表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢に生まれたので断罪に備えていたら、なぜか王国最強になっていました  作者: 玉響すばる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/106

第61話 二年次前期課程が始まりましたけれど、三年生が準王国騎士団服を着ていると、さすがに「次」が近いのだと分かりますわね

 冬季休暇という名の冬季練成を終え、私は再び王国騎士学校へ戻ってきた。


 戻る、というより、もうこの感覚は“再び入る”ではない。

 続きへ接続される、と言った方が近いのかもしれない。


 騎士学校制服はすでに身体へ入っている。

 冬の間に、その重さも立場も少しずつ自分の型へ馴染ませた。

 だから今回の帰校には、去年のような揺れがない。


 良い。

 かなり良い。


 だが同時に、門をくぐった瞬間、私は一つはっきり理解した。


 二年次は、一年次の延長ではありませんわね。


 空気が違うのだ。


 張り方が違う。

 歩いている者たちの見え方が違う。

 視線の通し方も、立ち止まり方も、どこか一段だけ現実へ近い。


 そしてその違いの中心にいたのが、三年生だった。


 準王国騎士団服。


 それが、まず目に入った。


 騎士学校制服とは違う。

 明らかに違う。

 形は似ている。

 だが、意味が違う。


 学校の中の服ではなく、外へ接続された服。

 王国騎士団そのものではない。

 だが、その手前まで来た者の服。


 なるほど。


 さすがに、重いですわね。


 私は中庭を横切りながら、自然とその人たちを見ていた。

 肩。

 腰。

 剣の位置。

 歩幅。

 そして、立っているだけで薄く漂う“見られることに慣れている”気配。


 一年次に見た三年生とも違う。

 距離のせいではない。

 今の私が二年生になったからこそ、その違いが見えるのだろう。


 その時、横から声がした。


「見てるな」


 レオンだった。


「ええ」


「分かりやすいくらい見てる」


「だって、分かりやすく違いますもの」


 イリーナも合流してきて、小さく息を吐く。


「準王国騎士団服、やっぱり嫌な感じね」


「嫌な感じ?」


「近いってことよ。学校の訓練じゃなくて、外の現実に」


 その表現はかなり正しかった。


 カイルが少し遅れて来て、三年生の一団を見たまま言った。


「三年の四分の一は、今期も王国騎士団に出るらしい」


「三か月ごとでしたわね」


 私が言うと、レオンが眉を上げる。


「そこまで覚えてるのか」


「当然ですわ」


 三年生は、三か月ごとに学年の四分の一ずつ王国騎士団へ派遣される。

 実地訓練。

 現場。

 王国の側の規律と速度と現実。


 それを知識として知っていた。

 だが、準王国騎士団服を着た三年生を目の前で見ると、その情報が急に質量を持つ。


 つまり彼らは、もう学校の中だけで完結していないのだ。


 主教官による二年次前期課程開始の説明は、去年より短かった。


 たぶん、もう一年生のように一から言う必要がないからだろう。


「二年次前期課程に入る」


 広場が静まる。


「ここからは、三年次前期課程と合同で総合訓練を行う」


 その一言で、空気が一段変わる。


 合同。

 三年と。

 つまり、“教えられるだけの二年”では済まない。


 主教官は続けた。


「三年は二年に教える」

「二年は三年に学ぶ」


 簡潔で、重い。


「だが勘違いするな。三年が一方的に与えるだけではない。二年が三年を見ることにも意味がある。自分が一年後、どこへ立つかを見ろ」


 非常によろしい。


 私はかなり真面目に頷いた。


 それは重要だ。

 教えられる内容だけではない。

 立ち方、見る位置、余計な力の抜け方、指示の短さ、待ち方。

 そういうものまで見える。


 主教官は、さらに本質を置いてきた。


「三年は、教えることで自分の理解を晒す」

「二年は、学ぶことで自分の未熟を晒す」

「合同とは、そういうことだ」


 良い。

 かなり良い。


 耳に優しくないが、信頼できる。


 その日の最初の訓練は、導入としての混成小隊運動だった。

 二年と三年を混ぜ、歩兵前提の基礎移動、停止、変換、報告、役割交代を見る。


 剣の試合ではない。

 槍だけでもない。

 弓だけでもない。

 騎馬もまだ入らない。


 だが、そのどれへも繋がる“総合訓練の土台”だった。


 私の班へ入った三年生は二人。

 一人は長身の男性で、名をハルトヴィヒという。

 もう一人は、目つきの鋭い女性で、名をエルザと言った。


 どちらも準王国騎士団服がよく似合っていた。

 だが、似合うだけではない。

 “着ている”ではなく、“それで動く者”として見える。


 やはり重いですわね。


 ハルトヴィヒが最初に言った。


「二年は前へ」


 声は強くない。

 だが通る。

 余計な力がない。


 私たちは素直に前へ出た。

 レオン、イリーナ、カイル、そして私。

 そこへ三年生が後ろから配置される。


 なるほど。

 まずは二年の今を見たいのですわね。


 エルザが言う。


「最初に確認する。二年は、出来ることを見せようとしなくていい」

 少し間が置かれる。

「出来ていないことを隠すな」


 私はそこで、少しだけ笑いそうになった。

 良い言葉だ。


 ハルトヴィヒが続ける。


「三年は教える。だが、代わりにやらない。二年が崩れたら崩れたで止める。そこを誤魔化すな」


 その言葉で、私の中に一つの納得が落ちた。


 ああ。

 この合同訓練、かなり良いですわね。


 三年は教える。

 だが介護はしない。

 つまり、“見本”と“現実”の境目をちゃんと保つつもりなのだ。


