第62話 二年次は思っていた以上に速く過ぎ、気づけばわたくしたちは三年生の卒業試験の駒になるらしいですわ
二年次は、一年次とは違った速さで過ぎていった。
長くないわけではない。
軽くもない。
むしろ、一日一日だけ見れば一年次よりずっと重い。
だが、その重さの質が違ったのだ。
一年次は、何もかもが新しかった。
剣。
行軍。
野営。
部分鎧。
狭窄地。
班。
指揮官役。
そのたびに止まり、そのたびに崩れ、そのたびに“何が足りないのか”を見せつけられる。
だから時間が太かった。
二年次は違う。
槍。
弓。
歩兵連携。
騎馬前提の理解。
役割の変化。
三年との合同総合訓練。
準王国騎士団服の重さ。
三か月ごとに実地訓練へ出る三年生たちの不在と帰還。
それらはどれも重い。
だが、もう“何も知らないところへ一つずつ刺さる”感じではなかった。
前提の上に積み上がる。
前提があるから、流れが速い。
だから気づけば、季節が一つずつ抜けていた。
春の終わり、三年生と初めて混じった総合訓練では、準王国騎士団服の重さに目を奪われた。
夏には、それがもう“遠い未来”ではなく“来年の現実”として見え始めた。
三年生は教える。
二年生は学ぶ。
だがそれだけでは終わらない。
三年生が三か月ごとに四分の一ずつ王国騎士団へ出ていくたび、合同訓練の空気が変わるのだ。
実地へ出る前の張り。
帰ってきた後の静けさ。
それは説明ではなく、気配として残る。
帰還した三年生たちは、別人になるわけではない。
だが、一つだけ何かが減っている。
迷いではない。
余計な力だ。
歩く時の無駄。
見る時の揺れ。
指示の言い淀み。
そういうものが、少しずつ削れて戻ってくる。
それを間近で見続ける二年次は、かなり教育的だった。
エルザは夏を越えて戻ってきた時、前よりさらに短い言葉で人を動かすようになっていた。
ハルトヴィヒは秋の終わりに戻ってきた時、以前よりも“自分で前へ出るべき場面”と“他人へ渡す場面”の切り分けが鮮やかになっていた。
それを見るたび、私は理解した。
三年次は、ただ上級生になるのではない。
学校の内側から、王国の外側へ接続される一年なのだ。
それはかなり重い。
そして、かなり面白い。
二年次の私は、そこで少しずつ変わった。
一年次の課題は、“見えるものを拾いすぎる”だった。
二年次の課題は、“見えるものをどう渡すか”へ変わった。
つまり、強さの方向が少し変わったのだ。
自分が崩れない。
そこから始まる。
だが二年次では、それだけでは足りない。
隣を生かす。
前を急がせすぎない。
後ろが遅れた時に、どの一言を置くかを選ぶ。
指揮官役の時、全部を言わずにどこまで伝わるかを見る。
一兵の時、自分の判断を殺しすぎず、それでも勝手にはならない。
かなり面倒で。
かなり良かった。
レオンは二年の夏を越えたあたりで、ようやく“隣を信用して前へ出る”ことを覚え始めた。
イリーナは鋭さをそのままに、“一人で二人分やらない”ことを身体へ入れ始めた。
カイルは静かなまま、必要な時だけ前へ圧を出すことを覚えた。
そして私は、少しだけ“言わない強さ”を覚えた。
見える。
だが全部は言わない。
言わないことで、相手が自分で拾う余地を残す。
それが出来た時、班も隊列も、前よりずっとましになった。
秋の終わり頃には、合同訓練の教官からこう言われた。
「ヴァルツェン」
「はい」
「ようやく“見える者”から、“見えても渡せる者”へ寄ってきたな」
それはかなり重い褒め言葉だった。
私は静かに礼をしながら、少しだけ嬉しかった。
よろしい。
嫌な二年でしたけれど、かなり良い二年ですわね。
もちろん、剣も消えなかった。
むしろ逆だ。
二年次になると、剣は“個人の武器”としてだけではなく、“他の全部を知ったうえで、それでも最後に握るもの”へ変わっていく。
槍を知る。
弓を知る。
騎馬前提を知る。
歩兵隊列を知る。
地形を知る。
役割を知る。
その全部のあとで、それでもなお剣を握るなら、最初よりずっと意味が重くなる。
私はそれを、二年の冬にようやく理解した。
剣だけでは足りない。
だが、剣が不要になるわけでもない。
つまり、剣は世界の中心ではない。
だが、状況の最後に残ることがある。
そういう理解へ少しずつ変わっていった。
冬季休暇が終わり、再び戻った頃には、もう二年の終わりが見え始めていた。
その頃になると、三年生たちの空気も変わる。
実地訓練へ出るだけの人たちではない。
卒業が見えてくる。
準王国騎士団服の意味が、また少し変わるのだ。
