実力
魔族のおねえちゃんことリリスが【ライオン】の正式なメンバーになったため、ギルドの登録内容の変更を行うために、一行はギルドへ向かった。
「すいませーーん・・ん?」
アレスは元気よくギルドの扉を開けた瞬間、その場の空気の異変に気づく。
ギルド内に居た冒険者達が殺気を放ちながら、こちらを睨んでいるのだ。
無理もないことだ。魔族と人間は相容れないもの、これが世界の常識である。
突然現れた魔族の女がどうやら【ライオン】に加わったらしい、どうやら危害は加えてこないらしい、奇麗でボインな姉ちゃんらしい、という情報は巷に出回っている。
しかし、冒険者達は自分の目で見たものしか信じない。噂を信じて痛い目を見たことなど、誰もが経験しているためだ。
「こ、これはさすがにやりにくいな・・・。リリス、みんなに挨拶してくれ。」
「そうじゃな。妾はリリスじゃ。皆の衆、よろしく頼むぞ。人間の文化などほとんど知らんからのぅ、おかしなことがあったら色々教えて欲しいのじゃ。」
どよどよ・・とざわめく冒険者一同。一人の勇気ある若年の冒険者がリリスに近づいて来た。
「リリス・・さん?なぜあんたは【ライオン】と一緒に行動してんだ?人間を憎いんじゃないのか?ってか人間を食べたりしないのか?」
「何かとんでもない勘違いをしておるの?魔族の中でも人間と仲良くしたい者は多くおるぞ?しかし、今までの歴史上、魔族と人間とずっと争っておるからのぅ。お互い引っ込みがつかなくなっておるのじゃろう。そして、魔族は人間を食べたりしないぞ?それと妾がアレス達と一緒にいるのは、勿論アレスのことが好きだからじゃ!」
そう言って、リリスは色っぽい仕草でアレスにウインクする。
穏やかな口調と人間と変わらない感情を持っていることを知った冒険者達は警戒レベルを落とした。
「意外と魔族って普通なんだな。」
「まじかよ。あの【優男】ただもんじゃないな・・」
「リリスに抱かれてぇ。」
というより、リリスの色っぽい仕草に多くの男冒険者は目を奪われているようだ。
「納得頂いたところで、俺たちの用事をさっさと終わらすぞ?」
アレス達はギルドのカウンターに向かう。
「こんにちは、アレスさん!登録内容の変更ですね?!」
笑顔で元気よくアーニャが挨拶してくれる。アーニャとリリスとは城の外で一悶着あった時に面識があるため、いつも通りに接してくれている。
「あぁ、よろしく頼む!それと、魔法レベルとギルドレベルの見直しもお願いする。」
身分証明の代わりとなるギルドカードには、所属しているギルドのレベルと自分の魔法レベルが記載されている。
「えぇ、分かりました!どれだけレベルアップしているか楽しみですね?!こちらへどうぞ〜!」
そういってギルドの奥にある訓練場に案内される。アレスはユフィ・ソフィと出会ったときに魔法レベルの測定をしているが、他のメンバーは魔法レベルの測定は一度も行っていない。
「今回は、俺とレインの測定はいいや。前回から魔法の威力変わってないの、自分で分かるし、レインは魔法使えないし。ってことで、まずユフィ、やってみろ。」
「えぇ、分かったわ!」
そういって、ユフィはさっと【火】の魔法を発動し、訓練場の中心にボツンとおいてある鎧にその魔法を命中させると、ドオン!と音を立ててその鎧は爆発した。
鎧は粉々とはいかないが、ところどころ欠けている状態になっている。
「た、たった数ヶ月でここまで魔法を使えるようになるなんて・・・。」
アーニャは口をあんぐりと開けて、驚いている。
アレスの見立てだと、その魔法は中級者から上級者の間くらいの威力である。
しかし、中級者になるためには数年、上級者になるためには10年はかかると言われているのだ。
それを鑑みると、ユフィの成長速度は異様と言える。
「ユフィ、やるじゃん。」
「まーね!これくらいで発動できなきゃね、話にならないわ!」
アレスが驚いていたのは、その魔法の威力よりも、その魔法の発動時間の短さである。
ユフィは呼吸をするかのように自然に魔法を発動させていた。魔法の熟練者のそれと同じように。
実際の戦闘において、魔法のタメの時間は致命的になる。それをユフィは考えて、今回も”戦闘仕様”で魔法を発動させたのだろう。
おそらくユフィが時間をかけて魔法を発動させれば、上級者クラスの威力の魔法は十分に使えるだろう。
続けて、ユフィは【水】【風】【土】の魔法を順番に発動させる。
どれもほとんど、【火】の魔法と遜色がない。
「ふぅ。まぁ、こんなもんかな!【空】の魔法はまだ使えないからね。次はソフィ、あんたよ!アレやってみなさいよ!」
「アレ、ですね!はい、頑張ります!」
そう言って、腕まくりをして準備をするソフィ。
彼女はむむむ・・と集中して、【水】の魔法を発動に入る。
あれ・・?ユフィに比べて時間をかけて発動するなと思った矢先、ユフィの手から大きな水の竜が生まれ、その竜は鎧目がけて飛んでいき、やがて鎧に命中し、大爆発を起こす。
(そう、来たか・・!)
