旅立4
依頼の目的地である精霊の森の入り口は、先ほどまで滞在していたコメイダ村から歩いてすぐの場所にある。
その森自体の大きさは広大である。広大な森の中で、異変の原因を探るのは至難であることは必至である。
しかし、ユフィたちには原因を探るための一つの手段があった。それは以前にアレスから渡された精霊のイヤリングの効果である。このイヤリングに魔法力を込めると、周囲に漂っている精霊を可視化することができる。
"精霊の森"と謳われている以上、精霊に関係があると当てをつけていたのだ。
そのイヤリングは一対しかないため、今はユフィがそのイヤリングを着けている。
その森に近づくにつれて、体を震えさせているユフィの異変にソフィがすぐに気づいた。
「姉さん、大丈夫ですか?」
「ありえないわ・・、【風】の属性の精霊の数が多すぎる・・・」
「そんな・・!私にも見せて下さい!」
ユフィから預かったイヤリングを着けたフィもすぐに、きゃっ!と小さな悲鳴をあげた。
「え、えっと・・・それはヤバいんスか?」
魔法について疎いレインにとって、それがどれくらいインパクトがあることなのかを理解できていなかった。
「やばいなんてものじゃありません・・!!これじゃ、私たちの【火】【水】の魔法の効果は半減してしまいます。もし、森の深くに行くほど【風】の精霊の比率が上がるとしたら、・・・考えたくもありません」
一般的な精霊の属性は【火】【水】【土】【風】であり、これらの精霊に対して魔法力を提供することにより、魔法が発現する。普段だと、その存在比率は概ね同じくらいである。しかし、この精霊の森ではほとんどが【風】の属性の精霊で構成されている。
【風】の属性が得意な魔法使いにとっては、この上ない環境であるが、ユフィとソフィにとっては非常に分が悪い場所である。ユフィは【火】属性、ソフィは【水】属性に特化して訓練してきたためである。二人とも【風】属性の魔法も使えるには使えるが、所詮上級冒険者程度である。魔族との戦うのには心許ない。
「一度、村まで下がりますか?」
「いえ、村まで下がったところで打てる手はないわ、進みましょう!」
「分かったッス!でも、危険を感じた場合は、すぐに撤退!いのちだいじにッス!」
「えぇ、わかっているわ」
魔法に対しては門外漢であるためレインは置いてけぼりをくらっていた。しかし、暫定リーダーとしての最低限の方針を決め、三人は森の中へと入っていった。
森の中は鬱蒼としており、背の高い木々が生い茂っているため、太陽の光はほとんど通らないため、満月の月夜程度の明るさしかない。動物が住んでいる痕跡はあるが、ユフィ達の存在に気がついたのか、その姿を見せることはなかった。
ときおり吹く風が枝を揺らし、触れ合う葉がざざざと音を鳴らす。
その音だけが一帯を支配していた。
「歓迎されていないように感じるッス・・・。」
「こんなのは考え方次第よ!あ〜この風気持ちいいわね!さ、最高の気分よ!」
口では強がりを言うユフィの唇は小さく震えていた。その右手にはレインの裾をぎゅっと握りしめている。齢15にも満たない少女にとって、致し方ないと言える。
「こっちの方ですね」
精霊のイヤリングを着けているソフィが二人を先導している。ソフィは【風】の精霊が濃くなっている方へとどんどんと進んでいく。ユフィと比べて比較的内気なソフィだが、こういう時に物怖じしないのがソフィの強さである。
小道もないこの森では、草木をかき分け進んでいくしかない。
そうやって進んで3時間程度進んだのだろうか、ソフィの前に突然、ぽっかりと開いた空間があった。
草も生えていない半径20m程度の小さな広場である。
「おそらく、ここが精霊の森の中心ですね。【風】の精霊さんが今までとは比べ物にならないほど高まっています。」
「適当にあるいてもここには絶対にたどり着けないわね。しかも、この不自然な空間、なにかあるとしか思えないわ。・・・あれはなにかしら?」
ユフィは広場の中心に何かが横たわっているのを見つけた。
それに近づくにつれ、その何かが明らかになった。小さな石碑が地面に埋められていたのだ。
その石碑はたてとよこが50cm程度、高さが20cm程度の大きさだった。その石碑は明らかに人為的に加工されている形をしていた。そしてその石碑を見ると、その表面には傷が刻まれている。
「なにか、刻まれているようッスね。かすれていてだいぶ読みにくくなっているッスけど・・。どうやら人間の言葉のようッス。」
三人はその石碑を囲むようにしゃがみこみ、その石碑を注意深く観察する。
注意深くその石碑の文字を一文字一文字解析していくと、次のような文章ができあがった。
【力を示せ、さすれば汝に風の秘法を授けん】
「なんだろこれ・・。風の秘法?ソフィ、なにか知ってる?」
「いえ、私には何のことだか・・・。アレスさんとリリスさんなら何か知ってると思いますけど」
「そうよね。ん〜どうしようか?とにかく異変の原因はこの石碑に関係することだとは思うのだけど・・」
「そッスね。とりあえず他になにかないか、この付近をもう少し探してみるッスかね。」
広場を探索しようと、石碑から顔を挙げた瞬間、三人は背筋にぞくっとした気配を感じた。
「へぇ。ここをよく見つけたね」
そこには金色に輝く髪をツンツンにセットしている少年の姿があった。