“手前の服”から、“ほとんど向こう側の服”へ。
それを見ながら、私は少しだけ考えるようになった。
来年。
三年。
実地。
王国騎士団。
その時、自分はどういう顔でそこへ立つのだろう。
そう思う頃には、二年次ももう終盤だった。
そしてある日、主教官が全体を集めて言った。
「二年次進級試験を行う」
広場が静まる。
気づけば、その話をされる位置まで来ていた。
時間とは妙なものである。
「内容は、三年生卒業試験の一部として組み込む」
そこで、空気がわずかに動いた。
レオンが横で小さく息を呑む。
イリーナが眉を寄せ、カイルはただ前を見ていた。
私は静かに理解した。
……なるほど。
そうなりますわよね。
主教官は続ける。
「お前たちは、三年生の卒業試験における一部の駒となる」
言い方は容赦がない。
だが、まことにその通りなのだろう。
「総合訓練、基本戦術、役割理解、伝達、判断」
「三年生は、それらを“教える側・回す側・通す側”として見られる」
「二年生は、それらを“理解し、受け、機能できる側”として見られる」
良い。
かなり本質ですわね。
「勘違いするな。お前たちは添え物ではない。三年の試験に組み込まれるからこそ、二年としての理解度が露骨に出る」
そこが一番重かった。
つまり、二年次進級試験とは、二年だけで閉じた試験ではない。
三年生がどこまで卒業に値するかを見る枠組みの中で、二年生が“ちゃんと駒として機能するか”まで見られるのだ。
それはかなり嫌で。
かなり良い。
レオンがぼそりと言った。
「駒、って言われるとちょっと腹立つな」
「ええ」
私は頷いた。
「ですが、間違ってもおりませんわ」
「お前、そのへん本当に容赦ないな」
イリーナが腕を組む。
「でも分かる。二年だけでやるより、そっちの方が“どこまで通じるか”がはっきり出るもの」
「ええ」
カイルが静かに言う。
「三年の足を引くのか。三年が通せるのか。二年が理解して動けるのか。全部一度に出る」
その通りだった。
主教官は最後に、かなり嫌らしく、しかし極めて教育的な締めを置いた。
「二年次で見るのは、三年生の指示で動けるかどうかだけではない」
「その指示が何を意図しているかを、どこまで理解して動けるかだ」
私はそこで少しだけ目を細めた。
そこですのね。
命じられたから動く、では足りない。
なぜそこへ置かれたか。
なぜそこを切られたか。
なぜ自分がその役にされたか。
それが分かっていなければ、三年次へ上がってから、今度は自分が“回す側”になれない。
つまりこの試験は、二年の締めであると同時に、三年の入口でもあるのだ。
かなり良い。
かなり嫌ですが。
解散後、レオンが言った。
「なあ」
「何かしら」
「二年、ほんとに終わるんだな」
「ええ」
「早くなかったか」
私は少し考えた。
そして、頷いた。
「ええ。かなり」
イリーナが低く言う。
「一年の時みたいに、一つずつ止まらなかったものね」
「そうですわね。全部が繋がっていたから、流れが速かったのですわ」
カイルが小さく続ける。
「だからこそ、気づいたら今なんだろ」
その通りだと思う。
二年次は、さらっと流れたわけではない。
重かった。
深かった。
だが、全部が前提の上へ乗った。
だから、時間の見え方が速かったのだ。
その夜、私は記録帳を開いた。
二年次は、思っていた以上に速く過ぎた。
槍、弓、歩兵、騎馬前提、合同総合訓練、三年生、準王国騎士団服、実地訓練への派遣。
全部が前提の上へ乗り、全部が繋がっていた。
そして二年次進級試験は、三年生卒業試験の駒として行われる。
総合訓練、基本戦術、理解度、役割、伝達、判断。
二年として“通じるか”が見られる。
そこまで書いて、私は少しだけ手を止めた。
それから最後に、一行足す。
どうやら二年次の終わりでは、“自分が何を出来るか”ではなく、“三年生の意図をどこまで理解して機能できるか”まで試されるようですわね。
……かなり嫌で、かなり良い締めですわ。
私は羽根ペンを置き、静かに息を吐いた。
よろしい。
二年次は流れた。
だが、流れた分だけ、ちゃんと積まれている。
ならば次は、その積み上がりが本物かどうかを見るだけだ。
――こうしてルクレツィア・フォン・ヴァルツェンは、二年次という“全部が繋がり、全部が前提の上へ乗る”一年を駆け抜け、その締めとして待ち受ける“三年生卒業試験の駒として組み込まれる二年次進級試験”という、嫌だが極めて本質的な関門へ向けて、また静かに意識を研ぎ澄ませていくのだった。




