拠所
訓練を始めてからさらに1ヶ月が過ぎた。
ここまではひたすら個人の能力とギルドとしての戦闘能力を向上させることのみを追求して行ってきた。
街のギルドにて魔物討伐や貴族の護衛を行い、報酬としてお金を得ることはできる。
しかし、アレスはこの一ヶ月、それをしなかった。
まずは基礎的な戦闘能力がないと、この世界では生き残ることすらできないのだ。
そうしてようやくこの1ヶ月でその基礎的な能力がついたとアレスは判断した。
「よし、今日で基礎訓練はおしまいだ。これからはギルドで仕事を受注して、俺たちのギルドランクを上げること、つまりこのギルド【ライオン】の顔を売っていくぞ。」
「やっとスね!待ってましたよ!このまま訓練だけで一生終わるんじゃないかと思ってましたからね!」
ギルドにはギルドランクなるものが存在する。
このギルドランクは端的に言えば、そのギルドの信頼度を示す。
具体的には、ギルドとしての戦闘能力、依頼者の満足度、案件の実績などの観点から評価される。
このギルドランクはギルド結成時には1で、最高ランクが10となっている。
1〜3は初級、4〜5は中級、6〜7は上級、8〜9は超一流、10は神となって語り継がれるクラスとなっている。
今までランクが10に達したギルドはなく、過去最高のランクですら8である。
ちなみにその過去最高ランクである8をたたき出したのが、アレスが過去に所属していたギルド【ミスリル】である。
そのため、この【エデン公国】にとって【ミスリル】は冒険者を志すものであったら、誰もが知っている伝説のギルドなのである。
ギルドに到着したアレス一行は、早速どんな依頼があるかを受付のお姉さんに確認した。
「どのような依頼をご希望ですか?【ライオン】さんだと、ギルドランクがまだ1なので受注できる依頼は限られてしまいますが・・・。」
「魔物討伐系で。難易度が高い順に片っ端から出してくれ。」
「分かりました。本来、ギルドランク1のギルドにはオススメできない案件もありますが、アレスさんがいるなら大丈夫ですよね。」
そういって、受付のお姉さんは依頼が書いてある紙を10枚ほど取り出し、アレスに手渡した。
「うん、ありがとう。」
アレスはお礼を言って、その案件をざっと確認する。
(まぁ、最初はこんなもんだよな。)
難易度が高いとはいえ、所詮はギルドランク1が受けられるレベルの案件である。
今のアレス達にとっては呼吸をするように成功できる案件ばかりである。
「こっちは、レイン。こっちはユフィとソフィ。」
そう言って、アレスは案件が書かれた10枚ほどの紙を半分に分け、片方をレインにもう一方をユフィとソフィに手渡した。
「・・・・。」
無言で手渡された紙を受け取るレインとユフィ・ソフィ。
「期限は今日いっぱいね。自分たちの好きなようにやってくれていいから。その案件に書かれている魔物は今まで全部倒したことあるやつばっかりだから、安心しろ。この辺りにいるやつらばかりだし、死ぬことは多分・・・ない。」
「嫌な予感がしたと思ったスよ!!」
嘆くレインを尻目にユフィとソフィは目を輝かして、その紙とアレスの顔を交互に見つめている。
今までの人生において、自分たちが好きなようにしていいと言われたことがなかったからであろう、恐怖心と好奇心が入り交じった表情をしている。
「あ、ちなみにその案件全部を早く達成した方にはご褒美がありまーす。」
「むむ!それは負けられないわね!」
そういってムフーと鼻息を出すユフィ。ユフィは負けず嫌いだからな、扱いやすい。
「俺はなんで一人なんスか!そんなの不利じゃないスか!」
「まぁまぁ。俺はおまえらが帰ってくるまで、ギルドで待っているから。あんまり待たせんなよ?んじゃ、よーいはじめ!いってらっしゃい!」
適当にレインをあしらったアレスは、さっさと勝負の始まりを告げる。
「行くわよ!ソフィ!」
「ま、待ってよぉ〜。」
そういって走り出すユフィとソフィ。
「鬼ー!!」
と言ってアレスを恨めしげにアレスを一瞥して、走っていくレイン。
「いってらっしゃ〜い。」
そういって満面の笑みで三人を送り出すアレス。
(ここまでは思ったより順調だったな。このままいけば・・・間に合うか。まずはギルドランクを上げて、他の有力なギルドとン仲良くなって、エデン公国の方に打ちこんでいって・・。今後の計画を立てないとな・・。あと2年しかない・・・。)
そうアレスは思案しながら、街の雑踏の中に消える。
アレスは情報収集や種々の用事をこなすために、街を一周し、ギルドに戻ってきていた。
「受付のお姉さん、ちょっと聞きたいんだけど・・・。」
「あの・・良かったらアーニャって呼んでもらえませんか?」
おずおずと切り出す受付のドジっこお姉さんことアーニャ。
「分かった。アーニャ、この辺のギルドで有力なギルドってどこなんだ?」
「は、はい!【宵の守護者】ですね!ギルドランクは7です。ギルドのリーダーは公国の元騎士で、実力や評判はこの辺でダントツですね!」
アレスに名前で呼んでもらえたことで顔を赤らめているアーニャは嬉しそうに返事をする!
