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公爵令嬢に生まれたので断罪に備えていたら、なぜか王国最強になっていました  作者: 玉響すばる


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第63話 進級試験に受かれば準王国騎士団制服が与えられるそうですけれど、合格した瞬間から仮出向が近いのは少々心の準備が要りますわね

 二年次進級試験は、始まってしまえば思っていたより静かだった。


 もちろん、重くないわけではない。

 むしろかなり重い。

 だが、二年生だけで閉じた試験ではないからこそ、変な緊張が削がれる部分もある。


 三年生は卒業試験の只中にいる。

 二年生はその駒として組み込まれる。

 つまり誰もが、自分だけを見ていられるほど暇ではない。


 それが、妙に良かった。


 実際に始まってみると、試験はかなり露骨だった。


 総合訓練。

 基本戦術。

 地形理解。

 伝達。

 役割の切り替え。

 そして何より、“三年生の意図をどこまで理解して動けるか”。


 そこが本当に見られていた。


 三年生の指示は短い。

 短いが、短いだけではない。

 その背後にある意図まで汲める二年と、ただ命じられたから動く二年とでは、明らかに全体の質が変わる。


 私はそのことを、試験の最中に何度も実感した。


 右へ振られた時、ただ右へ行くのでは足りない。

 なぜ右なのか。

 そこで何を受けるのか。

 その位置で自分が何を見ておくべきか。


 それが分かっていないと、三年の指示は細くなり、全体が鈍る。


 逆に、そこまで分かって動けた時、三年の言葉は驚くほど少なくて済む。


 それはかなり面白かった。


 嫌ではありましたけれど。


 レオンは、二年の終わりにふさわしく、ようやく“前へ出たい気持ち”を“前へ出るべき場面”へ絞れるようになっていた。

 イリーナは鋭さを残したまま、三年の意図へ自分を噛み合わせるのが以前よりはるかに上手くなっていた。

 カイルは、相変わらず静かだが、今ではもう“静かなだけ”ではない。

 必要な圧を、必要な瞬間だけ前へ出せる。


 そして私は、見えたものを全部拾わず、それでも意図は落とさない、という一番面倒な位置に少しずつ立てるようになっていた。


 試験の終盤、三年生の一人が私へこう言った。


「ヴァルツェン」


「はい」


「一年前のお前なら、ここで自分で片づけに行っていたな」


 私は一拍だけ置いてから答えた。


「ええ。たぶん」


「今は行かなかった」


「その方が全体がましでしたもの」


 三年生は少しだけ口元を動かした。


「理解してるなら十分だ」


 その言葉は、かなり重かった。


 試験が終わった時、二年生たちは皆、それぞれに疲れていた。

 だが一年次最終試験の時とは違う疲れ方だった。


 自分が崩れるかどうか、ではない。

 役割の中で、自分がどこまで機能したか。

 そこを問われた疲れ方だ。


 広場へ戻って整列した時、準王国騎士団服を着た三年生たちの背が、以前よりさらに近く見えた。


 あと一年。


 そこへ至るのだ。


 そう思うと、さすがに少しだけ胸の奥が重くなった。


 講評は短かった。

 だが、短いからこそ深かった。


「三年は、まだ足りぬ」

「二年は、ようやく“意図を受けて動く”入口へ立った」

「命じられた通り動くだけの者は、来年死ぬ」

「意図を読みすぎて勝手になる者も、やはり死ぬ」


 まことにその通りである。


 主教官は最後に言った。


「三年進級判定を行う」


 広場の空気が、少しだけ張った。


 二年から三年へ。

 それは一年から二年へ上がる時とは、明らかに意味が違う。


 三年は、もう学校の最上級だ。

 しかもその中で、三か月ごとに王国騎士団への仮出向がある。


 つまり、進級した瞬間に“外”が現実になる。


 進級判定は、一人ずつ名が呼ばれた。


 レオン。

 呼ばれた。

 返事のあと、ほんの少しだけ肩が落ちる。

 イリーナ。

 呼ばれた。

 顔は変わらないが、目だけ少し細くなる。

 カイル。

 呼ばれた。

 静かに出て、静かに戻る。


 そして私の名も呼ばれた。


「ルクレツィア・フォン・ヴァルツェン」


「はい」


 前へ出る。

 礼。

 顔を上げる。


「三年進級を認める」


「ありがとうございます」


 短い。

 だが、十分だった。


 その瞬間、私はようやく少しだけ実感した。


 ああ。

 本当に、ここまで来たのですわね。


 二年の終わりは、思った以上に静かだった。

 だが、その静けさの奥で、確かに大きなものが動いていた。


 主教官は続けた。


「進級合格者には、準王国騎士団制服を貸与する」


 広場の空気が変わる。


 来ましたわね。


 二年進級の時に騎士学校制服を受け取った時も重かった。

 だが、今回はそれとは比べものにならない。


 準王国騎士団制服。


 名前からしてもう重い。

 しかもそれは、単なる上級生の衣ではない。

