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公爵令嬢に生まれたので断罪に備えていたら、なぜか王国最強になっていました  作者: 玉響すばる


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第44話 レオン、わたくしは別に“問題児”ではなく、少々先回りしているだけですわ

 騎士学校へ入学して一週間が過ぎた頃、私はようやく一つ理解した。


 この学校では、目立つことそのものより、目立ち方の方が問題になる。


 強い者はいる。

 速い者もいる。

 家格が高い者も、地方で名を売ってきた者もいる。

 だから“少し出来る”程度では、すぐに風景へ埋もれる。


 だが、その中で


 妙に整っている。

 妙に待てる。

 妙に言うことが少しズレている。


 そういう者は、別の意味で目立つ。


 ……心外ですわね。


 私はただ、必要だから積み、必要だから考え、必要だから口にしているだけなのだが。

 それでも周囲からすると“妙に厄介な新入生”に見えるらしい。


 その日は朝から組対組の基礎連携だった。


 二人一組ではなく、四人一組。

 つまり、自分と相手だけを見ていれば済む段階から、横と後ろの流れまで意識しなければならない段階へ入ったのである。


 良い。

 かなり良い。


 こういうのは好きだ。


 私の組は、私、レオン、イリーナ、そしてカイルという無口な少年の四人だった。

 カイルは平民出身らしい。

 背は高くないが足が静かで、無駄に喋らない。

 私はこの手の人は嫌いではない。


 教官が前へ立つ。


「今日から少し連携を見る」


 短い。

 だが十分だった。


「個人で出来るだけでは足りん。横の遅れ、前の焦り、後ろの詰まり、それを見ろ」


 まったくその通りですわね。


「四人で流れを作る。誰か一人だけ綺麗でも意味はない」


 そこで教官の目がこちらを一度通る。

 露骨ではないが、かなり分かりやすい。


 分かっておりますわ。

 つまり“ヴァルツェン、お前のことだ”という意味ですわね。


 私は列の中で静かに頷いた。


 最初の数本は、案の定うまくいかなかった。


 レオンは前へ出るのが少し早い。

 イリーナは鋭いが、横の遅れにいらつくと気配が前へ寄る。

 カイルは悪くないが、遠慮して合わせすぎる。

 そして私は私で、全体を見ようとしすぎて最初の二本は少し受けに寄りすぎた。


 つまり、全員それぞれに問題がある。


 悪くない。

 非常に健全である。


「止め」


 教官の声が飛ぶ。


「今の四本、何が悪い」


 誰もすぐには答えなかった。

 これは良くない沈黙だ。

 考えているというより、押しつけ先を探している沈黙である。


 だが、ここで私が先に全部言うのは得策ではない。

 それをやると、確実に面倒な空気になる。

 ……いや、もうなっているかもしれないが、それでも悪化は避けたい。


 レオンが先に口を開いた。


「俺が少し早かったです」


 よろしい。


 イリーナも続く。


「私も前へ気持ちが寄りすぎた」


「カイル」


 教官が促す。


「……合わせすぎました」


 そこまで出て、ようやく私の番だった。


「わたくしは、全体を見ようとしすぎて、自分の入りが薄くなりましたわ」


 教官は頷いた。


「そうだ。全員それぞれに悪い。だから四人で崩れた」


 その言い方は良かった。

 誰か一人のせいにしない。

 だが、曖昧にも流さない。


「もう一度やれ」


 再開する。


 今度は私は少しだけ変えた。

 全部を拾おうとしない。

 まず自分の基準を置く。

 そのうえで横を見る。


 レオンも少し待つ。

 イリーナも鋭さをそのままに、半歩だけ引く。

 カイルは遠慮を減らす。


 三本目。

 流れがつながる。


 四本目。

 今度はかなり良い。


「止め」


 教官が言う。


「今の方がいい。なぜだ」


 イリーナが先に言った。


「それぞれが自分の位置を保ってから、横を見たから」


「そうだ」


 教官は短く答えた。


「連携は迎合ではない。自分を持ったまま噛み合わせろ」


 それは深く入った。


 迎合ではない。

 まったくその通りだ。


 午前の訓練を終えた頃には、私は一つだけはっきり理解していた。


 この学校での今の課題は、“学校の型へ寄せる”ことそのものではない。

 “自分を消さずに学校の型へ噛み合わせる”ことだ。


 つまり、家で積んだものと、学校の基準をぶつけるのではなく、接続する必要がある。


 面白いですわね。

 かなり。


 休憩に入ると、レオンが木陰へ座り込んだ。

 イリーナもその隣に立つ。

 カイルは少し離れたところで水を飲んでいる。


「なあ」


 レオンが言った。


