魔族
【フォール山脈】から普段から活動拠点にしている【イーストシティ】に戻ることを決めた【ライオン】と【宵の守護者】。
【宵の守護者】は馬車を使ってフォール山脈までやってきたため、【ライオン】と別々に【イーストシティ】まで戻ることにした。
ーーー【宵の守護者】ーーー
荷物を整理し、それを馬車に片付けているギルドのリーダーであるグレン。
彼は困惑していた。
(俺は間違っていたのだろうか・・・。)
魔族は、人間を滅ぼすもの・・それを鵜呑みにして、対話もしようとせず一方的に戦いを挑み、負け、さらにその傷も癒してもらった。
世の中には自分が知らないことが山ほどある。
傷の回復を行う魔法然り、戦闘を好まない魔族然り、その魔族と懇意にしている人間がいるということ然り。
しかもその人間達は、イーストシティからここまで約100kmの道のりを馬を使わずに、ここまでやってきたという。
どうやってここまでやってきたのだろうと思ってはいたが、それを敢えて【ライオン】に尋ねはしなかった。しかし、それも【ライオン】の帰る姿を見て得心がいった。
リーダーの少年は宙を飛んでいきながら、漆黒の少女は爆発の推進力を使いながら、白銀の少女は猛烈な追い風を受けながら、大剣は不規則な軌道と絶叫を繰り出しながらーーおそらく見当もつかないような魔法を使っているのだろうーー去っていた。
全てが自分の常識の外にあることだった。
自分達にはあんな風に魔法を応用して、移動手段に用いることは絶対にできない。
あの女の魔族との実力差は天と地ほどあると感じていたが、大陸でトップクラスと言われている【宵の守護者】と【ライオン】の格の違いをまざまざと見せつけられてしまった。
ギルドの他のメンバーも同様の気持ちなのだろう、どんよりとした顔をしながら、撤収の準備を行っていた。
ーーー【ライオン】ーーー
軽快にイーストシティへと向けて爆走していく5人。
アレス、ユフィ、ソフィ、レイン、そして魔族の女リリスの5人である。
時間削減のため、復路に関してもレインにはユフィとソフィの魔法の力で運んでいってもらっている。
ぬぁあああーーー!
という大きくなったり、小さくなったりするレインの叫び声が一面に木霊している。
「それ楽しそうじゃの?妾もやってもいいか?」
悪魔のようなリリスの声ーーレインにはおそらくそう聞こえたであろうーーがした後、その返事も待たずに、リリスは顎をくいっと上に上げる。
それと同時にレインは地面と水平方向にぶっとんでいく。
「うわあああああ・・あああ・・ぁあ・・ぁぁ・・ぁ。」
そして、あっという間に見えなくなってしまった。
「れ、レインさん、大丈夫なんですか・・?」
恐る恐るソフィがリリスに質問する。
「きっと大丈夫じゃ。イーストシティの手前数kmぐらいに着弾するように発射しておるからのう。」
「ち、着弾・・は、発射・・ですか。」
「もちろん、優しく地面に降りるように精霊に指示しているから、怪我の心配はないのじゃ。それよりもさっきから気になっておったが、おぬしらは魔族と人間のハーフ、なのかのう?」
「・・・えぇ、そうです。」
「それは辛い人生だったのう・・・。」
「正直、辛かった、です。でも、今はこうやってアレスさんと共に行動できるようになって、とても楽しい毎日を暮らしているんです。」
そういって笑顔でアレスとリリスを交互に見るソフィ。
それを暖かい目で見つめるリリス。
「そう・・・。それは良かったのじゃ。さすがは私が惚れた男よ!」
そう言ってリリスはアレスの肩をバシっと叩く。
「ところでリリス・・さん?とアレスはどんな関係なのよ?」
「妾はリリスで良いのじゃ。1年くらい前にちょっと戦った時に、そこで意気投合したのじゃ。詳しい話は、街についてからアレスがまとめて話してくれるんじゃろ?」
「あぁ。今までユフィとソフィとレインに話していなかったことを含め、ちゃんと話すよ。」
「えぇ、お願いするわ。」
ユフィもソフィも今までアレスの真の目的を聞いていなかった。”大陸一のギルド”になるという目標は明確にされていたが、”何のために”という目的に関してはまだ知らない。
ユフィとソフィはアレスと出会ってから、ほとんどの時間を一緒に過ごしており、アレスが明確なビジョンをこの先に持っていることは間違いない。
しかし、そのアレスはその目的やビジョンについての話題を避けているように感じていたからだ。
時機が来たらアレスから話してくれると思っていたが、その時機が唐突にやって来たらしい。
ユフィとソフィの胸中は高鳴る期待と不安、そして喜びが入り交じっている。
早くその話を聞きたいと願う姉妹が進むスピードは加速していく・・・・。
2時間後、イーストシティの門のすぐ近くまで【ライオン】のメンバーがやってきた。
しかし、ここで思わぬ問題が生じた。
「やっぱり・・・魔族がこの街に入るのはまずい・・よな?」
「無理っスね」
「無理!」
「残念ながら・・・。」
レイン、ユフィ、ソフィは瞬時に否定する。
このメンバーは比較的魔族に偏見がないメンバーだから問題ないものの、一般的には魔族が発見された時点で、軍やギルドは総攻撃を仕掛けてくるだろう。
「しょうがないか・・・リリス、俺の奴隷になれ。」
「えぇ、分かったのじゃ。妾は一生、アレスの愛の奴隷となるのじゃ。」
両手を自分の豊満な体を抱きながら、うっとりとした恍惚の表情でアレスを見つめるリリス。
またも唐突な展開についていけない他の3人。
「俺たちはフォール山脈につくと、【宵の守護者】と魔族が戦っていた場面に遭遇した。その魔族を【ライオン】が奇跡的に倒して、その魔族を奴隷とすることができましたとさ。めでたし、めでたし。」
「そんな話が通じるかしら?」
「ま、これくらい何とかなるだろ。」
そう言って鼻歌混じりにどこからともなく取り出した首輪をリリスに取り付けるアレス。首輪からは鎖が伸びていてその先をアレスが持つ。
「パフォーマンスとして、これくらいは必要だとは思うけどな。悪いな、リリス、首輪とかつけちゃって・・ってそんな嬉しそうな顔をするな!!」
満面の笑みでワンワンといいながら犬の真似をするリリス。心底楽しそうだ。
「初めて人間の街に入れるんじゃよ?!楽しみでしょうがないのじゃ!!」
「なんか・・魔族のイメージが崩れていくッス・・。」
「言っとくけど、こいつは特別に変だからな。」
「照れるのじゃ〜。」
「誉めてない!とりあえず、門へ向かうぞ。積もる話はそれからだ。」
そういってアレスを先頭に、鎖に繋がれたリリス、ユフィとソフィ、レインがそれに続いていく。
【イーストシティ】の門に近づくにつれて、門の方がやたらと騒がしくなっている。
十中八九、リリスのせいだろう。
「おい、お前達!そこで止まれ!」
半ば絶叫したような口調で門番がアレスに向かって話しかける。
(さ、こっからは出たとこ勝負だな。)
ふんっと気合いを入れるアレスであった。