 王国騎士団そのものの手前に立つ者の衣だ。


 補助教官たちが包みを運んでくる。

 一人ずつ手渡される。

 布地。

 裁ち方。

 色味。

 留め具。

 徽章。

 騎士学校制服と似ている部分はある。

 だが、似ているからこそ違いが分かる。


 こちらの方が、明らかに外へ向いている。


 私は包みを受け取った瞬間、無意識に少しだけ息を止めていた。


 ……重いですわね。


 本当に。


 主教官が全体へ言う。


「三年生は、もはや学校の内側だけで完結する者ではない」


 ええ。

 そうでしょうね。


「準王国騎士団制服は、見習いの飾りではない。仮出向を前提とした立場の衣だ」


 それは、そのまま胸へ落ちた。


 仮出向を前提とした立場。

 つまり、この制服は“いずれ行く”ためのものではない。

 “すぐに行くかもしれない”者のものなのだ。


 そして案の定、主教官は次にそれを告げた。


「なお」


 広場が静まる。


「三年生は三か月ごとに、学年の四分の一ずつ王国騎士団へ仮出向する」


 知っていた。

 知っていたが、今の立場で聞くと違う。


「最初の仮出向組は、進級直後より選抜する」


 沈黙。


 かなり露骨な沈黙だった。


 レオンが横で、小さく本気の声を出す。


「……早すぎるだろ」


 私は同意した。

 かなり。


 イリーナが低く言う。


「つまり、受かった瞬間から“すぐ行くかもしれない”ってことね」


「ええ」


 カイルは何も言わなかった。

 だが、その無言は今までで一番重かった。


 主教官は容赦なく続ける。


「全員がすぐに出るわけではない。だが、最初の組に入る者もいる」


「選抜基準は、成績、適性、総合訓練評価、指揮理解、役割理解」


 そこまで聞いて、私は少しだけ現実味を持った。


 なるほど。

 つまりこれは“いつか行く”話ではなく、“もしかすると明日にも順番が来る”話ですのね。


 その感覚は、二年進級時とは決定的に違った。


 騎士学校制服の時は、重かったが、まだ学校の中だった。

 準王国騎士団制服は違う。

 着た瞬間から、そのまま外へ出される可能性がある。


 かなり面倒で。

 かなり本質的で。

 そして、かなり良い。


 主教官は最後に、短く言い切った。


「三年生は、準備された者から出る」


 それだけだった。

 だが十分すぎた。


 解散後、広場の空気は妙に静かだった。

 喜びがないわけではない。

 進級は嬉しい。

 制服も重いが誇らしい。


 だが、その喜びのすぐ隣に、“もう外へ近い”という現実が座っている。

 だから浮ききらない。


 レオンが包みを抱えたまま言う。


「なあ」


「何かしら」


「三年進級って、もっとこう、少し喜ぶ時間あるかと思ってた」


「ええ」


「全然ないな」


「仮出向がすぐですもの」


「だよな……」


 イリーナは準王国騎士団制服の包みを見下ろしながら言う。


「これ、着たらもう本当に“そのつもり”でいなさいってことなのよね」


「ええ」


「嫌?」


「少々」


 私は答えた。


「ですが、嫌だから違うとも言えませんわ」


 カイルが静かに言う。


「三年は、そういう年なんだろ」


 その通りだった。


 私たちは寄宿舎へ戻り、それぞれに新しい制服を広げた。


 私は自室で、準王国騎士団制服へそっと手を触れた。


 騎士学校制服の時も思った。

 だが今回は、それよりさらに明確だった。


 これは、衣服というより予告だ。


 近いうちに、外へ出る。

 王国騎士団へ繋がる。

 その前提を、布の形で常に身につける。


 よろしい。


 かなり重いですけれど、分かりやすいですわね。


 その夜、私は記録帳を開いた。


 二年次進級試験合格。

 三年進級を認められた。

 そして準王国騎士団制服を貸与された。

 重い。

 かなり重い。

 騎士学校制服よりさらに外へ向いている。

 三年生は三か月ごとに学年の四分の一ずつ王国騎士団へ仮出向する。

 最初の仮出向組は進級直後より選抜される。

 つまり、合格した瞬間から“すぐに外へ出るかもしれない者”になる。


 そこまで書いて、私は少し手を止めた。


 それから、最後に一行だけ静かに足した。


 どうやら三年進級とは、“ようやく最上級生になった”ではなく、“もう王国騎士団への接続が始まった”ということのようですわね。


 ……かなり重いですけれど、嫌いではありませんわ。


 私は羽根ペンを置き、準王国騎士団制服を静かに見た。


 よろしい。


 ここまで来たのだ。

 ならば、重さごと受け取るしかない。


 その先が近いというだけの話である。


 ――こうしてルクレツィア・フォン・ヴァルツェンは、二年次進級試験に合格し、ついに準王国騎士団制服を貸与されるとともに、三年生として三か月ごとに王国騎士団へ仮出向する現実が、進級したその瞬間からすでに始まっていることを、静かに、しかし確かに理解するのだった。

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