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果てなき世界  作者: 影川明空人
第3章
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第98話

第98話


 炎が荒れ狂っていた。グランヴェルの剣が振るわれるたび、赤い魔力が爆ぜる。斬撃はすでにただの剣ではない。炎そのものが刃となり、闘技場の空気を焼いていた。


 轟音と共に炎の斬撃が石床を抉る。ルシアンはそれを紙一重で躱した。身体を傾け、半歩引き、流れるように間合いを外す。だがグランヴェルは止まらない。追撃の踏み込み。炎を纏った剣が再び振り下ろされる。ルシアンは剣を合わせた。刃同士がぶつかり、火花が散る。炎の魔力が重くのしかかる。


 グランヴェルが笑う。


「どうした!」


 炎がさらに膨れ上がる。


「まだだろう!」


 横薙ぎ。突き。振り上げ。炎の剣が嵐のように叩き込まれる。闘技場の空気が熱で歪む。観戦しているヴァルクが腕を組んだ。


「……皇子、完全に本気だな」


 女性護衛も小さく頷く。


「ええ。あそこまで魔力を出しているのは初めて見ます」


 闘技場の中央では炎の嵐が続いていた。グランヴェルの剣が振り下ろされる。爆炎。石床が砕け、破片が弾ける。だが煙の向こうにルシアンの姿はない。


 次の瞬間、風が動いた。ルシアンの足元で空気が渦を巻く。ふわりと身体が流れるように動き、グランヴェルの背後へ回り込む。グランヴェルが振り返る。その瞬間、空気が弾けた。


 バチッ――青白い光が走る。雷。ルシアンの剣の周囲に細い稲妻が走り、空気が震えた。風が渦を巻き、銀髪が揺れる。闘技場の空気が一瞬で変わった。


 エイルの瞳が細くなる。


「……これは」


 ヴァルクも息を呑む。


「風と……雷……」


 ルシアンは静かに剣を構えていた。周囲を巡る風。刃を走る雷。空気そのものが味方しているようだった。


 グランヴェルは数秒黙っていた。そして、ゆっくりと笑う。


「はは……それだ」


 炎が再び剣を包む。赤い瞳が輝く。


「それを待っていた」


 炎が燃え上がる。風が吹き荒れる。雷が弾ける。闘技場の空気が震えた。


「来い!」


 グランヴェルが踏み込む。爆発的な突進だった。炎の剣が振り下ろされる。だがルシアンも動いた。風が爆ぜる。身体が一瞬で加速する。雷が剣を走る。


 刹那。


 剣と剣がぶつかった。


 轟音。炎と雷が衝突し、衝撃波が闘技場を揺らす。結界が激しく光り、空気が裂けた。だがそれで終わらない。剣が離れた瞬間、再び衝突する。金属音。火花。炎。雷。風。剣撃が連続する。踏み込み、斬撃、受け流し、反撃。闘技場の中央で激しい打ち合いが続く。


 ヴァルクが呟く。


「……なんだあの速さ」


 女性護衛も息を呑む。


「剣技が……別次元です」


 グランヴェルが笑う。


「いい! 最高だ!」


 炎の斬撃が叩き込まれる。だが次の瞬間、ルシアンの動きが変わった。風がさらに強くなる。踏み込みが速い。剣が鋭い。打ち合いの中で、ほんのわずかに差が生まれる。


 グランヴェルの瞳が細くなる。


(……速い)


 次の斬撃。受ける。だが押される。さらに押される。


 その瞬間、雷が弾けた。


 ルシアンの剣が滑る。刃の角度が変わる。グランヴェルの剣が弾かれる。


 風が爆ぜた。


 雷が走る。


 そして――風雷の一撃が叩き込まれた。


 衝撃。


 グランヴェルの剣が空へ弾かれる。炎が散る。そのまま身体ごと後ろへ吹き飛んだ。石床を滑り、数メートル先で転がる。


 闘技場が静まり返る。


 ルシアンはゆっくり歩いた。剣を振る。その刃が、グランヴェルの喉元で止まる。


 完全な静寂。


 風が止まり、雷が消え、炎が消える。


 グランヴェルは仰向けになっていた。数秒、ルシアンを見つめる。そして――笑った。


「……はは。負けだ」


 大の字になり、完全に寝転ぶ。


「見事だ」


 ルシアンは静かに剣を下ろした。


 グランヴェルは笑いながら言う。


「気に入った。貴様は面白い」


 赤い瞳がルシアンを見る。


「これからはグランでいい」


 口元を歪める。


「そう呼ぶことを許してやる」


 闘技場の空気は、ようやく静かになっていた。


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