「お前、さっき途中で変えただろ」


「ええ」


「何を」


「全部を拾うのをやめましたの」


 イリーナが眉を寄せる。


「最初の二本は、あんた一人で四人分見ようとしてたでしょ」


「ええ」


「何でそんなことするのよ」


 私は少しだけ考えた。

 答えは明確だった。


「悪い流れを早めに摘みたかったからですわ」


 イリーナが嫌そうな顔をする。


「やっぱり面倒」


 レオンは笑った。


「でもまあ、気持ちは分かる」


「本当ですの?」


「少しな。俺も先に崩れたくないし」


 そこへ、珍しくカイルが口を開いた。


「でも、先に全部見ようとすると、自分が薄くなる」


 私はそちらを見た。


 良い。

 かなり良い。


「ええ。その通りですわ」


 カイルはそれ以上は言わなかった。

 だが、必要な言葉だけを置く人間は好きだ。


 午後は座学のあと、寄宿舎周辺の当番仕事だった。


 騎士学校はそのあたりも当然のように回ってくる。

 掃除。

 整備。

 物品管理。

 こういうものを下働きとしてではなく、生活の基礎として教えるのだろう。


 私は箒を持ちながら、ふと思った。


 ……これも断罪対策として悪くありませんわね。


 生活能力がある方が強い。

 環境を整えられる方が強い。

 無駄に人へ借りを作らずに済む方が強い。


 理にかなっている。


「また変な顔してる」


 イリーナが言った。


「何かしら」


「今、絶対どうでもいいこと考えてたでしょ」


「どうでもいいことではありませんわ。生活能力もまた重要ですもの」


「どう重要なのよ」


「理不尽に立場を失わないために――」

「またそれ!」


 レオンが笑い、カイルが小さく目を伏せた。

 たぶん笑いを堪えている。


 イリーナは本気で呆れていた。


「ねえ、あんた本当にそれで全部繋がってるの?」


「ええ」


「騎士学校の掃除も?」


「もちろんですわ」


「何でよ」


「部屋が汚いと判断が雑になりますもの」


 沈黙。


 レオンが言った。


「……それは少し分かる」


 イリーナが振り向く。


「あんたまで何なのよ」


「いや、でも散らかってると落ち着かないだろ」


「それはそうだけど」


「ほら」


 私は頷いた。

 レオンはなかなか見どころがある。


 そのやり取りを、少し離れたところから教官が見ていたらしい。


 片づけが終わったあと、教官が私を呼んだ。


「ヴァルツェン」


「はい」


「お前、周囲より少し先に考える癖があるな」


 私は少しだけ首を傾げた。


「そうかしら」


「そうだ」


 即答だった。


「悪いとは言わん。だが、先回りが過ぎると周囲が置いていかれる」


 なるほど。


 それは今日の連携でも出ていた。

 私が四人分を見ようとしすぎたのも、その一つだろう。


「承知いたしましたわ」


「あと」


 教官が少しだけ目を細める。


「お前は別に問題児ではない」


 私は少しだけ目を瞬かせた。

 唐突だった。


「本当ですの?」


「本当だ」


「まあ」


「だが、少々先回りしすぎて面倒だ」


 後ろでレオンが吹き出した。

 イリーナは腕を組んだまま頷いている。

 カイルまで、ほんの少しだけ口元が動いた。


 私はそこで理解した。


 ああ、そういうことですのね。


「レオン」


「何だ」


「わたくしは別に“問題児”ではなく、少々先回りしているだけですわ」


「教官に言われたこと、そのまま言うな」


「事実確認ですもの」


「そこだよ。そこが面倒なんだよ」


 それで皆が少しだけ笑った。


 悪くない空気だった。


 その夜、私は記録帳を開いた。


 四人連携開始。

 連携は迎合ではない。

 自分を持ったまま噛み合わせる必要がある。

 全部を先に拾おうとすると、自分が薄くなる。

 教官から、問題児ではないが少々先回りしすぎて面倒だと言われた。

 悪くない評価ですわね。


 最後に一行足す。


 どうやら騎士学校でも、わたくしの課題は“先に見えすぎる時に、どこまで自分だけで回収しないか”らしいですわ。


 かなり良い。

 課題が明確なのは良いことだ。


 私は羽根ペンを置き、呼吸を整えた。


 よろしい。


 この学校では、強さだけでは足りない。

 噛み合わせる力が要る。

 そして私は、そこをまだ学んでいる途中だ。


 それが分かっただけでも、今日は十分に前進だった。


 ――こうしてルクレツィア・フォン・ヴァルツェンは、騎士学校での集団連携を通して、自分の“少々先回りしすぎる癖”が学校生活でも確かに発揮されていることを知り、問題児ではないが面倒な新入生として、順調に認識を深められていくのだった。

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