 訓練はすぐに始まった。


 小隊としての前進。

 停止。

 左右への開き。

 前後の入れ替え。

 伝達。


 一年次後期で学んだ戦術理解が、ようやく“自分の足でやるもの”として入ってくる。


 すぐに分かった。


 三年生は速い。


 速いというのは脚だけではない。

 認識が速い。

 遅れを拾うのが速い。

 だが、拾いながら自分の動きを殺していない。


 そして二年のこちらは、やはりまだそこが遅い。


 レオンは合図への反応が早い。

 だが、横を見ると一拍薄くなる。

 イリーナは鋭く入る。

 だが、集団の中で鋭さを出す量の調整がまだ粗い。

 カイルは安定している。

 だが、安定しているがゆえに前へ出るべき時の圧が薄い。


 私は私で、やはり見えるものを拾いすぎる。


 最初の数本で、それがすぐ出た。


「ヴァルツェン」


 エルザが言う。


「はい」


「見えてるわね」


「ええ」


「でも見えたもの全部に反応しようとしてる」


 鋭い。

 かなり鋭い。


「二年の癖としては悪くない。けど三年へ上がる前に、それを整理しないと死ぬ」


 私は一拍だけ置いて、頷いた。


「はい」


 ハルトヴィヒが別方向から言う。


「レオン」


「はい」


「お前は前へ出る時、隣を信用しろ」


「……はい」


「イリーナ」


「はい」


「その鋭さはいい。だが、今の量だと二人分だ」


 イリーナが少しだけ嫌そうな顔をしながらも頷く。


「……はい」


「カイル」


「はい」


「安定している。だが、それだけだと“崩さない者”で終わる」


「……はい」


 かなり良いですわね。


 駄目出しではない。

 だが甘くもない。

 “今の二年に足りないもの”を、的確に切ってくる。


 それを聞きながら、私は理解した。


 三年は二年に教える。

 だが同時に、三年の“今の水準”を見せてもいるのだ。


 それが一番大きい。


 訓練の途中、三年生だけで見本が入った。


 四人。

 槍二、剣一、弓想定一。


 距離。

 位置。

 伝達。

 詰まりそうなところでの処理。


 派手ではない。

 だが、明らかに無駄が少ない。


 そして何より、声が短い。


「左、半歩」

「前そのまま」

「引くな」

「替わる」


 それだけで回る。

 かなり嫌ですわね。

 いや、良い意味で。


 レオンが小さく言った。


「……嫌になるな」


「ええ」


 私も頷いた。


「かなり」


 イリーナが低く言う。


「でも、見える。何を減らせばあそこへ近づくか」


 その言葉に、私は少しだけ目を細めた。

 良い。

 かなり良い。


 午後、休憩を挟んでからは、三年生が二年へ個別に武器と役割の見方を教える時間へ入った。


 私はハルトヴィヒに槍を見てもらい、エルザに“前へ出すぎない見方”を矯正されることになった。


「お前」


 エルザが真顔で言う。


「強いわね」


「ありがとうございます」


「でも、強い者が全部見えるとろくなことにならないのよ」


 ……本当に、その通りですわね。


「見えることと、全部拾うことは違う」

「はい」

「指示を出す時も同じ。三つ見えても、一つしか言わないことがある」

「ええ」

「なぜだと思う?」


 私は少し考えた。

 そして答える。


「人は、一度に全部は拾えませんもの」


 エルザは頷いた。


「そう。あともう一つ」

「何でしょう」

「三つ全部言った瞬間、お前が全部を管理する側になる。すると、下が自分で見るのをやめる」


 その言葉は深かった。


 かなり深かった。


 私はそこで、前期からずっと自分が抱えていた課題の輪郭が、もう一段はっきりした気がした。


 見える。

 だから拾う。

 だが、拾いすぎると周囲の目を殺す。


 つまり二年次前期課程の総合訓練とは、“自分が上手くやる”から、“周囲が上手くなる余地を残す”へ進む訓練でもあるのだ。


 それはかなり面倒で。

 かなり大事だった。


 夕方、訓練が終わったあと、レオンがぼそりと言う。


「三年、やっぱり違うな」


「ええ」


「準王国騎士団服、見た目だけじゃない」


「当然ですわ」


 イリーナも頷く。


「教える時に、妙に短いのよね」

「ええ」

「しかも、それで足りるのが腹立つ」


 カイルが静かに言った。


「足りるように見てるんだろ」


 その通りだと思う。


 私はその夜、記録帳を開いた。


 二年次前期課程開始。

 三年次前期課程と合同で総合訓練へ入る。

 三年生は準王国騎士団服着用。

 やはり重い。

 そして、やはり違う。

 三年は二年に教える。二年は三年に学ぶ。

 三年は三か月ごとに学年の四分の一ずつ王国騎士団へ派遣される。

 だからこそ、教え方も見られ方も、すでに学校の中だけではない。


 そこまで書いて、少しだけ考えた。

 そして最後に一行足した。


 どうやら二年次前期課程は、“自分が強くある”だけでなく、“見えるものをどこまで他人へ渡せるか”まで学ぶ課程になりそうですわね。


 ……かなり面倒で、かなり良いですわ。


 私は羽根ペンを置き、制服の袖を軽く払った。


 よろしい。


 三年生は、遠すぎない。

 だからこそ重い。

 だからこそ見える。


 ならば今は、見えるだけ見て、要るものを拾うだけだ。


 ――こうしてルクレツィア・フォン・ヴァルツェンは、二年次前期課程の開始とともに、三年次前期課程と合同で行われる総合訓練へ入り、準王国騎士団服を着た三年生たちの“外へ繋がる強さ”を間近で見ながら、自分もまた二年生として“ただ学ぶ者”から一段進んだ立場へ足を踏み入れていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