魔法は使用者のイメージ通りに発動できる。ソフィは魔法を発動する際に、時間をかけて鮮明な竜をイメージして、魔法を発動したのだろう。
しかし、【水】以外の魔法については練習不足らしく、【火】【風】【土】の魔法についてはユフィと同等の魔法を発動するに終わった。しかし、それにしても【水】の魔法は圧巻だった。上級者でもなかなか難しいレベルだろう。
「ソフィ、いつのまにそんな魔法の発動の仕方を覚えたんだ?」
「えへへ。お姉ちゃんと一緒に隠れて練習してたんです。アレスさんを驚かそうと思って。お姉ちゃんも同じことできますよ?お姉ちゃんは【火】の魔法が得意みたいですけど。」
そういって、自慢げな顔でエヘンと胸を張るユフィとソフィ。なんとも愛らしい。
「正直、ここまで成長してるとは思わなかった。俺が魔法で抜かれるのはもうすぐだな・・と、最後にリリス、頼む。」
「任せるのじゃ。アレスよ、どんな魔法をご所望じゃ?」
「そうだな。威力を上げすぎるとここら辺が消し飛ぶからな・・・。威力を抑えて、とにかく奇麗なやつを頼む。」
「御意、なのじゃ!」
そう言って、リリスはオーケストラの指揮者のように腕を降り出す。
そうすると突然、全長10mはあろうかという龍が現れる。それも4体同時にだ。
そして、赤色の龍、青色の龍、緑色の龍、茶色の龍それぞれが上空に舞う。
その竜はリリスの腕の振り方に合わせるように、空中を自由に踊りだし、訓練場内を優雅に飛び回る。
ときには激しく、ときにはのんびりと、様々な色がアレス達の視界を埋める。
20秒ほど龍達を指揮した後、リリスは終焉と言わんばかりに、大きく振り上げた手を下ろすと、4体の龍は鎧目がけて一斉に突撃する。
ドォオオオオン!と大きな音を立てて、鎧は爆散する。
鎧があった場所には小さな穴ができていて、その爆発の威力を物語っている。
「す、すごすぎるっス!!やばいっス!すげーッス!」
やたらテンションが高くなり、大興奮するレイン。
それと対象的に、ユフィ、ソフィ、リリスはその場に凍り付いていた。
少しでも魔法の教養がある者ならば、目の前の光景が常識から外れすぎて、何の反応もできないのだ。
「えーーっと、素晴らしい演奏をありがとう、リリス。せっかくだから、皆にも今の魔法を説明してやってくれないか?」
「もちろんじゃ。分かっているかもしれんが、赤い龍は【火】、青い龍は【水】、緑色の龍は【風】、茶色の龍は【土】の属性を表しておるぞ?本来、その属性には色はないんじゃが、見栄えを考えてこのような色にしたんじゃ。つまり、魔法の形・色・動きを制御して、あのような魔法を発動したのじゃ。なかなか乙な演出じゃろう?」
「あと、【空】の魔法についても補足してやってくれ。」
「おぉ、忘れておった。この訓練場一帯に、【空】の魔法を発動させて時間の流れに干渉したのじゃった。おそらく体感では数十秒程度に感じられただろうが、実際に魔法を発動しておった時間は5秒程度じゃよ?」
すげーッス!すげーッス!言ってるレインは置いといて、ユフィ・ソフィ・アーニャは声を失っている。
「わ、わたしたちも、まだまだ・・ね。」
ようやく現実に帰ってきたユフィが絞り出すように声を出す。
「え、えぇ。か、かなり壁は高そうですね・・。」
ソフィもなんとかそれに続いて応答する。
・・・アーニャが現実に帰ってくるためにはしばらく時間がかかるようだ。
しっかりと魔法の実力とギルドの実績を査定された結果、アレス達は以下のように評価された。
ギルド名【ライオン】
ギルドレベル【5】
名前【アレス】
魔法レベル【火:8 水:7 土:7 風:7 空:6】
名前【ユフィ】
魔法レベル【火:5 水:5 土:5 風:5 空:0】
名前【ソフィ】
魔法レベル【火:5 水:5 土:5 風:5 空:0】
名前【レイン】
魔法レベル【火:0 水:0 土:0 風:0 空:0】
名前【リリス】
魔法レベル【火:9 水:9 土:9 風:9 空:8】
ちなみに魔法レベルが9というのは、大陸に数人しかいない程度のレベルである。
改めてリリスの強さを数字として目の当たりにしたアレス達はギルドを後にした。