「そうなんだ。でも、なんで騎士をやめたんだろな?」
「なんでも・・騎士を辞めさせられたみたいですよ?詳しい話は知りませんが・・・。それでもこの国を守るためにギルドを立ち上げて、いざって時にこの国を守りたいっておっしゃってましたよ。」
「そうか・・今度ぜひ会ってみたいものだな。」
「そうですね、よくこのギルドにいっらしゃいますので、そのうち会えると思いますよ?」
「ありがとう!今度紹介してくれ。」
(【宵の守護者】・・・か。うまくいけば、王国に打ち込む楔になるな。)
そうアレスが考えていると、ドタン!と大きな音を立ててギルドの扉が開けられる。
「レインは・・!?????」
息を荒げながらユフィとソフィがギルドに帰ってきたのだ。
「レインはまだ来ていないけど・・ってもう討伐してきたのか!?」
「ふふーん。こんなの余裕よ!」
そういってエッヘンと自慢気に胸を反らすユフィ。
「あ、あのこれが討伐した証明になる部位です・・・。これでいいんですよね?」
そう言いながらソフィが魔物を討伐した証明になる部位を袋から取り出す。
「えっと・・失礼します。」
そう言いながらアーニャはその部位を確認した。
「たしかに・・・間違いないですね。というか、アレスさん!この子達に単独で魔物を討伐させたんですか!??」
「あぁ。こいつらの実力は俺が認めているからな。」
「す、すごいですね・・、こんなに小さくて可愛らしいのに・・。」
「だろ?自慢の弟子なんだ。」
そういってアレスはユフィとソフィの肩を抱き寄せた。
「ちょ、ちょっと子ども扱いしないでってば!」
「・・・・。」
そう言いながらジタバタするユフィと、頬を赤らめながらうつむくソフィ。
(ほんとに、こいつらの将来が楽しみだ。)
「そろそろ日も暮れるし、メシにでもするか!」
魔物討伐の成功報酬をもらったアレス達は寄るご飯を食べ、宿に帰った。
ユフィとソフィが別の部屋ですやすやと寝息を立てた頃・・・・
「キングー・・・ひどいっスよ。ギルドで待っていてくれるって言ったのに・・・。」
「あ、わるい・・・。忘れてた・・・。」
レインが肩をうだなれながら宿に帰ってきた。
「今日の勝負は無理ッスよ〜ユフィ・ソフィの姉御はフツーに強いですし、二人ですし、魔法での索敵もできますし・・・。」
「・・・・。よく聞け、レイン。ユフィとソフィについて、あいつらの人生は今までどうだったと思う?」
「え・・と?あんまり詳しい話は聞いてないですけど、そりゃ辛い人生だったと思いますよ?」
「あぁ。魔族とのハーフってことで、人間にも魔族にも誰にも認められてこなかったんだ。おそらく俺たちが想像できないような人生を歩んできたんだ。」
「・・・そう、ですね。」
「だからな、俺はまずユフィとソフィには自信を持って欲しいんだ。私たちには力があるんだ、ここにいていいんだって・・。」
「・・・キング。」
「レインには迷惑かけると思うけど、レインもユフィとソフィのことを見守って欲しいんだ。」
「そういうことなら。分かりました。」
「これからも迷惑かけるけど、頼むぜレイン。」
「了解ッス!」
これはアレスの本心である。ユフィとソフィにはこの【ライオン】が心の拠り所になって欲しいと思っている。
また、レインのことも信頼している。根がまっすぐだし、魔族とのハーフであるユフィ・ソフィの面倒もよく見てくれている。
(なかなか言葉にすることはためらわれるが、たまにはこうやって言葉にすることも大事だよな。)
こうして、アレスとレインの男の友情が深まった一夜であった。




