that will End the world』
── 世界を終わらせるプログラムの投入だった。
その実行の為にセクター•トウキョウのADMバックアップに『知恵の実』と称した創造主の自我を与え人類滅亡を実行させようとした。
「せや、それがIVEの正体や」
そして、リヴィアは今まで見せたことのない真剣な表情で言った。
「イヴの目的はつまり創造主の意思。この仮想世界の消去やない… 。 消し去るのは現実の方や」
リヴィアの話は私達の思っていた現実より。
「ウチの目的はただ一つ。人類を助ける事や。せやから協力してる……。これからが正念場や、覚悟決めや」
遥かに大きな責任だった。
「本当の敵は創造主。あんたらの言う『世界の理』ってことや」
「ええっと…つまり、俺達はここの仮想現実を消去するだけでなく? 現実を壊そうとしている世界を倒すって…… ええっと…?」
リヴィアの語った内容が難しかったからだろう。ナインは頭を抱えていた。
かくいう私も、余りの話に頭と体が同時にフリーズしそうになったが。
「せやな、簡単に言えば、あと2つのパンドラ……、トウキョウとナゴヤのを壊した後に創造主からこの仮想世界を切り離すんや。その後、逆に創造主へ攻撃を掛けて現実世界もその管理下から独立させるって訳や」
リヴィアはベットから飛び降りると、デスクに置いてあった2本のペンを持ち上げる。
「それにはイヴのデータとイーライやったか?その二つの情報を統合して創造主への道を拓かなアカンのや。勿論協力してくれるな?」
そう言いながら2つのペンをクロスさせる。
「このペンが創造主の視点。もう一本が観測者の視点。この交わるところに『物語』が生まれる。それを『理』と呼ぶんや。 うちはそれを解き放つ」
そう言うリヴィアの笑顔に違和感を感じる。この表情はどこかで見たことがあった…… 。それは、慈愛の込められた視線だったにも関わらず、何故か私の中で不安が広がっていった。
しばらく考え込んでいたタイチョーだったが、「リヴィア。それが神様という事か? そんな得体の知れないものと戦うなんて話は信じ難い事だが…… 自分は勝てる見込みがあるとは思えない。何か秘策の様な物があるのだろうな?」とリヴィアを見つめる。
「不確定要素が多いんやけど、ウチに考えがある。まあ、任せとき」
その言葉に続けて、彼女はこの先の計画について語り出した。
先ずはイヴの破壊が最優先だという事、
その為に私とナインはS•トウキョウに向かう事となる。
目的はパンドラの破壊と、リヴィアがそこに潜むイヴのデータを取り込む事だった。
パンドラはイヴの支配下にある為、セクター•トウキョウには天魔と染人は存在しないらしい。
しかし、イヴを守る自衛軍『リライト』との衝突は避けられず、更には現実世界からの侵入者が待ち構えているとの事だった。
ナインは腕を組んだ姿勢で「それにリヴィア。誰かと会って欲しいって言ってたよな?」と、リヴィアを見つめる。
「せや。侵入者は全部で6人おる。その内の1人が話し合いたい言うとるんや」
ええ奴なんやけどな…。と、リヴィアは寂しげな瞳を天井に向け、話を続けた。
タイチョーは別行動となり、S•ナガノで待ってて貰うという。
理由は、「S•ナゴヤの『ガーディアン』との戦いはメッチャ厳しくなるから、お父さんの所で稽古つけて貰っとき」だった。
そんな中、ナインの険しい表情が目に入る。
その様子に彼の考えている事はおおよそ見当はついた。
── これから戦うのは天魔と染人だけではない。『人』なのだから。
リヴィアは、さてと。と、ベットから立ち上がると、「明日から大変やで!今日はしっかり休んどきや」という言葉で解散となった。
リヴィアは私に歩み寄ると「ほんまに…宜しくせんでええんか?」と、囁く。
どうやら、一言多いのはナインだけでは無かったらしい。
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親愛なる観測者の皆様
私は『創造主』に戦いを挑みます
無論、私だけでは何も成せません
そこで、私は協力者を集める事にしました
『創造主』には『創造主』を……
そう、あなた方『観測者』の力を
今回が初めてです
貴方達の意思が流入してきた事は
きっと今回の結末は
今までと違うという予感があります
どうかイメージを続けて下さい
頭の中で、アクムやナイン達の事を
より強く
そして 私達に力を貸して下さい
最後の選択の刻が訪れるその時に
私は彼らを救いたいのです
どうか
『観測者』いいえ……
『最高神』である皆様の
『向かう未来』をどうか私に
── リヴィア




