第23話 脅威への対抗
街は電飾で彩られ、行き交う人々は幸せそうな顔をしていた。 この光景がデータだなんて、いまだ信じられず、つい周りを見回してしまう。
「クリスマスケーキ半額で~す!」
サンタの衣装を着た女性が鐘を鳴らしながら客引きをしていて、甘い香りが漂ってくる。辺りには、ヤナセが言っていた通り、コスプレをしている人が多く見受けられた。
特に、ユノと同じ服装をした人々が多く、ズイムの人気の高さが伺えるが、まさかオリジナルがここにいるとは誰も思わないだろう。
突然、右腕に暖かく柔らかい感触が。それは、ユノが腕を絡めて来たためだった。
「こっちの方が自然でしょ。ほら」
視線を上げると街中はカップルで溢れており、確かに違和感がないかもしれない。
だが、しかし ──。
「いつからそんな関係なのかしら?」
と、下から声が。
「若いって素晴らしいな!ガッハッハ!」
と、上から笑い声が聞こえる。
ほらね……いや、嬉しいけど!
「カモフラージュですよ」と、できるだけ冷静に応えたつもりだったが、声が上擦ってしまった。
それに、なんだろう。この優越感。
周りからの視線を痛いほど感じる……。
しかし、その視線の中に、明らかな観察の意図を持ったものが含まれていた。 確か、オリュンポスに侵入後土手で感じた視線と同じ……。
勢いよく振り返るも、あまりの人混みのため、視線の主を見つけることはできなかった。
しばらく人混みに紛れて歩く…まるで、クリスマスを楽しんでいるかのように。しかしそれは、今から起こる事から目を背けたかっただけなのかもしれない。中央塔がビルの隙間から姿を現すと、皆んなの空気が一変する。ユノは俺から離れ、その瞳は燃えるような光を宿していた。
中央塔は、PICTの通信管理や街の保全のための監視を行っている施設だ。全てがAIによって管理されており、中に人は存在しないはず。あくまで、現実世界での話だが。
「こっちです」
ヤナセが建物の裏側にある通用口のポートにPICTをかざし、鍵を開ける。事前に調べていたのだろう、その手際は見事だった。
「さあ、人類を救いに行くぞ!」
トヨダの掛け声で、俺たちは建物に潜入した。
建物内では外のざわめきが嘘のように消え、静寂が場を支配していた。思ったよりも通路は広く、銀色の壁と床が圧迫感を与えてくる。
「あなたは強い…」
ユノが真っ直ぐな瞳でこちらを見つめてくる。
「この先、何があっても…… 私のことを信じてくれる?」
突然の問いかけに疑問を感じるが、俺がユノを信じない訳がないだろう。
「もちろんさ」
そう言った瞬間、前方から不穏な気配を感じた。目を向けると、そこには……。
整った顔立ち、虹色の瞳と長い髪が風もない空間でなびいている。背中には針金で編んだような4枚の翼を広げ、空中に浮かんでいる。身体全体から淡い光を放つその姿は、まるで……。
「女神」というフレーズが頭を掠めるが、本能が危険を告げる。
「セレクターよっ!!」
ヤナセさんが叫ぶと同時に、ユノが攻撃を仕掛ける。壁を蹴り、斜め下から拳を突き上げる。しかし、セレクターと呼ばれたその存在は、いとも簡単に身をかわした。
「アルトッ!!」
ユノがこちらに視線を送ってくる。
── そうだっ!戦いはもう始まっているんだ!
不思議と体が勝手に反応し、腰の刀を抜き一閃。セレクターに直撃し、その姿は雲散霧消した。
「上位種を一撃…凄いわね…」
エリが呟く声が聞こえた。
まだ居る!今度は小ぶりだが4体…いや、5体か。さっきのが女神なら、こっちは天使か!?それを、ユノとトヨダが瞬く間に撃破する。
「手厚い歓迎、痛み入るねぇ!」
トヨダは銃口を『ふっ』と吹き、「こっちだ!」と先陣を切って進む。
誰もやらせはしない、皆で無事に帰るんだ!
目的地は最上階。最後まで気を抜いてはいけない!
敵は次元を切り裂いた様に突然現れる。『セレクター』と呼ばれるそれは、手に持つ槍や弓矢で物理的な攻撃を仕掛けてくる。前方はトヨダ、後方はヤナセが索敵するものの、時には上位種と呼ばれる女神の様な強敵に挟み撃ちにあい、ユノが負傷することもあったが、エリがすぐさま治癒を行った。
『ジェネシス』では回復という特技は見たことがないが、自然治癒力を増幅するイメージで発動するらしい。ただし、致命傷までは治癒できないという。
間もなく最上階というところで、開けたフロアに出た。 中央には大型トラックほどの大きさの金属製マシンが行く手を阻んでいた。
そのマシンは警告音と共に、カメラのレンズのような部分が赤く点灯する。
中ボスのお出ましってわけだ…。 警告音を無視して進むと、マシンから6本の脚が現れ、複数の銃器のようなものをこちらに向けてくる。
「恐らく、こいつに対抗できるのはアルトしかいねぇ!行けるか!?」
トヨダさんがマシンから目を離さずに話しかけてくる。
「勿論です。皆さんは下がっていてください!」
…大丈夫だ…セレクターの放つ弓矢もスローに見えるほど、集中できている。
「アルト、気をつけて…」
ユノの心配そうに声に頷くと、皆が十分に距離を取ったことを確認し、マシンに目を向ける。
全ての銃口がこちらに向けられているなか、ふぅ、と深呼吸を一つし、『空間消去』の特技を発動。
マシンの足元へ瞬間移動し、6本の脚の内2本を切り落とした。マシンはバランスを崩し転倒、胴体部分が床にぶつかり、派手な音と共に地面が揺れる。
すぐさま銃器で反撃してくるが、「当たるかよッ!」 銃弾の軌跡が手に取るように見える。その中をかいくぐり、胴体に刀を突き立てる。
「浅いかっ!」
マシンの攻撃は止まらない。一旦距離を取り、「これでどうだ!」と、先程切り取ったマシンの脚を遠隔操作し、高速で胴体部にぶつけた。
一瞬マシンの攻撃が止まったのを見逃さず、重力方向変換しマシンの頭上に移動すると、「とどめだ!」腹からの声と同時に刀を振り抜き、その衝撃波はマシンを真っ二つにした。
「ふぅ……。皆さん、無事ですか?」
後ろを振り返り確認しようとするが、返事がない。
まさか、流れ弾でも受けたのか!?
と、肝を冷やしたが、余りの強さに皆言葉を失っていたとの事だった。
この上が最上階。パンドラに潜み『ユーピテル』が居る。
その脅威を排除して必ず、現実世界を救ってみせる!
スロープを上がりきると、目の前に大きな扉が現れた。




